触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□7月  -ハプニング-
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「朔夜っ」


ぽすっ


「しまった」

「トキヤくんナイスです」

「アッキー、ナイスキャッチ!!」


こっちが一点取れば向こうも取り返し、向こうが取ればこっちがという感じで接戦になっている。

真斗くんのガードが結構上手くてゴール近くまでボールを持ってきても、コースが甘いと私の手にパスが届く前にはじかれてしまう。
そしてそのはじいたボールを素早く取って音也くんへとパスが通ると、今度はレンくんが待ち構えていて同様に…というわけだ。

レンくんはやはりすぐには真斗くんへの対抗心は捨て切ることは出来ないみたいで、この試合が始まった時も彼を挑発してた。まぁ、長年積もったその感情をすぐに変えることなんて出来ないだろう。けれど少しずつでもいい方向に変わっていってくれるといいと思う。

そして作戦通り、翔くんは那月くんの足止めに成功してた。……一方的に構われてるとも言うけれど。


「わー! 放せっ、那月!!」

「だって翔ちゃん、放したら足つかないじゃないですかぁ」

「だぁっ、そんなん泳げばいいだけだろがって何回言わせりゃ気が済むんだ!!!」


始まってからずっとそんな感じだから、音也くんや真斗くんも那月くんを戦力外とみなしてるみたい。
言ってみれば相手側も翔くんの動きを押さえてることになるからお相子か。いくら翔くんが……小さい…とはいえ、その機動力と運動神経は水の中でも侮れないだろう。

お互いに一人ずつ戦力が欠けている状態だから、余計に接戦になってるんだな。


「七海、いくよっ!」

「はいっ、きゃっ…」


やっぱり男の子のボールを女の子が受けるというのは多少なりともきついんだろう。たまに力加減を間違えた音也くんのボールを七海さんが取りこぼす。
水の中だと踏ん張りが効かないから力の入れ方とかわからなくなるみたい。トキヤくんのボールもたまにちょーっと痛いと感じるんだから、あんな可愛くてちっちゃい七海さんなら、音也くんの元気溢れるパスを取り損ねてしまっても頷ける。

こぼれたボールをすかさずレンくんが拾って、トキヤくんへとロングパス。綺麗にそれが通ってトキヤくんがゴール前に躍り出た。そのゴールを阻止しようと真斗くんも手を大きく広げて立ちはだかる。

水の抵抗があると思うように動けないから、お互いに牽制しあってるそこに後ろから音也くんが迫ってきていた。


「トキヤくん、後ろから来ますっ」

「チッ」


あれ、今トキヤくん、舌打ちしなかった? 珍しいな、行儀の悪いトキヤくんなんて。

バシャバシャと音を立てながら、水を掻き分け近付いてくる音也くんを横目で見てトキヤくんが叫ぶ。


「翔!」

「へ?」


未だ那月くんに抱えられいる(しかもお姫様だっこ)翔くんを呼んで、そこめがけてボールを投げる。

きっと翔くんの反射神経に期待してそうしたんだと思うけど、無理な姿勢から受けるのは難しかったのか、伸ばした手はボールを掠めるだけで取れなかった。

そして、突然向かってきたそのボールに、驚いた那月くんが翔くんから手を離す。


「うわっ、馬鹿那月っ!」

「あっ」


バタバタと手を振り回して水へ落ちる翔くん。振り回した手が那月くんの顔に当たったらしく、小さな声が上がる。その様子を見ていた音也くん達はもちろん、Aクラスの人達からも「あ!」という大きな声が上げられた。

大丈夫かな、那月くん。爪とか引っかかって傷になってなければいいけど。

次の瞬間、建物全体が小さく揺れ始めた。


「え? 地震?」


ゴゴゴゴッという大きな音を立てながら細かい振動を繰り返す。プールも波打ち始め、音也くんや翔くんが水からなんとか這い出してプールサイドに上がったのが見えた。

だけど那月くんが俯き顔を押さえたまま、波立つ水に揺れることもなく微動だにしない。しかも彼の周りに不穏な空気が立ち昇っているのを視界で確認出来る。

そう、目で見えるのだ。ドス黒い霧のようなものが。


「那月くんっ、大丈夫ですか!?」


心配になって声をかけると那月くんの身体がピクリと反応して、見えていた霧のようなものが霧散した。

それから那月くんは俯いていた顔をゆっくり上げ、その顔を押さえていた手を、ブンッと水面に叩きつけた。直後プールの水面が……割れた。


「わっ!」







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