「なぁアッキー。イッチーとは話したのかい?」 「俺らもやることになったし、あとはトキヤだけだろ。そもそも今日いないし、あいつどうする気なんだ?」 朝、日向先生から放課後集合するようにと伝えられた後、レンくん達は私に確認してきた。今日がユニットに参加するかどうかの最終決定の日だからだ。 トキヤくんのことは彼らも気にはしていたみたいだったけど、やっぱり話題を避けている雰囲気を察知して、彼に対して口にすることはなかった。今までと同じようにふざけあったり、からかったりするに止めていたんだ。 気にはしていてもレンくんなんかは、やる気がないならそれで構わないという態度を取っているし、トキヤくんと同じように初めは渋っていた翔くんは、一切語ろうとしない彼にだんだんと苛立ちを隠せないようだった。 「なーにが不満なんだか。そりゃさ、俺だって即答はしなかったぜ?でもやりたくないとかそういうわけじゃなかったし……、気にかかってることがあんならさ、言ってくれりゃーいいのによ」 「イッチーは秘密主義だからな。何にしろ嫌々参加してもどうにもならないし、今日いないってことはそういうことなんだろ。 子羊ちゃんの曲もアッキーと歌うことも、あいつにとっちゃどうでもいいってことだ」 「それは違いますっ」 彼と話したのは私一人だろうから、事情を知らないレンくん達がそう言う気持ちもわからなくはない。だけどトキヤくんは、彼は歌いたいと思ってくれている。それに七海さんの曲がどうでもいいなんてこと絶対に有り得ない。 他の作曲コースの人達には悪いけど、トキヤくんの歌声を十分に活かせるのも彼女の曲しかないだろう。 「朔夜、お前何か知ってんのか?」 翔くんに問われ言葉に詰まる。詳しい事情を知っているわけではない。正直な話、彼ははっきりとユニットに参加したいと意思を示したわけでもない。 彼の言葉から私がそう感じたに過ぎなく、まだみんなには伝えてないけど、彼のことを待ちたいというのも、ただの私の我侭でしかないのかもしれない。 「僕が知っているのは、トキヤくんが一緒に歌いたいと思ってくれている、それだけです」 だから彼らに言える言葉はこれしかない。 「トキヤがいりゃ出来ることは広がっかもしんねーけど、こればっかりは俺達だけで決められるもんでもねーしな」 「すべては今日の決定次第ってね」 そう、先生方とみんなが認めてくれなければいくら歌いたいと願っても、今後一緒には出来ない可能性の方が高い。それだけは避けたい。 「理由はわかりませんが、参加したくても出来ない事情があるような感じでした。それさえなければ…そんな雰囲気が伝わってきたんです。そして彼がその何かを克服しようとしていると。だから、僕はトキヤくんを待つつもりです。 今日は無理かもしれないけど、きっとそれが片付けば参加してくれると」 「……なんだか妬けるな、アッキーがそこまで言うなんてね。でも、そういうとこがアッキーがアッキーたる所以でもあるしな」 「そうそう、意外と言い出したら聞かないとこあるし」 「ふぅ。キミの望みを叶えるためにやり始めたことだし、これはオレもイッチーを待つしかないかな」 「レンくん……」 「愛想はないし可愛げもないけど、あれでも一応、俺様の友達だかんなっ」 「翔くんっ」 「おチビちゃんに可愛げがあるって言われても、イッチーは怒りそうだけどね」 彼らこそ口ではなんだかんだと言っていても、トキヤくんを認めている。だからこそ厳しいことを言ってしまうんだ。 「もしかしたら放課後までに来るかもしれませんし、そうしたらもう一度話してみます」 「そんときゃ俺らも呼べよ。ガツンと言ってやっからさ」 絶対に先生達を説得してみせる。心強い仲間と一緒なら乗り越えられる、そして始めるんだ。新しい音楽を。 結局トキヤくんは放課後になっても姿を現さなかった。今日が締め切りだってことは彼も知っていたし、それに来ないともなれば心象は悪くなってしまう気がした。 同室の音也くんはともかく。トキヤくんをまだよく知らない他のAクラスのみんなはどう思うだろう。 「アッキー、行こう。時間に遅れる」 「……はい」 「なんであいつは来ねーんだろうなぁ。やっぱ本当はどうでもいいとか思ってんじゃ……」 不安が押し寄せる。本当は翔くんの言うことが合ってるんじゃないかって。すべては私の勝手な思い込みで、トキヤくんは実はユニットでやることを望んでいないのではないかと。 もともとは一人で行動することを好む彼だから、今回みたいな大所帯での活動はまったく視野に入っていなかっただろうし…。 「おチビちゃん…」 「えっ? あ、いやっ、……悪ぃ」 「いえっ、きっと何かあったのかもしれません」 何度か携帯に掛けてみたけれど繋がらない。彼がHAYATOとして仕事をしているなら、手元にそれがなく気付いていないとしてもおかしくはないけれど、一日中休憩がないわけではないだろうし、着信履歴を見て連絡をくれてもいいはずだ。 なのに今まで連絡がないということを考えると、やはりこの件は……そう思うと気分がどんどん落ち込んでしまう。 だから何かがあって連絡が取れないだけなんだと、思い込まなければますます悪い方考えてしまう。 その思い込みさえも事故などにあっていたらどうしよう、なんて不安を募らせるんだけど。 考えすぎて深みに嵌りそうになっている私の背中を撫で、レンくんは「大丈夫だよ」と慰めてくれる。 そうだ。私が言い出したことだ、自分で信じなくてどうする。 「行きましょう、みんなを待たせたら悪いですしね」 心配してくれる二人に精一杯の笑顔を見せる。私がどんなに気を揉んでも、ここにトキヤくんがいないことは私にはどうしようもないことだし。 悲観するのは本当にトキヤくんが参加出来なかった時にしよう。あの時彼は私の言葉を否定しなかった。それを思えば暗くなることはんてないはずだ。 |