ガチャリというドアが開く音と共に、入ってきたのはこの場に最もいてはならない人。 「HAYATOっ!?」 「トキヤ……くん。それにレンくん、真斗くんも……っ! どうしてここへ」 事務所内でもHAYATOを強いられてると言ったはずのトキヤくんは、演じることもなく、そのままの彼でここにいた。 それはまだ良いとしても、レンくんと真斗くんも一緒だというのはマズイ。私達はおはやっほーニュースを介して、共演という形の繋がりこそあるが、それもレンくん達にしてみればたったの一回だ。それなのに『トキヤくん』と一緒にいれば……。 ちょっと考えればすぐにわかる。私達を結びつける最も太いパイプは『早乙女学園』、そこしかないと。 「君がここに入ることも、ユニットを抜けることもありません」 「HAYATO、お前何を言って……!! そうか、そういうことなのだな」 突如現れたトキヤくんに、驚愕を隠せなかった社長さんやマネージャーさんも、視線を彼の後ろ……レンくんと真斗くんを目に捉えたところでハッとする。 すべてがここで明らかになってしまった。 「朔夜がいなくなるとなれば、オレがユニットにいる意味も半減、どころか皆無だよね。そうなったらキミに曲を作ってもらおうかな。で、一緒にデュエットでデビューするというのはどうだい?」 「ふざけてる場合か、神宮寺。心配したのだぞ、サク。お前の考えそうなことはわかるが、この件に関してはもうすでにお前一人の問題ではない。俺達だってそうと知りながら、お前と共に目指すことを望んだのだからな」 「誰にも言わないで動くのは感心しないな。もっとも……今回のことはイッチーにも責任があるみたいだし?」 「その通りですね。ですから、今ここですべてをはっきりさせましょう」 何もかもを話すつもりで、トキヤくんはここに来たと言う。 そうなることが一番良いことだとは思っていたけど、まさかこのタイミングで……。 「ふん。お前がまさか事務所を裏切っていたとはな。お前を育ててきた私達の恩義を忘れたのか?」 「HAYATO……どうして、」 言葉は静かだけどその瞳に怒りを込めてトキヤくんを睨む社長さんと、困惑を隠せず動揺しているマネージャーさん。 その視線を受けてもトキヤくんは揺らぎもしない。 「もちろん忘れてなんかいません。――言葉には出したことはありませんが、感謝しているのです。ただの企画の一キャラクターだったHAYATOを、こうしてたくさんの人に知ってもらえるまでに育てていただきましたし、今尚多くの方々に愛されている。 だけど私は……、私はHAYATOではないっ。一ノ瀬トキヤなんです! 歌いたいように歌うことも出来ず、私の存在さえも認められない。――――それではこの世界で私の存在証明は、どう立てれば良いんですか? ましてやHAYATOのキャラクターは私とはかけ離れすぎていて、理解に苦しむ。演じるのが、辛い……」 「HAYATO……」 小さな劇団から、HAYATOのキャラクターオーディションを受けたトキヤくん。その後番組を見た今の事務所からスカウトされたと言っていたっけ。当時は、まさかHAYATOとして常に過ごすことになるだなんて、想像もしなかっただろう。 「HAYATOとして在ることに苦痛を感じていた私に、早乙女さんが学園に来ないかと、声をかけてくれたのはその時です。もちろん即答は出来ませんでした。 拾ってもらった社長には本当に頭が上がりませんし、支えてくださっているファンの方達にも申し訳ないと思いましたから。今まで話せなかったのも、それが念頭にあったからです。関係者に迷惑をかけることになるのも、ずっと心に引っかかっていました。あとは……彼女のおかげで少しだけHAYATOを好きになれたから、愛着を捨て切れなかったというのもありますね。 ――――ですが私は、私として歌うことをどうしても捨てきれないっ。だから……、一から、『一ノ瀬トキヤ』としてやり直そうと思ったんです。 少し前から話は部屋の外で聞かせてもらいました。今回のことで、こちらのやり方も十分理解しましたよ。どんなに辛かろうと、事務所の、延いてはHAYATOのためなのだと。そう思ってあなた達を信じていたのに……、だから、散々悩んだというのにっ!! ――――これで気持ちに踏ん切りがつきました。私はHAYATOを辞めて私だけの道を行く」 「待ってください、トキヤくんっ。それはちょっと違います」 ここまで来た以上、円満解決ということにならないのは動かしようもない。だけどそれでもトキヤくんに勘違いされたままでは、私を引き入れようとした社長さんが報われない。 何故なら――――彼はずっと私を煽るような言葉を発していながらも、堪えるように書類を握り締めていた。私を傷付けるような発言は彼の本心ではない。それに気付いた時、彼が何のために動いたのか、わかった気がしたんだ。 だからこそこのまま擦れ違ってはいけない。 「今回のやり方は確かに褒められたやり方ではないとは思います。駆け引きとかそういう風に取れば、こういうことはどこの世界でも日常茶飯事でしょう? 綺麗事だけでは生きていけない世界なんだと、トキヤくんも言っていたじゃないですか」 「それとこれとは話が別です。それにこれは駆け引きなんてものではありません」 「ええ、自分で言ってても違うなとは思ってますよ。でもですね、この方達がどうしてこんな強硬な手段に出たのか。僕はわかってしまいましたから」 トキヤくんがHAYATOとのギャップに苦しんでいることを、彼らは知っていた。 『トキヤのことを思うなら』。マネージャーさんはたしかにそう言った。彼はトキヤくんを心配していたんだと、冷静になった今ならわかる。 社長さん自体はトキヤくんを否定してはいたけれど、それはすでに引っ込みのつかない状態を、どうするわけにもいかなかったからに違いない。 この時期に彼が動いたのは……何よりトキヤくんのためになると思ったからなんだから。 「本当の自分を出すことも出来ず、かといってHAYATOにもなりきれない。そんな想いが積み重なって、HAYATOの仮面が僅かに外れることのある最近のトキヤくんを、あなたたちは知っていた。けれど今更HAYATOの正体を明かすことは出来ない。今明かしてしまえば、何のためにこれまでトキヤくんに苦痛を強いてもHAYATOを続けさせてきたのか、それさえも無意味なことになってしまうから」 「…………」 すべて私の憶測だけどけれど、それが間違いじゃないことは沈黙を貫く社長さんから伝わってくる。どんな手段を使おうと、私をHAYATOと組ませようとしたのも、すべては。 シリアス続きですみません。やっと朔夜ちゃんとプリンスの合流です。 完全なる捏造で話は進んでおります。いつものことですが、書いていて訳がわからなくなるという。トキヤが籍を置く事務所ですから、完全なる悪人にはしたくなかった。それが本音です。 だからこそのたいしたことのない事件なんですが(苦笑) 矛盾をつけば脅しにもなりません!(ぇ) そして更に次に続いてしまうという……計画性のない話ですみません。 PC版ではこの頃から1話がどんどん長くなってきまして…今回は3つに分けましたっ。 |