触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□7月  -ハプニング-
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それにしても今何時なんだろう。ふと電子レンジのデジタル時計を見てみるとすでに十時を回っていた。久しぶりにこんな時間まで寝た気がる。

……レンくんは、朝ごはん食べたのかな。私はいつも食べないからいいけど、お腹空いてないかな?
そう思って、冷蔵庫にあったハムやチーズなどでサンドウィッチも作ってみる。飲み物は…紅茶でいいよね。


「お待たせしました。レンくん、朝食は食べました?」


トレーにサンドウィッチ、紅茶、そして自分用のコーヒーを乗せてテーブルへと置く。本当はコーヒーと紅茶を一緒に、なんて香りが混ざっちゃうからよろしくないけど、起きたばっかりの私はコーヒーを飲まないと頭が働かない。


「いや、食べてないよ。しかし、アッキーに食事の心配をされるなんてね」

「う…」

「ははは、ごめんごめん。わざわざ作ってくれたんだね、ありがとう。いただくよ」


レンくんの前に紅茶とサンドウィッチの乗ったお皿を置くと、すぐに手をつけてくれる。一見高級志向に見えるが、意外にも彼は素朴な手料理も好きらしい。まぁ、これは手料理といえるようなものでもないんだけど。

しかし意外と言えば、レンくんが那月くんの料理をなんの違和感なく食べることだろうな。むしろ独特な感じがいいとか言って好んで食べるし。

それから、極度の辛党。

あれだけ甘い言葉を吐くのに舌は辛党だなんて、ちょっと笑える。

他愛もない話をしながら私も少しだけサンドウィッチをつまみ、綺麗にお皿が片付いた後、お替りの紅茶を入れて一息。

それまでにこやかに話していたレンくんの表情がふっと翳った。


「どうかしました? あ、何か用事があって訪ねてきたんですよね」

「ああ……」


いつにないレンくんの様子に首を傾げる。


「ついこの間、リューヤさんに呼び出されたろ? それでまぁ、条件をクリアしないと退学だって言われたんだけど」

「ええっ!?」

「いや、それはいいんだ。ああ、良くないのか。まぁ、どっちにしろオレにとってはたいしたことじゃない。
アッキーに少し話したよね、オレがここに来た理由」

「はい」

「オレはね、家では要らない子供なんだよ」


それはどういう…? 意味がわからない。


「長男は跡継ぎ、次男は何かあった時のための保険。だけど三男は必要ないんだとダディにはっきり言われたんだよ。オレは不要な子供、生まれて来なければ良かったってね。
オレがまだ女ならよかったんだろうけどね、政略結婚やらなんやらで使い道はあるだろうから」

「そんなっ!?」


レンくんのお父さんは、自分の子供だというのにまるで道具のようにしか見てないっていうのか。そんなのって……。


「それでもオレはなんとか認めてもらおうと頑張った。けれど、ダディは一度もこちらを向いてくれることはなかった。
そしてオレは息子としても、神宮寺家の一員としても認めてもらえないままダディは逝ってしまって、跡を継いだのは兄貴だ。
何をやったって結局は無駄なんだって気付いた。だから本気になるのをやめた。
すべてに嫌気がさして、その頃のオレはかなり悪さもしたし、やばいことにも顔を突っ込んだ。それを見るに耐えかねた兄貴にここに入れられたって寸法さ。これ以上神宮寺の名を貶めるようなマネをされたくなかったんだろうな。そしてテレビ受けのいいオレを、後々広告塔にしようって魂胆なんだろ」


広告塔にするための入学。そこに密かな矛盾点があることにレンくんは気付いているだろうか。

神宮寺財閥ならわざわざ学園などに通わせずとも、アイドルとしてすぐにでもデビューさせることが出来る、と聞いたことがある。それは日本屈指の財閥なのだから実際そうなのだろう。なら、何故お兄さんはレンくんをここへ?

早乙女学園ではある一定の成績を修めなければ、アイドルとしてデビューすることは不可能だ。万が一シャイニング事務所に所属出来なかったとしても、他の事務所から声がかかる場合はある。

しかし、学園に来たものの最終目標はやはりシャイニング事務所への所属だ。けれどそれは一握りの生徒だけ。アイドルとして広告塔にしたいだけならば、そんなことをする必要がない。

たしかに業界最大手の事務所のアイドルともなれば箔もつくだろうが、それはレンくんのやる気次第。そして、レンくんはハナからそんな気は見せていないだろう。
そう考えると、お兄さんはもっと別な何かを望んで彼をここに入れたんだと思う。

当時の彼を見ていられず、手を差し伸べた。とは考えられないだろうか。


「だからまぁ、オレは初めっからやる気がなかったんだけどね。でも……アッキー、キミが関わるとオレは本気を出さずにはいられないんだ。
オレは自分に踏み込まれるのが嫌いだ。だけどキミの言葉だけは、オレの中にすっと入り込んで不快感を覚えない。キミの心がオレを熱くさせる。おかしいだろう? こんなこと今までなかった」


弱々しい笑みを浮かべてレンくんは言う。

いつもの自信に溢れた彼は今はここにはいない。不安と、自分の中で起きている理解出来ない現象に怯え、その答えを探している。

すっとテーブルの上に一枚のCDが置かれた。


「これは?」

「リューヤさん達に渡された今回の課題曲だ。これを聞いてオレが何も感じず、テストまでに歌を仕上げることが出来なければ退学だと言われたよ」


すべてを受け入れることを拒否した彼に日向先生達が示した曲。

彼の何かを変えれると思ったからこそ渡したんだろうその曲に、私はぴんと来た。彼女の曲に違いないと。


「聞いてみてもいいですか?」

「うん」


手渡してくるそれを受け取り、オーディオ機器にセットするためにその場を離れる。
流れてきた曲は、やはり今回私が選んだあの曲だった。











シリアスになると難しいな。
ハルちゃんの曲ありきで恋愛させるのはかなりムズイっすね。頑張る…。
ゲーム、アニメとは別物のプリンス達でお送りしています←
気を抜くとレンがこのまま口説いてしまいそうになるので、方向修正が大変です…。朔夜ちゃんなら、聞いても受け流しそうですけどねっ。

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