触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□10月  −一難去って、その後は?−
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ホームルームでは、月末に行われる学園祭の出し物について話し合われてる。一年しかいない私達には、最初で最後の早乙女学園での学園祭。

クラスの出し物でも思い出に残るようなものにしたいとは思うんだけど、それとは別に個人的にステージを使うことが出来るんだって。そっちの方が気になって、実はクラスの出し物の話し合いには参加してなかったです、はい。

私達にとっては日頃の成果を発表出来る初めての場所。パートナーをすでに組んでいる人達はより絆を深めるチャンスだし、まだ組めていない人にとっては、このステージでアピールする目的の意味でも有効活用出来る。

それから、私達のようにユニットを組んでみたいって人達が、もしかしたらここで勝負に出てくるってこともあるかもしれない。直接学園長に挑戦することが出来ない人でも、このステージで観客を沸かすことが出来れば、学園長も認めてくれるかもしれないしね。

でも私のクラスってほとんどパートナーが組めてて(さすがSクラス)、しかもみんな卒業オーディションに打ち込みたいっていう人がほとんどらしく、ステージには消極的みたい。余計な練習で時間を割きたくないというのがその理由。

翔くんなんか、これ聞いてすぐに出る! って宣言してたくらいなのに。

学園祭は外部からのお客さんも来るし、業界の人達が来たりするらしいし、そこで関係者の目に留まればもしかして……ということもありえなくはないのに。

出ないって言ってるみんなは、シャイニング事務所に所属するのが一番の目標で、卒業オーディションに焦点を絞ってるってことなんだろう。私達ももちろんそうなんだけど、それはそれ、ステージはやっぱり楽しみたいからね。

んで、結局クラスの出し物は模擬店になったんだけど、ステージ希望者は準備や当日の接客業務から外してくれることになった。もちろん出ることが出来なかった場合は参加するようになってる。

これってさ、どのみち時間取られるから、ステージしてても一緒だと思うのは私だけかな……。ま、年に一回のお祭り騒ぎだもんね、何もしないのはもったいないっ。

ホームルーム終了後、学園祭用のステージ希望者提出書類を持って、トキヤくんの前の席に腰掛ける。


「大丈夫そうですか?」


ステージに出たいとは思うけど、もしトキヤくんにお仕事が入ってれば。そう思って小声で問いかけるとすぐに返事がある。


「ええ。当日は一日オフですので心配いりません」

「良かった! あとは音也くん達の意見も聞いて……」

「イッキに出るか出ないか聞くのは愚問だよ」


レンくんは気配なく不意に現れるから心臓に悪い。
内緒の会話は本当に小さな声で、書類を見て顔を寄せていた時にしたから、聞かれてはいないと思うけど。

聞かれていたにせよ、普段から忙しいトキヤくんだから、出られるかどうかの確認をしていたって言えば、なんら不自然ではないくらいの会話内容だったしね。


「でしょうね。夏に朔夜の……ライブバーのステージに出たいと一番乗り気だったのですし、今回も間違いないでしょう」

「ああ! そういえばそうでしたねっ。出れないとわかった時はすごくしょんぼりしてましたしねー」


お祭りも歌も大好きな音也くんなら、たしかに出ないって選択肢はないかもしれない。


「ステージはやっぱ歌だよな!」


クラスの出し物にも時間の許す限り参加するらしい翔くんが、少し遅れて私達の会話に入ってきた。その手もあるなら、私も時間が許す限りそうしよう。やっぱり模擬店もおもしろそうだし。


「そうですねぇ。ただ歌は希望者もたくさんいそうですし、インパクトを与えるために他のものをする、というのもひとつの手ですよね」

「詳しいことは放課後に決めればいいでしょう」

「だね」










当然のことながら、予想通り何もしないって意見は出なかった。音也くんはもちろん真斗くん、那月くんからも。


「あの一件以来、表立っては何もないが、ここは俺達の力を見てもらう良い機会ではないかと思う」

「あー、あれはマジで焦ったよなぁ。俺、今までにないくらい駆け回ったかも」

「すみません、わたしがもっとしっかりしてれば……」

「ハルちゃんは何も悪くないですよぉ。でもハルちゃんが無事で良かったと思ったら、サクちゃんが怪我してましたもんね……。僕、心臓が止まるかと思いました」

「ううう、その節はご心配をおかけしました……」


あの後、駆けつけてくれた真斗くんと那月くんにすごい形相で質問責めにあったんだ。

自分でも鏡を見てみたけど、みんなが言うほど腫れてるようには思わなかった。赤くなってたから見た目よりひどく見えたのかもしれない。

特に傷に関しては痕が残らないようにってあの後、保健室に連れて行かれてきっちり手当てされました。やっぱり女の子の力だし平手打ちだったから、グーパンに比べれば全然。まぁ……女の子でグーで殴る子なんてそうそういないとは思うけどさ。

もしあの場でそれが出ていたら、さすがに怒ってたと思う。七海さんがそれで殴られるなんて想像もしたくない。

結局翌日に腫れは引くことなくって、クラスメイトにも心配されたっけ。傷も……女の子達に叫ばれた。

あの中にはどうやらSクラスとAクラスの子以外がいたみたいだから、やっぱり私達のことをよく知らない子が、思い違いでちょっと勘違いしてしまったんだろう。

ちなみにやっぱり日向先生にも突っ込まれたけど、笑って誤魔化しました。きっと何かしら気付いてるとは思うけど、深く追求してこなかったのが嬉しかったな。同じ学園に通う生徒として、やっぱり最後まで一緒に戦いたいしね。

だけどトキヤくんが最後に言ったように、次はないことを彼女たちもわかっていて欲しい。次があれば……私も許すわけにはいかないから。


「まあそういう意味で言うなら、私達の歌を披露するのが一番妥当でしょうね。七海さんの曲の良さもわかって頂けるでしょうし」

「たしかにそうかもしれないけど、音楽を聞かせる方法はひとつじゃないだろ? BGMなんかでも良いとオレは思うよ」


BGMかぁ、そうすると私達は何をすれば良いんだろ。音があって、私達が動くことって……。


「演劇とかか?」

「アリだとは思うけど、曲を活かしつつも、もっと華々しくレディ達を魅了出来ること……ファッションショーなんかどうだい?」

「それはステージングの勉強にもなっていいですねぇ。ウォーキングやポージングとか、どんなのが見ている人の心を惹き付けるのか、直に見れますから楽しそうです」

「えー? 俺はやっぱり歌いたいなぁ。ただ歌うだけじゃなくってさ、ダンスとかしっかりやれば観客に喜んでもらえるじゃん!」


練習なんかと違って、観ている人に楽しんでもらえるようにパフォーマンスもしっかりしないと、せっかくのステージに立つ意味がないもんなぁ。歌っているだけじゃ、カラオケと一緒でただの自己満足になっちゃう。

音也くんの言うとおりダンスを取り入れれば、私達のように人数がいると、動きを揃えて踊ればすごく迫力あるよね。キマった時の達成感は半端ないもん。







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