触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□7月  -ハプニング-
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歌いきった後の余韻が、全身に響き渡っていつまで経っても止まらない。初めて七人で歌った曲。それぞれの想いが歌から流れ込んでくる。自然体、だけど強い気持ち。この感動は言葉では言い表すことが出来ないくらい、それほど今の私は興奮していた。

そして七海さんの曲は本当にすごい。

私達はこの一週間の間、何度か彼女に歌を聞かせたことはあるけれど、トキヤくんはあのテストの時、それからPCにアップされたものくらいしか音源はないはずなのに、その声から感じ取れるすべてのものを彼のパートに込められていた。実際にトキヤくんが歌ってみて完成されたパートには感嘆する。

掛け合い、ハモリ、そのどれもが違和感なく、みんなの音が交わる。これだけ個性的なメンバーが揃っていてもそのどれをも潰すことなく活かす。やっぱり私達のパートナーは彼女しかいない。

充実感、達成感、ひとつになれた喜び、いろいろなものが身体中を駆け巡る。それはみんなも同じようだったみたいで、誰からともなく歓声が上がった。


「なんかすっごい気持ちよかった! うーん、なんていうのかなぁ…」

「歌っている時、不思議な感覚がしました。音に包まれるといったら良いんでしょうか、とても幸せな感覚」

「ああ、俺も感じた。やはり七海の曲は素晴らしいな。そしてサクの歌声も。共に歌うと自然と気持ちが溢れ出てくる」

「不本意だが、聖川と同じ意見だな。……やっぱりアッキー、オレと二人でデュエットにしないか? 子羊ちゃんも一緒に三人で」

「却下だ却下! つか、それだと今ここで歌った意味、なんもなくなるじゃねーかよっ」


そんな様子を見てるとくすくすと笑いが零れる。彼らも心の底から楽しんでくれたんだなと感じることが出来たからだ。

その時、会話には加わってなかったトキヤくんがすっと横に来てじっと私を見つめた。冷静さを保っているようではあるが、その瞳には今までのトキヤくんからは感じられなかった、歌い終わった後の熱が浮かんでいる。


「あの時の朔夜が言った言葉の意味がわかりました。確かに今までの私の歌は魂など籠もっていなかったようです」

「トキヤくんはそれを忘れていただけでしょう?」

「そう、ですね。昔はこんな風に歌っていたような気がします。
彼らも言ったように七海さんの曲が、そして君の声が私を呼び覚ましてくれた」


どんな言葉を尽くすよりも彼には音楽を通したほうが伝わるみたいだ。ただ、以前のトキヤくんならば何も感じなかったと思う。彼が変えようと、変わろうとしていたからこそ、こうして彼の中に眠っていたものが目を覚ましたんだろう。


「あー、盛り上がってるとこ悪ぃんだが。お前ら忘れてないか? 今の歌を何のために歌ったのか」


ゴホンと咳払いをひとつしてから日向先生が遠慮がちに話しかけてきた。

その言葉に一瞬にして湧き上がっていた気分がすぅっと冷める。そうだ、これはトキヤくんが私達と参加出来るかどうかのテストだったんだ。
七海さんに告げたように、私もみんなの歌声を感じることに集中していたから、途中からそんなことすっかり頭から抜け去っていた。

音也くんやトキヤくん達もその言葉にハッとなり、揃って学園長を見つめる。

みんなの歌声が相乗効果をもたらし、誰もが自分の持つ力以上に歌えた自信はある。それがみんなの表情にも表れていて、誰一人として不安げな顔をしている人はいない。


「…………」


歌い終わってから学園長はまだ一言も発していない。それが嫌に不気味だ。


「……有り得ましぇーんネ!」

「!!?」


やっと開いた口から出た言葉は信じたくない言葉。

伝説のアイドルと呼ばれる学園長の心にはまったく響かなかった、そういうことになる。一体何が、何が足りないというのだろう?

もっと詰めればさらに良いものになるとは思うけど、練習期間も少ない今の現状では最高の出来だったと思う。

反論したくとも、頭が真っ白になって言葉が出てこない。まだ始まってもいない、こんなところじゃ終われないのに。


「有り得ないほど……すん、ばらし〜!! ブ、ラ〜ヴォ〜」


「「「「「「「「え?」」」」」」」」


予想に反したその叫びに、私達は一様に気の抜けた声を出してしまった。だって普通その言葉の使い方はないだろう。てっきり否定されたものと思ってたのに…。

見たくもないけれど、学園長の背後にパァァっと花が咲くのが見える。これまた見たくもないんだけど、興奮からかうっすら頬も染まって…、だめだ。やっぱ見ないようにしよう。

サングラスで見えないけれど、きっと瞳も輝いているに違いない。くるくると回転しながら感想を語る彼を直視出来ないのは、きっと私だけじゃないはずだ。


「まさかここまでの出来になるとはー、正直言って予想もしてませんデシタ〜。曲、歌声、それが奏でるハーモニー、すべてがミーの想像を上回ってマッス。
そこにたーしかに、友情、青春、愛を感じマシタ!」

「試すようなことして悪かったな。っつか、俺は一ノ瀬が来た時点で入れるつもりだったんだが、早とちりはよくねーぞ、朔夜。
まぁ、お前らがどういう反応をするかを見るためにも、ああいう言い方をした部分もあるがな」

「ええっ!?」


これも予想外だ。あんな冷たい言い方されたら、誰だってトキヤくんの参加を認めないものだと思う。


「それを良いことに社長まで悪ノリしやがって。お前らはお前らで、九月までにって言ってんのに曲まで作ってきてやがる。だがお前らの本気を見る良い機会だった。
一応名目は『課題』だったからな。半端な気持ちじゃお前らみてーなアクの強い奴ら、纏まるわけねーし」

「これは九月を待つ必要はアリマセンネ〜、龍也っサーン!」

「ああ。お前達、今日からユニット組んで卒業オーディション目指せ」


呆然とする私達を余所に、学園長と日向先生は話を纏めだす。
特例としてこれは通達した方が良いとか、他にも同じようにユニットを組みたい生徒がいるならその実力を見た上で考慮するようにしようか、など目の前で話さていることなのに言葉となって頭に入ってこない。

ただ困惑する中でも明確に意味を成している言葉は唯ひとつ。


「い……やったぁあぁああああ!!! 俺達ユニット組めるって!!」

「良かったですね、これで僕達一緒に歌えますよぉ!」

「九月を待たずして活動出来るとは、怪我の功名だな」

「やりましたね、みなさん!! わたし、これからもっともーっと素敵な曲、いっぱい作りますっ!」

「なんか今更ながらに身体に震えが来たぜ。これで、一歩前進だなっ」

「まったく、ボスもリューヤさんも人が悪い。だが聖川やイッチーの間抜け面を拝めたのは良かったな」

「それはあなたも同じだったでしょう。何にしろこれで…………朔夜?」


なんだか立て続けにいろいろなことが起こったせいで、放心状態から抜け出せない私をトキヤくんが呼ぶ。


「何故、泣いているんですか?」

「え?」


泣いている? そう言われて初めて頬の辺りに違和感を感じた。なんだかスースーする。気になって指で辿ってみれば、言われた通り私の瞳から無意識のうちに涙が溢れ出ていた。


「あ、れ。変ですね僕、悲しくなんて全然ないのに」

「わわわ! 朔夜、大丈夫?」


音也君が心配げにギュッと右手を握ってくれる。


「感極まっちゃったってとこでしょうねぇ。泣かないでください、サクちゃん」


優しい手つきで那月君がゆっくりと頭を撫でてくる。


「これも全て、お前が俺を導いてくれたお陰だな。ありがとう、サク」


真斗くんが左目に溜まった涙を親指で拭ってくれる。


「泣くならオレの胸を貸してあげるけど?」


今度はレンくんが反対側の涙をウインクをしつつ拭う。


「笑え! 俺達、あのシャイニング早乙女を認めさせたんだぜ?」


ニカッと笑った翔くんが背中をぽんと叩く。


「その気持ちわかります! わたしもなんだか嬉しさで胸がいっぱいで……」


七海さんが左手を握って勢い良くぶんぶんと振ってくる。確かにかなり興奮状態であることが伝わるよ、七海さん。


「明日から忙しくなりますよ。私は妥協は一切しませんから、今日のようなもので満足されていては困ります」


正面に立ったトキヤくんが意地悪そうな笑みを浮かべる。
これが、今日から私の正式なパートナーとなる人達。かけがえのない大切な仲間。

彼等の言葉が、笑顔が、温もりが、私にようやくそれを実感させてくれた。


「トキヤくん、来てくれてありがとうございます。……これから……よろしくお願いしますね、みんな!」










「良い顔をするようになったな、一ノ瀬」

「すべて……朔夜の、秋くんのおかげです」

「そうか。で、どうするつもりだ」

「………………」

「ふっ、まぁいい。自分のことだ、お前自身が納得する方法を取るが良い」

「…はい……」













あれ、ここで終わりでも良くない?って、一瞬考えたよっ←
やっとユニット組めたぁ。けど、デビューはまだみたいです。

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