「どうだ?」 「はい、かなり良いようですね」 「そうか、……欲しいな」 「では………」 「ああ、任せた」 この学校では九月に身体測定があるみたい。てっきり新年度とかにあるものだと思ってたけど、ここではなかったし、この時期にあるのは想定外。 関係ないけどなんでもうちの学園長、医師免許まで持ってるらしい。本当にあの人は一体何者なんだろうとか考えたら……負けなんだろうな。 「おはようございま……す?」 語尾にいくに従って声も小さくなり、思わず疑問系になったのは教室内がすごくざわついてたから。何、そんなに興奮するようなイベントだったっけ、身体測定って…。 いつもと違う雰囲気に戸惑いつつも、席に進んでいくと神妙な顔をしたトキヤくん達が近寄ってきた。 「どうしたんですか? そんな顔して。何かありましたか?」 「朔夜、お前まだ聞いてないのか?」 「? 何がです?」 なんだか三人共ものすごく難しい顔してる。教室が騒がしいのと関係あるのかな。考えてみても今日は身体測定以外何もない気がする……。 あ、もしかしてまた突発的な学園長の特訓があったりしたりするのかな。 そう思って、黒板を見てみても特に張り紙などはしてない。ちょっと安心した。 「リューヤさんとかに何も聞いてないのかい?」 「何のことですか?」 「これから、という可能性もありますね。何しろ私達も今日知ったのですから」 本当にわかるように誰か翻訳してくれませんか。いつもは音也くんに話の脈絡を考えて話しなさいとか言ってるのに、そのトキヤくんがそれを無視して話を進めちゃうから、私には何のことを話しているのか全く見当がつかない。 「すみません、初めから説明してもらってもいいですか?」 待ってても回答が返って来なさそうだから、聞いてみる。 彼らがここまで慌てているというか真剣な顔をしているというか、とにかく三人が同じ顔をしていることが珍しいので気になってしょうがない。 騒ぐのは翔くんだけで、トキヤくんは呆れた目で見たり、レンくんはそれをからかったりするのが通常運転だから、どうにもこういう状況は落ち着かない。三人が一様に気になることって何かあったかな? 「今日、身体測定あるだろ?」 「はい」 「事前の通達は何もなかったんですが、先程月宮さんが教室に現れまして」 「何か変更でもあったんですか?」 「オレ達にとってはどうってことないことだけど、アッキーにとっては困った事態になった」 「どうということもないこともないですけどね。そうする必要性を感じませんから」 「あのな……身体測定、全員……水着着用なんだってよ……」 「ああ、水着なんですか。やっぱりプロフィール用とかに正確な数値が欲しいんですかね……って、えええ!? 水着ですかっ!!?」 自分で言っておいて一瞬納得しかけてしまったけど、事の重大性に思わず上げてしまった叫び声に、クラスメイト達が一斉にこちらを振り向く。けど今はそんなの気にしてる場合じゃない。水着って……あの水着だよね? 「え、ど…どうしよう……どうすれば」 こういうのって普通は前もって知らせておくべきことだと思うんだけど。いやいやそれ以前に私には無理な話なわけで。 そうだ! 突然言われてもみんな水着なんて持ってきてるわけないんだから別に着替えなくても……。 「もちろん水着は学園側が用意するそうです」 「うう…」 良いんじゃないかなー? なんて、一瞬上向いた気持ちもトキヤくんによってすぐに打ち砕かれる。何も……こんな時に的確に思考を読まなくてもいいじゃないですか。 「とりあえずさ、日向先生に聞いてみろよ。お前だけ別に受けさせてくれるのかもしんねーし」 「そうだな。アッキーの水着姿は見てみたいと思うけど、周りに知られるのはマズイしね」 あ、そうだよね。どうすればいいのか先生に確認すれば良かったんだよね。 あまりの突然のことに私の脳内は思考を放棄していたみたいで、自分では解決策が一向に思い浮かばなかった。こういう時、本当のことを知っていてくれる友達がいるというのは心強い。ひとりだったらしばらくは呆然としたまま、どうしたらいいかおろおろしていたかもしれない。 プールはアレルギーで乗り切れたけど、身体測定にそんなの関係ないから一人だけジャージってわけにもいかないだろうし。 でもこれでわかった。みんなが何故ざわついていたのか。たかが身体測定でまさか水着になるだなんて誰も思わないもんね。 しかも当日に言うって、――こういう突発はあの人ぐらいしかやらないだろうから、誰の提案なのかは想像に易い。 「アイドルたるもの〜、常に人に見られることに慣れなければいけマセーン!」 「……はぁ。やっぱり」 そういうわけで早速私は日向先生を探して、いつものように先生の仕事部屋へと連れてこられた。 ちなみに今のは学園長じゃなくて、そのマネをした日向先生の発言です。 朝出勤したら突然呼び出され、各クラスに通達するように言われたらしい。 当日にそんなこと言われても生徒達が混乱するだろうと止めたらしいのだが、面白がった月宮先生がすぐに飛び出して行ってしまい、その後いちいち訂正するのも面倒になってしまったらしい。 それならそれで、私に伝言でも残してくれれば良かったのにと思うのは私の我侭かなぁ? でも先生達は、トキヤくん達が私のことを知っているというのをを知っているのだから(なんかわかり難い言い回しだな)、彼らにこのことを伝えて呼び出してくれていたらあんなに動揺することもなかったのに。 「いや、てっきり林檎が伝えてるもんだとばっかり、な。だから俺んとこに来たんだと思ったんだが……すまなかったな」 なるほど、それなら先生が職員室で寛いでいたのも頷ける。(先生にとってはここより職員室の方が寛げるらしい。ここには仕事がいっぱいあるからだと思う)そして月宮先生もちょっとおっちょこちょいなところがあるから、彼らが知ってるということを忘れていたのかもしれない。 それで私がまだ登校してなかったから伝えようにも伝えられなかった、という風にも考えられる。 どちらにしろ、私の存在を忘れている学園長が悪いんですよね。 「それで、私はどうすればいいんですか?」 「ああ、お前は後から……」 「サクちゃーん!」 日向先生は説明しようとすると遮られてしまう呪いかなんかにかかっているんじゃないかと思うくらいに、しょっちゅう会話の途中に邪魔が入っているような気がする。その大半が学園長だけど、今回は月宮先生か。 |