触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□10月  −一難去って、その後は?−
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みんなと向かった駐車場には、なんと日向先生が待っていて、そこで初めてトキヤくんたちがどうやってここまで来たのかを知った。誰にも知られてないとは思ってはなかったけど、まさかこんなに早く彼らが行動を起こすとは予想だにしなかった。だって私がここに来てからそんなに時間は経ってなかったと思うし……。これももしかして、学園長の力というヤツデスカ。

きっとあの時の音也くんの電話がなければ、私はまだ一人であそこにいたかもしれないし、ユニットを脱退することも勝手に決めていたかもしれない。


「ごめんなさい……」

「朔夜が謝る必要はありません。もとはといえば、私がもっと早くに決断していれば避けられたことなのですから」

「それでもみんなに心配かけてしまったのは、」

「心配をするのは悪いことかい? 子羊ちゃんの時のことで言えば、あれは連れて行かれた子羊ちゃんが悪いとでも?」

「あれは七海さんに非なんかありませんっ。それに、あの時と今回は全然状況が違います。後先考えずに行動してしまった僕が悪いんです」


あの時はそこまで意識が回らなかったけど、こうして冷静に考えてみれば、レンくん達はトキヤくんのこと知らなかったから話すに話せなかった。だけど日向先生や学園長は知っているって私は確信を持ってた。彼らに話せないことなら、まず先生たちに相談しに行くべきだったんだ。


「七海の時と同じで、俺達もお前の行動が悪いとは思ってはいない。ただ……俺達を頼ってくれなかったこと、それが寂しくあった。俺達は信用に値しないのか、とな」

「それは違います! でも、それは僕の口から語るべきことじゃなかったから……」

「うん。全部聞かせてもらったからそれはわかるよ。でもそういうことを抜きにしても、頼って欲しかった。なんて思うのは我侭かな?」

「――思い上がってたんです、僕がなんとかしなきゃって……。それに、我侭というならそれは……僕の方だ」


あそこであの話を受けるのは簡単だった。トキヤくんがHAYATOを辞めると知っていたんだから、当然受けたとしても話はいずれ流れたはずだ。だけど知っていても、頷けなかった。自分に嘘はつきたくないし、表面上だけだとはいえ、彼らを裏切るようなことをしたくなかったから。

ユニットを渋っていたトキヤくん達を説得して、「一緒にやりましょう!」なんて言って入ってもらったのに、その自分が抜けたとしても傍にいたいなんて。それもいつか一緒に歌うために、彼らと一緒にいたいだなんて、なんて我侭で強欲だろう。


「けれど私は、嬉しかったですよ。ユニットを抜けたとしても、私達と共にいたいと言ってくれた。そしてそうなっても、必ずいつかは一緒に歌うと言い切ってくれたことが」

「トキヤくん」

「欲を言えば、みんなじゃなくってオレだけと、」

「黙れ、神宮寺」

「なんだよ、聖川。そうだな、もし朔夜が向こうに行ってしまっていたら、オレもあそこでデビューすれば余計な邪魔者もいなくて良かったな」


本気か冗談かわからないいつもの調子でレンくんが言う。そんなやり取りが出来る今が本当に嬉しい。一緒に歌いたい、共に夢を掴みたいと思う仲間がいて、そして相手もそう思ってくれる。

彼らと知り合った当初は、こんなことになるなんて思わなかった。すべてを変えたのは、繋いだのは音楽、そして歌。

本当に、なんて素敵な奇跡なんだろう。


「それよりも……、その、傷のことは……本当なのですか?」

「えっ? ああ、見ますか?」

「なっ!? あの時も気軽にそう言っていたが、婦女子がそう簡単に異性に肌を見せようなどと……!」



なんか真斗くんが慌てて、私が服を捲ろうとするのを止めてくる。やっぱり綺麗なものじゃないし、普通は見たいと思わないか。

そう考えてから、ふと運転席にいる先生に問いかける。


「日向先生」

「どうした?」

「僕の……事件のこととか、この傷。やっぱりアイドルになるには不利ですかね」

「朔夜……君はまさか」


私自身がどう思っていようと、実際デビューして、それを見たり聞いたりした世間やファンがどう感じるかが重要だろう。不快や嫌悪感を与えるものならば、アイドルとして相応しくないと思う。


「それについてだが、前々からどう切り出そうかと思っていたんだがな」

「知ってたんですか!?」


あ、でも考えてみればそうか。社長さんと同じように、事務所からデビューするかもしれない人物、学園の生徒として相応しいのかどうかなんて、すでに身辺調査みたいなことをしても不思議じゃ……あれ? でもそう考えると、私が今こうして学園に通っているということは……。


「何考えてんだか知んねーが、お前が悪いことなんてひとつもねーだろうが。だったら胸張ってりゃいい。俺だってやんちゃな時代もあったってのに、こうしてアイドルやってんだろ? 何も心配することなんてねーよ。

それからその傷だがな……、まぁ、なんでも最近は技術が発達したおかげで、手術痕とかそーゆーの、綺麗に消せるらしいんだが、もしお前が望むならオッサンの知り合いの医者、紹介するが……どうする?」


日向先生がやんちゃって、ちょっと想像出来ないな。なんてったって優しくて、でもたまに厳しい面倒見の良いお兄さんって感じなんだもん。ケンカも強いらしいし。もしかして、だから周りに人がいっぱい集まって、いつのまにかってパターンかな。これと同じ現象、実際に私、身近で知ってるしなぁ。

っと、思考がずれてた。

傷痕か。こうやって尋ねてくれたってことは、きっと私がこれをどう思ってるかも知ってるんだろうな。これにはたくさんの想いが詰まってたりする。それこそ悲しい記憶だったり、ちょっと思い出したくないことも。けれどそれを全部抱えた上で、私はこれを誇りに思ってるから、別にあっても困りはしない。

けれど……そうだな。

これがなくなっても、私と父と母の絆はなくなるわけじゃない。

今の私には父と母以外にも大切な人がいっぱい出来た。夢だって、とっても大きなものを持てたし、私もトキヤくんと同じように新しい一歩を踏み出すのもいいかもしれない。


「うーん、そうですね。それじゃあ、デビューが決まったらその時はお願いします。そうすればヘソ見せだって、どんな要求にも応えられますからね〜。最近のアイドルって露出高いですもんっ、僕ちょっとそれが気がかりだったんですよね」

「(ヘソ……ですって?)」

「(うーん、たしかにそうだけど、朔夜にはなるべく露出して欲しくないよな……オレの前以外では)」

「(いっそこのまま……いや、それではサクの決意が。しかし婦女子が肌を……ブツブツ)」






というわけで、前回載せなかった最後の部分を以ってトキヤ事務所編終了!
なんだか夢のないお話だなとか思いつつも、実際シビアな世界だと思うので。
と言いつつもいろいろおかしいところ、突っ込みどころ満載! あくまで妄想(という逃げ)。
朔夜ちゃんの傷痕は、消す方向で最初から固めてました。
やっぱりどうせなら……へそ出して欲しいじゃないですか!(爆)

次回は学園に戻った時のみんなの反応なんかを短く、書きたいな。そして学園祭に……!

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