触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□7月  -ハプニング-
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「ということで、一緒にやることになりましたんでよろしくお願いしますね、レンくん」

「ああ、わかったよ」

「へ?」


その日の夕方。レンくんと真斗くんの間を、なんとか少しでも改善しておきたかった私は彼らの部屋を訪れた。

いつも手を出す、というか挑発するのはレンくんだから、真斗くんが一緒にやるということになんらかのアクションを起こすと思っていたんだけど、すんなりと承諾されて間抜けな声が出てしまった。


「何度も言ってるだろ、アッキーと歌うことが出来ればオレはなんだっていいってさ。だから他のメンバーに誰が来ようと気にしない」

「それって仲良くしてくれる、というのとは違いますよね…」

「アッキーの目の前では喧嘩したらダメなんだろ? それはこれからも守るから、それでいいじゃないか」


頑なに真斗くんとわかり合うことを拒否する。けれど幼い頃は一緒に遊んだこともあると言っていた。その関係が壊れたのは、やっぱりレンくんの家のことが原因なんだろう。必要とされず、見向きもしてもらえなかったという家庭環境。


「サク、もういい。こいつはこういうやつだ。歌にさえ影響が出ねば俺も構わん」

「それはこっちのセリフだ。せいぜいオレの足を引っ張らないようにしろよ」


ひとり机と向き合って読書をしながら、相手を見ようともしない真斗くん。同じく視線を合わさないよう、ドサリとベッドに腰掛けて言い放つレンくん。

思わず溜息を吐いてしまう。なんだ、どっちもどっちじゃないか。私に対してはその胸の内を語って聞かせてくれるのに、対面すると喧嘩腰。どちらも言葉が足りない。

本当に嫌ならそもそも一緒にやってもいいとは私なら思わない。男の子同士ってこういうもんなのかもしれないけど、なんだかじれったい。そして…見ててイライラする。

いくら関係が悪化したと言ってもここでは同室同士なんだし、話す機会はいくらでもあるはずだ。でもお互いのプライドが邪魔をしてそれを出来ずにいる。本当は…誰よりも分かり合ってても良さそうなのに。

そう思ったら、内容なんて考えるより先に言葉が口を衝いて出てしまっていた。


「いい加減にしてください。二人が良くても僕が嫌です、そんなギスギスした間で歌いたくなんてありません。
結局のところ二人は似た者同士でだから反発するんですね。ええ僕にはそうとしか見えません。そればかりか僕の目には二人がないもの強請りしているようにしか見えないです、特にレンくん! 嫡男だから家を継がなきゃいけないなんて誰が決めたんですか。法律にでも書かれていますか、当主になるべき人物は夢を追うと罰せられるとでも言うんですか。それで真斗くんを憎むなんて逆恨みもいいとこです。
それから真斗くん! レンくんはレンくんだなんて言っておいて、同じ大財閥の息子でありながらも、家に縛られることない彼を羨ましく思うだからこそっ、いちいちその言葉に反応し、喧嘩を買うような言動を取ってしまうあなたにも責任あるんですよ!!!」



イライラの治まらないままついつい自分の先入観だけで、言ってはいけないとわかっていつつも説教じみたことを言ってしまった。

普段はあまり声を荒げることのない私が、息もつかずに一気に喋りだしたのに驚き、目を瞠り、二人が唖然として見ていたのがわかったけど、途中で止めることが出来なかった。

彼らの間に何があったかも、過去も家のことも、深く知ってるわけじゃない私が言っていいことではないのも承知してる。けど、すれ違う二人は見ていられない。どちらも大好きな、大切な友人だから。


「ごめんなさい。こんな上辺だけしか聞きかじってない僕が言える立場じゃない。
二人には二人なりの考えがあって、苦悩があって、その上でこういう接し方になったのはわかってるんです。でも本当は二人ともわかってるのに、今までの関係から、素直になれないあなた達を見てられなくてでしゃばってしまいました。本当にすみませんでした」


深々と頭を下げる。勢いで言ってしまったがこれは許されることじゃない。特にレンくんの育ってきた環境と心情を考えるならば、そんなに簡単なことでもない。


(あー、これは終わったかもなぁ)


身動きの音ひとつしない静まり返った部屋の空気からそう思う。

せっかく二人と一緒に七海さんの曲を歌えることになったのに、自分から壊してしまうなんて……なんて馬鹿なことをしたんだろう、もう泣いてしまいたい。これで七海さんをパートナーにすることも出来なくなった。
…どうしよう、私にはもう彼女以上の作曲家は見つけられそうにない。この際いっそのこと自分で作曲するか…。


「ぶっ……! くくく、ははははは」


私がそこまで考えた時、突如響き渡った大爆笑。

一体何が起きたのだと恐る恐る頭を上げて見れば、ベッドの上でお腹を押さえ、目尻に涙さえも浮かべて大笑いするレンくんの姿。


「くっ、神宮寺…そんな笑い方をしては…くく…失礼ではないか……はは」


そう言いながらも堪えることが出来ずに、結局は笑ってしまう真斗くん。そっちのがよっぽど失礼だと思います…。けど一体全体何が起こったんだろう。

私は笑われるようなことは言ってない、むしろ怒って部屋から叩きだされてもおかしくないと思ったのにこの有様。

戸惑っている私を、レンくんは人差し指で笑いすぎて浮かんだ涙を拭いながら、反対の手をちょいちょいっと振って呼ぶ。


「おいで」


促されるまま彼の傍にビクビクしながら近付く。レンくんは笑ってはいるものの、私の中ではまだ怒られるんじゃないかという不安でいっぱいだからだ。もちろんそうなって当然なんだけど。


「わ」


でも傍に寄った私の手をくいっと引っ張って、レンくんはベッドに座る自分の足の間に私が収まるよう華麗な手さばきで誘導した。気付いた時には彼の間にちょこんと座っていたくらい、そのぐらい違和感なく素早い動作だった。いつの間にか腰に手も回ってる、うーん謎だ。


「神宮寺っ、貴様何をしているのだ!?」

「ふっ、いいだろう。羨ましいかい?」

「女子だけでは飽き足りず、サクにまで手を出すつもりか!」


まだまだ混乱している私の肩に顎を乗せながら、真斗くんと会話する。手を出す…って何を言ってるんだろう。だいたい男の子抱え込んだって羨ましくもなんともないだろうに……って、レンくんは私のこと知ってるんだっけ。

ん? んじゃなんでこんなことしてるんだろう。

真斗くんもこの体勢を見て、叫びと共に浮かせた腰を落ち着かせることなく机に向かうのをやめ、こちらに駆け寄ってきてレンくんを引き離そうとする。


「あの、レンくん、真斗くんも……怒って、ないんですか?」

「何をだい?」

「だって、僕、さっき」

「まさかサクがあのような物言いをするとは思わなかったな、正直驚いた。が、そうさせた原因は俺達にあるのだろう?」


引き剥がそうにもなかなか離れないレンくんを諦めて(私に力がかかるのを気にして、本気で手を出せないみたいだった)、真斗くんは私と視線を合わせるようにしゃがみ込み、不安で握り締めていた私の手を彼の両手で包み込む。


「でも、そうだな。サクのいう通りかも知れん。俺は何にも囚われないこいつが羨ましかった」

「聖川…」







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