※オリキャラのみの登場です、プリンスは出てきません。 HAYATOの正体がトキヤくんだということを公表したとしても、それがマイナスになんてなるはずがない。 始めのうちは戸惑ったり、ファンの中には騙されたって思う人がいるかもしれないけど、トキヤくんはそういう意向の下で演じてきただけなんだし、彼に非はない。 何より彼の才能を知って、みんなが無視出来るわけないんだもの。 もっと早く、出来ればこの事務所に入ってすぐに、それをテレビで言っていればこんなことにはならなかった。 「HAYATOが、大事なんですね……」 HAYATOはすでに一人前のアイドル。そのブランドを降ろすことが出来ないというのも理解出来なくはない。だけど――――。 「それはもちろん。うちの一番の有望株ですしね」 「それじゃ、トキヤくんはどうなんですか? あなたたちが彼を事務所に入れたのはHAYATOが人気あったからですか、それともトキヤくんの才能を認めてですか?」 自分でも深く突っ込みすぎているというのは気付いている。だけどユニットが決まるまでのトキヤくんの歌い方、それからあの日、話してくれた胸の内を思うと止まらない。 「君は、随分とHAYATOから話を聞いているみたいだな」 今までこちらの会話など気にした様子もなく、書類に目を通していた社長さんがやっと口を開いた。 「僕が話したのはHAYATOではありません、トキヤくんです」 「トキヤなどという名前の者はこの事務所にはいない。彼がHAYATOだったから、HAYATOとしての今後の可能性を我々は買ったのだよ」 「っ!!」 あまりにもはっきり言い切ったそれに返す言葉がない。 ううん。言いたいことはたくさんあるけど、怒りで目の前が真っ赤に染まって言葉が喉で詰まる。ギリギリと歯を噛み締めて、拳を強く握る。 こんなに強い怒りの感情を抱いたのは初めてかもしれない。もう一度口を開けば、トキヤくんに迷惑がかかるようなことを口走ってしまうかもしれないので、そうやって耐えつつも目だけは逸らず睨みつける。 「それよりも君のことだよ。そのためにここへ呼んだのだからね」 「………お断り……します」 「まぁ、待ちなさい。断るのは話を聞いてからでもいいだろう」 すでにどういう内容なのか知っているのに、今更聞く必要がない。 この社長さんとトキヤくんがわかり合えないこともわかったし、これ以上ここにいても無意味だ。どんな話をされようと私の意志は揺るがない。 「少し君のことを調べさせてもらったよ」 「……え…」 手に持った書類をパタパタとこちらに振ってみせる。それは仕事の書類じゃなくて、私に関する――報告書? 「気を悪くしないでくれたまえ。HAYATOと組むからには最初から注目されるだろうからね。後からスキャンダルやトラブルが出られては私達も困るのだよ。 簡単な身辺調査、ととってもらおうか。さすがに学園内のことはガードが堅くてわからなかったがね」 言葉そのままの意味には受け取れない。言ってることは筋が通っているようにも思えるが、私はこの話を受ける気もないのにそんなもの必要ない。 ああ、でもやっぱりさすが早乙女学園。部外者がそう易々と入ることも調べることも出来ないだなんて、どんだけすごいセキュリティつけてるんだろ。 ある意味、学園長の存在そのものが最高のセキュリティな気もしないでもない。彼を怒らせれば芸能界にいられなくなるというのは、何も学園の生徒に限ったことではないようだしね。 何にしても学園内のことが知られていないのは良かった。だってそうなれば必然的にトキヤくんのことも……と思うから。 「君はあの、二大財閥の御曹司達とも仲が良いみたいだな。外でよく女性に囲まれているとか」 「それが何か? 彼らは僕の友達ですから遊びにも行きます。そんなことを調べてどうするんですか」 「いや、仲が良いのは素晴らしいことだよ。後々その伝手の仕事なども回ってくるかもしれないしな」 「……不愉快です。僕はそういうつもりで彼らと友達になったわけではありませんから」 たしかにある程度のコネや伝手というのは大事だと思う。ただしそれを使う時はこちらも誠心誠意、精一杯尽力するのが前提で。 だけどそれが欲しいために彼らと仲良くなったわけじゃない。たまたま彼らが財閥の子息だっただけで、私にとっては家の名前なんてその程度のもの。 そして彼らがその家名の重さに苦しんでいたことも知っている。 だからこそ、良く知りもしないでそういうことを軽々しく口にして欲しくはない。 「君が認める相手なら、HAYATOとも仲良くなりそうだな」 「何か?」 「なんでもありません、こちらの話です」 微かにマネージャーさんの口からHAYATOの名前が聞こえた気がしたから、問いかけてみたけどはぐらかされちゃった。 なんだろ、何かが引っ掛かる。 それはたぶん社長さんとマネージャーさんの発言の矛盾からだとは思うんだけど……。 トキヤくんの性格を知り尽くしていながらもトキヤくんを否定する。二人の考え方が違うだけ? きっとそのままを受け取っちゃいけない。この人達は私よりも年上で、厳しい業界を生き抜いてきた人達だ。そしてHAYATOを育てた人物。 マネージャーさんからトキヤくんの名前が出たということは、彼らの中にだってちゃんとトキヤくんがいるということ。HAYATOをHAYATOとしてしか捉えていないなら、そしてそれが社長の意向なら、それは社員にも徹底して行われるはず。 大人はたまに素直じゃないから、過去の過ちを認められないこともある。そして目的のためなら、ある程度のはったりや嘘なんかも吐くはず。 それが彼らに当てはまるのかどうかはわからないけれど、冷静に見極めるべきだ。熱くなっちゃ駄目。 口を閉ざして落ち着こうとしてる私を見てどう思ったのか、社長さんは書類を一枚ぺらりと捲り、再び話し始める。 「君のことを調べているうちに、面白いものを見つけたよ。なんだと思う?」 言いたいことがあるならはっきり言えばいいものを、こちらの神経を逆なでするような物言いはわざとしているようにしか思えない。 どういう意図でそうしてるのかがさっぱりで、不思議でならない。 「――――五年前、ある起業家が死んだ。私もニュースで見た覚えがあるんだが、当時ちょっと話題になったな」 まわりの音が遠のいて、すぅっと頭に上っていた血が一瞬で下がる。冷静になろうとして落ち着いたんじゃない。 「会社の経営は上手くいっていたはずなのに、妻を病気で亡くした直後から元気がなくなり、鬱になりかけていたそうだ。あげくの果てには子供を巻き込んでの無理心中。男はそのまま亡くなったが子供は奇跡的にというか、助かったそうだよ」 「……そう、なんですか」 知らず知らずのうちに声のトーンが下がっているのを感じる。 こんな声出せたんだと思うくらい冷めた声。特にこれという感情が湧いたわけでもない。 「それでそのお話が何か?」 妙にすっきりした頭の中、考えたのはただひとつ。 (みんなとは歌えなくなるかもな……) すいません、お待たせしましたっ。そして更にごめんなさい、オリキャラばっかだしプリンス出てこないしっ! |