触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□7月  -ハプニング-
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「レンからそういう発言がでるなんて珍しいですね。何か魂胆でも?」

「ひどい言われようだ。だが間違っちゃいないかな。
ライブも楽しそうだとは思うが、アッキーと一緒に暮らしてたっていうその人に一度会ってみたいと思ってね」

「なるほどなー。昔アイドルを目指してたって人なら、なんかいいアドバイスとかもらえそうだしな」

「秋くんの先生みたいな方ですもんね! わたしもお会いしてみたいですっ」


歌の基礎と音楽に対する心構えみたいなものはあの人に全部教わったから、たしかに先生と呼べるかもしれない。だけどそのことを含めても、私はあの人を恩人だって思ってる。行き場のない私を拾ってくれただけじゃなくて、夢を掴む手助けをしてもらったのだから。

先生というならばあの場所、そこに集まる人すべてが私の先生、かな。


「けれど校外で活動するなら、早乙女さんの許可を取らなくてはいけないかもしれませんね。後々問題になっても面倒でしょう」

「そういえばそうかもね。あ、じゃあとりあえずさ。朔夜に確認だけしてもらって、出れそうなら園長先生にも聞いてみればいいんじゃない?」

「曲も完全に仕上がってるわけではないしな、それも踏まえた方がいいだろう」

「わたし頑張りますっ」

「ふふ、みんなでステージなんて楽しみですねぇ」

「えーと、すみません。盛り上がってるところ大変申し訳ないんですが……」


心はすでにステージに向けているみんな(レンくんの目的は違うみたいだけど)に水を差すようで悪いが、これ以上話が進む前に言っておかねばならない。口を挟んだ私にみんなの視線が集中する。


「ステージ予定は大分先まで決まっているので、夏休み中に出ることは出来ないと思います。僕があそこを出る直前は二ヶ月先まで決まっていましたから、今もきっとそうでしょう。
……結構頻繁に出演希望者がいらっしゃって、オーディションみたいなことしてましたからね」

「そうなのっ!? なんだぁ、残念だな…」


急にしゅんと項垂れてしまった音也くんを見て、本当に申し訳ない気持ちになる。だけど今はもう月末だから、どう考えても来月はきっとすべて埋まっていると思うんだ。


「それにですね。『バー』ですからアルコールを飲むために行くわけではないとはいえ、僕達未成年がそこに入るのは少し問題があるような気がします。もちろん店内に僕を含めそういう人達がいなかったわけではないですけど……」

「……ステージに気を取られて失念していたな。バーとは酒場のことだったか、たしかに未成年の我々が足を踏み入れて良いようなところではないな」

「僕達がそういうところに行くことを、早乙女せんせぇは快く思わないかもしれないですねぇ」


音楽を肴にお酒を楽しむ。もっぱらお客さんの目当てはそのステージなんだけど。居酒屋にだって未成年は行くわけだし、もし行くとしてもお酒を飲みに行くわけではないから気にすることもないのかもしれない。

だけど私達はユニットを組んだばかりで、それが問題でも起こって解散なんてことにならないためにも、最悪の事態を想定して、事前に避けられる危険は回避しておいた方がいいと思う。


「もとが不良の溜まり場的感じなのもありますし(今もだ)、特別問題が起きたことがあるわけじゃないですけど(あの人怒らせると恐いから)、内情を知らない方からすればあまり良い印象は受けないでしょうね」

「ん、まぁたしかになぁ……。日向先生同伴…とかだったら入れそうな気がするけどな」


それは……ちょっと見てみたいかもしれない。二人とも雰囲気が似てる上に長身だから、並んで立ってもらったりなんかしたら壮観だろうなぁ。

けれど先生もアイドルとしての仕事もあるわけだし、ただでさえ休んでいなさそうなのにこっちの都合で付いてきてもらうのは抵抗がある。逆にもし先生がいいと言ったとしても休んでもらいたい。


「何にしろこの話はここまでですね。仮に許可が下りたとしても、出演予定がすでに決まっているならどうすることも出来ませんから」

「そうだな。では本来の目的である、休みの間の予定でも決めよう」


トキヤくんの一言に「それもそっか」とみんなが納得した。本当に残念そうにしていた音也くんの気持ちもわからなくはない。数十回の練習よりも一度のステージで得るものの方が多いと思うから。

けれどステージに立てるチャンスはここだけじゃない。卒業オーディションで優勝、もしくは良い成績を修めることが出来ればもっともっと世界は広がる。

私達の場合は早乙女学園で初めてのユニットでの卒業を目指しているのだから、そのためにも今は曲をしっかりと練って誰をも唸らせ、認めてもらえるものにしないと。

結局私達がユニットを組んだということは他の生徒達には知らされなかったけど、きっとすぐに話は広まる。そうなればいろいろな反感を買うことにもなるだろう。そのためにも誰にも文句を付けられないようなものを。

夏の予定を話し合うにしても、もともと同じ寮内にいるわけだから、里帰りする人がいなければいつでも会うことが出来る。ということで翔くんが実家へ帰る日は確実にお休みすることだけを決めて、あとは連絡し合うことになった。

集まらなくても決められたことだけど、やっぱり一緒にやるからには協調性も大事。こうやって集まって話し合って、意見を交わす。そうすることで連帯感とか絆とかが生まれるだろうから、どんなに無駄なことに見えたって、ユニットとして活動するからには必要なことだと思う。

Sクラス同士、Aクラス同士は仲が良くてもそのクラス同士の交流が少ないから、余計に。

それからしばらくそこで曲についても話し合ってから寮へと戻る道すがら、翔くんに那月くんのことを話しておいた。
あの日翔くんが助けを求めてきた前後くらいから、彼も那月くんの心配をしていたらしくずっと気には掛けていたみたい。

だから先生達から聞いたことを彼に告げるとすごくびっくりしていた。このままだと那月くんと砂月くんが入れ替わってしまうかもしれないなんて、私でも未だに信じられない。

だってどう考えても砂月くんがそのままの状態で放っておくはずがないもの。

すぐにそうなってしまう危険がないとは言われたけれど、それは突き詰めればいつでもそうなる危険があるということと同意ではないだろうか。
だからこそ翔くんには知っていて欲しかった。付き合いの長い彼ならどんな変化でも見逃さない気がしたから。

それと砂月くんが出てきたらすぐに呼んで欲しいことも伝えた。

砂月くんは今まで全てを自分一人で抱えてきているから、今回もきっと誰かを頼ったりなんてしない。ただ見守っているだけじゃ解決はしない、こちらから聞き出さないと。

ユニットを組むことになって、これから先が楽しみで仕方なかった矢先の今回の件。デリケートな問題だからすぐにはどうにもならないだろうけど、それでもどうにかしなければと気は焦る。

那月くんは大事な仲間だし、その那月くんの一部である砂月くんだって、私の中ではもう欠かせないものになっている。

突然飛んでしまう記憶で那月くんが情緒不安定になっているのなら、その不安を取り除くことで少しは改善するかもと学園長も言っていたし、まずはそこから始めてみようかなぁ。











グダグダ感満載。前回の続きみたいななんちゅーか?
自分でも何でこれ入れたかわからん←
これにて7月は終わりっ。
余計なことを書きすぎて長くなりましたがここまでお付き合いありがとうございます。

8月は……まだ片付いてない問題やらを消化です。

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