触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□9月  -ドキドキとズキズキ-
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ユニットはそれぞれの声の相性とかもあるから、実はものすごく難しい。個性を出しすぎてもいけないし、調和しすぎてもおもしろくない歌になる。それを見極めるのが大変なんだ。

二、三人ならそこまでではなかったかもしれないけど、七人ともなれば余計に。そしてそれぞれの特徴を活かす曲を作るというのもまた、大変な作業だと思う。


「どうせ音也達、教室でくっちゃべってんだろうから迎えに行こうぜ〜」

「時間になれば来るんだから、レコーディングルームで待っていればいいだろう?」


廊下を歩きながら翔くんの言葉にレンくんが反論する。どちらにしても行くところは一緒なんだから、待ってるよりは迎えに行った方が良いと思うんだよね。移動するのもみんなと一緒の方が楽しいし、私も翔くんの意見に賛成だな。


「? ……トキヤくん、どうかしたんですか? 何か今日は朝から様子がおかしいみたいですけど」

「いえ、別に。それより向かうのでしたら、入れ違いにならないように、早めに向かった方がいいんじゃないですか?」

「あ、そうですよねっ」


いつものようにHAYATOとして仕事をしてからの登校だったから、疲れでも出てるのかな?

朝はすごく早くから起きて、仕事して帰ってきて授業受けて、午後から仕事がある時はまたそれに向かって、ない時は私達と一緒に練習をする。

音也くん曰く、日が昇ってないうちから起きてて、日付が変わってから帰ってくることもあるってことだから、トキヤくんは私達なんかよりずっと大変なはずなんだよね。
どんなに遅くなっても練習に駆けつけてくれる彼を見てると、どれだけ歌が好きなのかがよくわかる。


「ん? あれ、七海じゃね?」


ふと、窓際を歩いて外を見眺めていた翔くんがポツリと零す。傍に寄り彼が見ている方を覗き込むと、たしかにそこには七海さん。数名の女の子と一緒にどこかに向かっていた。


「時間まではまだちょっとありますし、その前にお友達と……ってところですかね」

「……Aクラスじゃないレディも混じっているようだけど、あの子羊ちゃんはそんなに交友関係広かったかな…」

「お前、よく顔だけでクラスとかわかるよな……」

「一度話したことがあるレディなら、顔を覚えていることぐらい当然だろう?」

「当然……ね。いや、もうなんか……はぁ。お前はすごいやつだよ……」


クラスが違う子もいる?

同じクラスじゃないから七海さんの友達とかは詳しくは知らないけれど、私が見かける彼女は大抵音也くん達といつも一緒だった。かと言って女の子の友達がいないわけでもないだろうけど…。

レンくんのその言葉が引っかかって七海さんから目が離せなかった。そしてそこに違和感を感じる。


「なんだか…ちょっとおかしいですね」

「朔夜もそう思いましたか。連れ立ってどこかに行く、というよりは引っ張られているように見えますね」


そう。足取りの重い七海さんを、その中の一人が腕を引っ張って歩いているように見えるのだ。


「そう見えるってだけなので実際には違うかもしれませんが……、心配ですね。
音也くん達なら何か知ってるかもしれませんから、急いで向かいましょう」


もし本当に連れて行かれているのなら大変だ。私達は走ってAクラスへと向かった。










「そっちはっ? いた?」

「いえ、見当たりませんっ」


危惧したとおり七海さんは呼び出されたらしい。

事が発覚したのはAクラスに着いた直後だ。扉を開け教室に顔を出した私を、びっくりした目で三人が見つめ、何故ここにいるのかと音也くん達に言われたのだ。
私が呼んでいると言って女の子が迎えに来たらしい。

もちろん私は呼び出してもないし、誰かに伝言を頼んでもいない。

それから慌ててみんなで七海さんを探したんだけど、どこにもいない。私達が姿を見かけてから探しに出るまでの時間はそんなに経ってないのに。

こういう時に広すぎる敷地は困る。死角になりそうなところを手分けして探すんだけど、そこに辿り着くまでが遠いんだ。

この学園には学園長の手によって至るところに監視カメラが設置されているというのは、学園で生活している生徒ならばおのずとわかってくる。周りに誰もいないところで話していたはずだったのに、学園長がその内容を知っていたりすることなんて日常茶飯事なんだから。

それは巧妙に隠されていて、一見しただけではわからないように細工されていたりもするから、正確な場所までは把握は出来ないので避けようにも避けられないんだけど。

それでもプライベートな空間にはないみたいだから、みんな気にはしてない。慣れって怖いよね。

校舎内やその周辺は確実に見られていると思っても間違いはないだろう。それを知っている人ならばもっとわかり難いところを選ぶかもしれない。それか寮。でもそっちはレンくんが確認済み(女の子達に聞き込みして探ったみたい)だから候補からは外れた。


「他にどこか人目から隠れられるようなところは……」


自分達が使用する校舎や教室以外には、いくらここの生徒と言えども、広大な学園の中はまだまだ私達の知らないところが多すぎる。活動的に探検だと言って出かけていた、翔くんや音也くんでさえ探せないのだ。何か見過ごしているようなところがあるはず。


「……誰か、あそこを探した方はいますか?」


少し俯き加減で考えていたトキヤくんが、ハッと何かを思い出したかのように顔を上げみんなに問いかける。


「あそこって、どこ?」

「今は忘れ去られ行く人はほとんどなく、入ってしまえば周りは囲まれていて上空からしか見ることは出来ない。仮に他にも人がいたとしても易々と同じ場所には辿り着けないところ…」

「それは……あの巨大迷路か? 一ノ瀬」

「なるほどね。確かに隠れるにはもってこいの場所ではあるな」


……そんなの、学園にあったっけ?

みんなが頷く中、何のことだかさっぱりわからないんだけど、とにかく誰も探していないんだとしたら可能性はある。


「場所がわからないんで案内してもらえますか?それから、もしかしたらそこにいないことも考えられますので、翔くんと音也くんは引き続き、校舎付近から森の方を探してみてください。見つかったら携帯に連絡を。
あまり大事にはしたくないですが、最終的には先生達に連絡して、カメラの映像を見せてもらうことも考えた方がいいかもしれません」

「わかった」

「おうっ。三十分して見つかんなかったら、そん時は日向先生に知らせる」

「お願いします」


二手に分かれて、私達は目的地へと再び走る。道中その巨大迷路がなんであるかを、レンくんが説明してくれた。

私が参加しなかった入学説明会の、オリエンテーリングで使用された場所らしいのだ。当時はいろいろな仕掛けがあったというが、さすがに今はそれらも稼動なんてしてないだろう。学園長が学園長なだけに、確実に動いていないとは言い切れないけど。

着いた先は端が見えないくらいの大きな壁、もとい巨大迷路。ここからじゃ内部がどんな風になっているのかは全然わからない。


「ハルちゃん、ここにいるんでしょうか」

「人目につかないって点で言えば、ここほど最適な場所はないだろうね」

「みんなは、ここの中って覚えてますか?」

「さすがにそこまでは。当時は仕掛けが置いてあって道が塞がっていたところも、今では取り除かれているでしょうから、若干変わっているでしょうしね」

「俺はあまり中は回らなかったからな。だが、あの中央のやぐらまでならなんとなくだが覚えている」

「では真斗くんはそこに向かって上から七海さんを探してください。もしいたら一番近い人に連絡を。
那月くんはここで待機していてください。迷路だからってそのルールに沿う必要はありませんので、もし外側からの方が近ければ、壁を乗り越えてでも壊してでも行った方が早いです」

「そうですね、わかりました」

「では行きましょう」


一体何が起こっているのか、七海さんは無事なのか。いろいろなことが頭を過ぎるけど、今は一刻も早く彼女を探し出さなくっちゃ。

それぞれが別々のルートになるように、私達は迷路の中へと進んでいった。













いろいろ起こってますが、まぁ、定番で。ハルちゃんごめんねっ。
巨大迷路、わからない方がいましたらすみません。CDネタです。頭脳派な真斗が頑張ってくれたとこですね。

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