レンくんほどの感性の持ち主なら、これを聞いて何も感じないなどありはしないだろう。 だからこそ怯え、混乱しているのかもしれない。彼は心の底では歌うことを求めている。だけど本気で何かを求めても、得られない寂しさと孤独を彼は知ってしまっているから。 「これ、僕が選んだのと同じものですね」 「うん、やっぱりアッキーはすごいね。オレはこれを聞いて、歌ってみたいと思ったよ。だけど、オレにはそれだけじゃまだ足りない」 そう言って、もう一枚CDを取り出した。今回出されたものに、私が(たぶん)七海さんの曲以上に歌いたいと思う曲はなかったはず。 だったら、これはなんだろう。これも日向先生に渡されたのかな…。 「これも流してみてくれるかい?」 「あ、はい」 CDを止めて、渡されたもう一枚をセットする。しばらくの無音の後流れ出したその曲は…… 「これっ……!?」 「そんな反応をするってことは、やっぱりこれはアッキーの曲だったんだね」 そう、これは私が作った今回の課題曲だ。だけど誰かに歌ってもらうために作ったのではない。 HAYATOと一緒に歌ったあの日、何かが閃いた気がした答えがこれだ。寮に帰ってからそれがふわっと浮かんできて、その感覚が薄まらないうちに作り上げた。 想像が膨らんで楽しくって仕方なかったそれを、日向先生に聞いてもらった。ただ私の感じたものを音にして、誰かに聞いて欲しかったから。月宮先生にも聞かせたいからって、日向先生に預けてたのだが、まさかレンくんの手に渡るとは思わなかった。 「これは、ユニットソングだよね?」 「…はい。HAYATOさんと歌った時に、一人では味わえない何かを感じました。その何かを表すために、それを作ってみたんです」 「あの時のアッキーは、オレの目から見ても輝いていたよ。HAYATOに嫉妬しそうなくらいにね。 そしてオレの答えもこれなんだ。どんなに歌いたいと願っても、オレはもう歌い方を忘れてしまった。ずっと逃げ続けて、見ない振りをし続けていたから……。だけど、キミとなら歌えそうな気がする。一緒に歌いたいと思った」 レンくんから今まで感じたことがないような熱い想いが伝わってくる。歌いたい、けれど失くすのが怖くて歌えない。 それを私という存在で補おうとしている? 彼に特別何かをした記憶はないが、彼は私を必要としてくれている。 「七海さんの曲、レンくんは本気で歌いたいんですね」 「これはあの子羊ちゃんの曲だったのか、いいセンスをしているね。 これにはその価値があると思う。アッキーも選んだんだ、それはオレの間違いじゃないだろう?」 「はい、彼女は今後これより素晴らしい曲を書くでしょう。曲に込められた想いは深い。ならこっちも本気で歌わないと失礼になる」 「だからこそ、アッキーに手伝って欲しい」 この人の中にこんなに激しい情熱が眠っていたのか。今までの彼だって十分そう感じていたのに、それの比じゃない。そして、そんな彼と一緒に歌うことが出来たら……。 |