入り口をすごい勢いで開け放ち、そのままの勢いで後ろからぎゅっと私に抱きつく。いくら見た目は完璧な女の子でも、その勢いと力は男の人だから、ちょっと痛いです。 「探したのよ〜ん! さっきもう一度教室に行ったら、トキヤちゃん達が龍也のところに行ったって言うから急いで来ちゃったっ。さぁ、サクちゃん行くわよっ!!」 「行くってどこへ?」 「おい、林檎っ、どうするつもりだ?」 「んふふふふ、ヒ・ミ・ツ!!」 振り返って口元に人差し指を当て、日向先生に向かってパチリとウインクをする。そしてそのままズルズルと引きずられる私を、黙って見守る日向先生。 えと、助けてくれる気は全くないみたいです。 「月宮先生、一体どこへ? というか、僕、身体測定どうすればいいんですかね?」 るんるんと歩く月宮先生になんだか嫌な予感しかしないんだけど、一応問いかけてみる。 「サクちゃんもちゃ〜んと受けられるから安心していいわよ〜」 私が心配しているのは受けられる受けられないの話じゃないし、そんなことよりも水着着用という私にとっては超難関を、どうやって乗り切ればいいのかを知りたくて問いかけたんだけど、それについてはどうも答える気がないみたい。 より一層不安に思うものの先生が向かっている方向は私の教室でも、ましてやそれぞれの測定が行われている部屋でもなさそうなので、もしかしたらやっぱり翔くんの言うとおり別室で受けさせてくれるのかもしれない。 だけど連れて行かれた部屋の中を見て、私は硬直してしまう。 だって、だって……。 「さ〜てどれにしようかしらねぇ〜。サクちゃんは肌が白いからやっぱり原色系? でもあまり派手なのも雰囲気ってものもあるしぃ。ねぇ、サクちゃんはどれが……」 「ちょ、ちょっと待ってくださいっ月宮先生!!!」 そこにはずらりと女の子用の水着が並んでいたんだから、自分の目を疑ってしまうのもしょうがないことだと思う。その中からすでに色々と選び始めてるんだけど、男として入ってるのにこんなの着ちゃったらバレバレじゃないですかっ。 「冗談ですよね? あ、もしかして着るには着るけど、みんなとは別に受けさせてくれるとか?」 「何言ってるのよ〜、もちろんみんなと一緒に身体測定受けてもらうわよ?」 「な………」 このどれかを着てみんなと一緒に受ける? それはつまり女の子として身体測定に参加するって事で…。そんな、身体なんて見られたら(女の子らしい体型はしてないけれど)みんなにバレてしまうということでしょう?なのになんでわざわざそんなことするのかさっぱり意図が読めない。 それとも、もう男の子のフリはしなくてもいい……のかな。 「サクちゃん、前に女装……っていう言い方は元々女の子なんだからおかしいわね。まぁ、いいわ。それをした時に自分の姿見てみたかしら?」 突然話題を変えられて面食らうものの、問われた内容を考えてみる。 自分の姿? えっと……メイクの時は鏡を隠されていたし、その後も教室を出て街中でみんなと歩き回ったりカフェでお茶したりで、特に鏡を見てない気がする。あれ、ウィンドウ越しに映った姿とか見なかったっけ? ―――全然覚えがない。 「その様子じゃ見てないようね」 「あー…はい。見たような見てないような? みんなの姿の方がインパクトあったから、自分を確認するの忘れてました。メイクも結局先生が落としてくれましたし、私、よくよく考えてみたら直接鏡を見てないんですよね」 時間になって学園に戻ってきた後も、みんなと一緒には着替えられないからまた先生の部屋に行って、そこでメイクの落とし方を教えてもらいながら全部先生がやってくれたんだ。 「そう、なら丁度良い機会ね。さてサクちゃん!」 「へ? あ、はい」 何が良い機会なんだろう。やっぱりみんなに知らせて私は女の子として残りの学園生活を送ることになるんだろうか。それならそれで別に構わないとは思うけど、果たしてクラスのみんなに受け入れられるのかどうかが一番の問題になってくると思う。 そんなに甘いものじゃないだろうなぁ。 なんだかものすごく不安になってきた。 「早速用意するわよぉ〜!」 身体測定はクラスごと、というよりは個別で測定をしている教室を回っていくことになっている。 今日は昼までかけてこれが行われ、この時間内であれば、どこから回るかは個人の自由である。 全校生徒の数は相当なものなので開始すぐに行くと混雑も予想されるし、逆に同じように考える者もいるだろうから後になるにつれ混み出すかもしれない。 どちらにしろSクラスの三人は朔夜が帰ってくるのを待ってから動き出す予定であり、出て行く間際、朔夜にもそう告げた。 「ったく、どーゆーつもりなんだろな、シャイニング早乙女は。つか月宮先生もか」 「どうもこうも、なーんにも考えていないんじゃないか? 面白そうだったから、とかそんなところだろ」 「――あの人なら有り得ない話ではないですから。朔夜は全生徒が終わってから受けさせてもらった方がいいでしょうね」 その朔夜なのだが、龍也に確認を取ってきたら戻ってくると言っていたのだがなかなか戻って来ない。話をするだけならすぐだと思ったが、もしかしてそのまま測定でもしているのかもしれない。 ふとそんな考えが浮かんだが、あの朔夜が自分達が待っているのを知ってて、何の言付けもないはずがない。制服のまま出て行ったのだし、ポケットに携帯も入っているだろう。 「遅いね。何か問題でもあったのかな? やっぱり水着は絶対着用とか」 「もし、さ。そうだったとして、その場合って……どっち着るんだ?」 「そりゃもちろんレディの……」 「馬鹿ですか。そんなことしたら周囲に丸分かりじゃないですか」 「でも見たくないかい? 彼女の水着姿」 「…………俺は、……見たい…かも……しんない」 すでに教室に残っている者は彼ら三人しかいないので、普通に話してはいるが若干ボリュームは絞ってある。 教室自体は防音設備が行き届いているのでこうやって話していても外に漏れることはないだろうが、やはり隠し事だという意識が働くためにそうなってしまうのだろう。 「それにしても本当に遅いですね。私達も日向さんの所に行ってみますか?」 「そうだなー。行き違いになってもあれだから俺、ここに残ってようか?」 「それじゃオレとイッチーでリューヤさんの所に行って来るか」 レンが腰掛けていた机から身体を起こした丁度その時、教室の扉が開き、林檎が顔を覗かせた。 「あ! レンちゃん達はっけーん!!」 足取りも軽やかに教室に入ろうとしたところで、ふと足を止めて廊下を窺う。 「ほら、何やってるの〜」 「……………」 「大丈夫、怖くないからっ!」 「……っ、…………………」 外にいる人物と会話をしているらしいが、トキヤ達には何を話しているのか聞き取れず、相手の声さえも届かない。 しばらくそのまま話をしていた林檎だったが痺れを切らしたようで、廊下へと出て行った。 「なん…なのですかね」 「さぁ? 外に誰かいるみたいだけど誰だろうな」 「ってか何しに来たんだ、あの人」 三人が首を傾げていると再び林檎が現れた。その後方には彼に引きずられるように手を引かれている人物が。 その瞬間、彼らの視線はその人物に縫い付けられてしまった。 身体測定編。ベースはAクラス。 作曲コースの子にはなんとも迷惑でしかない水着。アイドル云々関係ないし!って訳で、中途半端ですがここできり。展開は皆様の想像通りです。 今回もやってもらいましょう! 冒頭のは……まぁ、そゆことです(ぇ |