触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□7月  -ハプニング-
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先日課題曲をみんなが選び終えた時、これからのパートナー選びについて聞かされた。

曲を選んだのはその作曲者とパートナーになりたい、もしくはなってみたいという意思表示でもあるわけだ。誰のかはわからなくても曲を気に入り、歌いたいと思ったわけだから。

知らされてはなかったけれども、どうやら今回がパートナー選びの一次選考みたいなものだったらしい。

テスト当日には、その相手と対面することになる。そしてたぶん、同じように曲を選んだ他のアイドル志望の子達とも。

ここでは作曲家とアイドルが二人で曲を作り出すのが目的なのだから、作曲コースの子だけで作り上げられたものは他に意見を聞くことも出来ず、どちらかと言えば未完成である。

なので今回一曲に対し、一人しか希望者がいなかった場合は、そのままパートナーを組むことになる。

途中で方向性などが違い、それを解消しなけい限りはほぼパートナー確定だろう。そのまま卒業オーディションに向けて曲作りが出来るという点でもかなり有利になる。

だけど一曲に多数の希望者がいた場合はそういうわけにはいかない。
この場合は一定期間パートナーを交代しつつ、その中から自分に合った人を選ぶという方向になるそうだ。

まぁ、私達の方から言えば、今度は選ばれる側に回るというわけだ。

ただこれだと作曲コースの子にかなりの負担を強いることになるので、パートナーを組んでいる間は、今回提出された課題曲を詰めていくことになるらしい。ベースは出来ているから少しは楽だろうという考えからだそうだが、これでもやっぱり負担は負担だろう。

そして、パートナーを組めなかった人達はこれ以降、自分の担任に申し出ることにより、両者が納得すればパートナーを組むことが出来るらしい。

要するに早い者勝ち、みたいなことがあるわけだ。

これはもちろん、まだ決まっていない人が全対象になるから、テストで多数のパートナー候補が出来ている者でも他の人にラブコールすることも出来るし、また逆も可能。

そんなわけでここで、パートナーを組めた者とそうでない者の間に、大きく差が出るということだ。

と、まぁ自分で言っててもわかんなくなってきたんだけど、夏に入ってパートナー選びが激化するってことだね。

早めに決めることが出来れば、卒業オーディションまでじっくり曲を煮詰め歌を仕上げることができるけど、決まらなければ最悪一人でオーディションに望まないといけないってわけだ。

だからと言って、焦ってパートナーに妥協はしたくない。

レンくんとの練習も順調だ。彼の声はやっぱり素晴らしいし、一度覚えたことはすぐに自分のものにする柔軟性はさすがだ。
今まで表面的な感情しかこもってなかった曲がさらに魅力を上げて、聞いているものを彼の世界に引きずり込んで放さない。

同じアレンジの曲を歌っていても、彼と私ではまったく違う曲に聞こえるに違いない。


(本当に、すごい人をライバルに持っちゃったみたい)


そうは思うけれど、嬉しくてたまらない。こんなに素敵な歌を聴けて、逆に私の方も負けて入られないと熱が入るから。










夏といえば普通の学校でもあるだろう、プールでの授業がもちろんここでもある。あんなすごい屋内プールがあって、授業がないなんてありえないしね。
けどそんな素敵なものがあったとしても、私は参加するわけにはいかない。というか出来ない。

もちろんその事情は日向先生も知ってるから、適当な理由を作ってくれているので気にせず見学出来る。
塩素に触れると肌に蕁麻疹が出来るとかなんとか? なんかそんな感じらしい。

だって、どう考えても水着になんてなれないもんね。女の子の水着は着れないし、ましてや男の子のなんて無理すぎます。

そういうわけで今日がプール開きの日なんだけど、なぜだかAクラスの人達もいる。なんだろ、合同授業?


「あらぁ。龍也のクラス、今日ここ使う予定だったの〜?」

「俺んとこは一週間前から予定入れてて、初日はうちが使うようになってたはずだが。林檎も使用願出してたか?」

「んー、アタシのとこは昨日シャイニーがクラスに来て『明日はスイミングですよ、林檎サ――ン!』って言うから急遽?」

「なんだそりゃ。なーんか企んでそうだな、あの親父。まぁいい、こんだけ広いんだ。二クラスでも十分………」

「はっはははハー! それはノンノンノ――ンなのネー!!」


どうやら予期せぬブッキングだったらしく、日向先生と月宮先生がそんな会話を交わしてたら、突然学園長の声と共に天井からゴンドラが降りてきた。天井もガラス張りなんだけど、どこに設置してあったんだろうこれ。


「ふん、アイドルを目指そうという者達が仲良しこよしではダーメダメダ―――メ。世の中じゃっくにくきょうしょっくぅううう!!強いものが残りぃ、弱いものがサルぅう!! であーるからしてっ! YOU達、クラス対抗で水球対決しちゃいなYO」


プールの中央に浮かんだゴンドラの上から、ビシィイイと生徒達の方を指差してくる学園長。言ってることに正当性がありそうで、ない。だって、月宮先生の話じゃAクラスをわざわざここに呼んだのって学園長なわけだし。
SクラスとAクラスを戦わせるようにわざと仕向けたってことですよね…。

それにしても水球って、どんなルールだったっけ。


「あー、毎年どっかのクラスでやってるやつか。いきなり初日からだとは思わなかったけどな。
いいかお前ら、よーく聞け。水球っつっても本来のものとは全然違う。三対三で……」

「ノ――――ン! 今回はぁ、そうではアッリマセ――――ン!! 四対四で戦ってもらいマース。メンバーはぁ、ミーがすでにくじ引きで決めてアリマース。
Aクラスからは、Mr.イットキ、Mr.ヒジリカワ、Mr.シノミーヤ、Miss.七海。
SクラスからはMr.イチノセ、Mr.ジングウジ、
Mr.クルス、Mr.秋の八名デース」


名前を呼ばれて驚いた。学園長だって私の性別知ってるんだから(というか、そもそもそういう風に仕向けたのは彼だ)、私は絶対に選ばれることはないと気を抜いていたからだ。

なのに何故くじ引きから除外していないんだろう。それに、この同室対決に学園長の作為を感じるんですけど。







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