コンコンッ 休日の朝、ゆっくり朝寝坊をしていたら部屋の扉がノックされた。いや、この時の私はノックだと気付いてはいないんだけどね。 「ん…」 基本的に物音なんかですぐに目を覚ますことが出来る私なんだけど、この日は前日、夜遅くまで起きていたせいか音に気付きはしたけど覚醒までに至らない。音がしたのはわかっているけど、それが何の音かまで把握が出来なくて、だから余計に目を覚ませなかったんだと思う。 再び眠りに誘われて、すぅっと深いところへ落ちようとしたところに再び、 コンコンコンコンコン 少し強めに叩かれたそれにハッと意識が浮上する。 「ふぁっ、はい〜?」 けれど寝起きでは呂律も回らず、寝とぼけている頭ではすぐに動くことは不可能に近い。 「アッキー、入ってもいいかい?」 んん? レンくん…が、朝から一人……だよね、珍しいな。 デートはないんだろうか、とか別に考えないでもいいようなことばかりが頭に浮かぶ。だから言われたことの意味も良くわかってない。むしろ自分が何を考えているのかもはっきりしてない。 「んん」 カチャリとドアノブが回り、レンくんが優雅に部屋の中に入ってきた。 シンプルな自分の部屋がレンくんが入ってくるだけで一気にエレガントさを増す。……って、え!? 未だベッドから抜け出してない私を見て、レンくんは意外そうに眉を上げた。 「なんだ、まだ寝てたのかい? これは悪いことをしちゃったな」 「レンくん……?」 「うん、おはよう。アッキー」 レンくんはそう言って私の寝てるベッド脇まで来たのだが、私は起き上がりかけた身体をそれ以上起こすわけにもいかずに固まった。そこにいるのがレンくんだとはっきり認識出来たことによってばっちり目が覚めて、ひとつのことを思い出したからだ。 (だって今私、胸を隠すいつものコルセットっつーかベスト着てない!) ささやかなものしか持ってないとはいえ、男の子には絶対あるはずのないもの。パジャマもダボッとしてるし、ぴったりさせなきゃわからないとは思う。第一、道を歩いていても普通に男の子に間違われるんだから変に意識しなければ大丈夫だろう。 けど、相手はあのレンくんだ。いろいろな女の子と交流がある人だから、どんな小さなことでも見逃さない気がする。 一気にクリアになった私の頭は、この状況をいかにして切り抜けるかで頭がいっぱいだ。 「寝ぼけてるアッキーなんて貴重だな。ふふ、なんだかいつもより可愛く見えるね」 そう言って、寝乱れてる私の髪の毛を手櫛で整えていく。 こ、この状況でこんだけの接近は本当にヤバイと思う! いや、レンくんはなんとも思わなかったとしても私の緊張が半端ない。 とりあえず、着替えよう……。そのためにはレンくんの視線を着替えに行く間背けてもらう必要がある。 「おはようございます、えと。こんな格好ですみません。すぐに着替えて飲み物出しますんで、ソファで待っててもらえますか」 「うん、休みの日に押しかけてきたのはオレだからね。いくらでも待つよ」 にこりと笑んでソファに向かうレンくんの後姿を確認して、素早くベッドから抜け出し、クローゼットの中から着替えをぱぱっと用意し、バスルームと併設してる洗面所へと飛び込む。 「うわー、ヤバイ、ヤバかった。っていうか私、部屋の鍵締めてなかったっけ……?」 ゴソゴソと着替えながら、昨夜というか朝方のことを振り返ってみる。 全然寝付けなかったから本を読んでて、それでも眠気がやってこなかったから気分転換に散歩にいったんだ。 じめじめと蒸し暑いこの季節だけど、朝方はそれが緩和されていて、部屋の中より外の方が幾分過ごしやすかった。(私はあまりエアコンが好きじゃないからよっぽどのことがない限り、自室についているそれをつけない) それで涼んでたらやっと頭がぽわーっとしてきたから、部屋に帰ってそのままベッドへ……。 「うん、鍵締めてない」 気の緩みが出てきたのだろう。私がこの生活に慣れきったせいだ。 みんなも異性が相手ならば返事があって相手が招かない限り、ドアを開けたりはしないんだろうが、何より私は彼らにとっては同性だし、普段彼らが来る時に返事だけして勝手に入ってもらってるからそのせいでもあるのかな。 しっかりと施錠の確認をしなかった私が悪い。 歯を磨いて顔を洗って、それなりに身だしなみを整えてから部屋に戻ると、レンくんは昨日私が出しっぱなしにしたままだった本を流し読みしていた。 「ごめんなさい、お茶でも用意しますね」 彼の脇を通り抜けてキッチンへと向かう。 |