「お前は安定しているな。声色を使い分けることも出来るし、表現力もいい」 などとかなりの評価をもらえた。自分の声にコンプレックスを持っていたこともあるから、どういう発声の仕方をすればいいのかとか色々研究していた時期もあった。 普段は掠れた声しか出せない自分が、歌い方次第でガラリと雰囲気を変えると知ってからは、それに夢中になって様々なことを試したんだ。 だからその努力が評価されたようで嬉しい。 『今歌ったやつらは一度レコーディングルームへ来い』 日向先生がマイクを使って隣室にいる彼らに呼びかける。七海さんと一緒にイスに腰掛けて待っていると扉が開かれ、トキヤくん達が入ってきた。 すでに歌い終えたからかトキヤくん、音也くんを除く四人はすっきりした顔をしている。 音也くんは……心配したとおり、強ばった顔のままテストに臨み、かなりの酷評を受けたみたいだった。気持ちばかりが焦り空回りした結果、ピッチを外し、リズムも狂ってしまっていたから。 真斗くんは清々しい歌声を披露してくれた。 トキヤくんと同じく淡々としてはいたが、丁寧に歌い上げるその姿勢からは曲と真剣に向き合い、いかにしてそれを表現するか、真斗くんなりの想いが伝わってきた。 反対にレンくんは激しい感情を乗せて歌い上げた。秘密にしていた歌詞もすごく情熱的で、誰かを想いながら作り歌ったように思えた。 二人の歌は同じ曲なのにまるで静と動だ、まるっきり雰囲気の違う仕上がりにわくわくさせられた。 翔君はこの曲とすごく波長が合っていたみたいで、元気よく、可愛らしい歌になっていた。本人からも楽しんでいる雰囲気が伝わってきていたから、彼自身も納得の出来るものだったに違いない。 驚かされたのは那月くん。優しく、時には激しく、普段の彼からは想像出来ない歌声。思わず聞き惚れてしまうほど。 たぶんトキヤくんと同等の歌唱力。でも感受性が豊かな分、曲に乗せる思いも彼はしっかりとしていたから、この中では一番の出来だったんじゃないかなと思う。 「さて、これからパートナー選びについて説明するわけだが…」 「リューヤさん、ちょっといいかな」 日向先生の言葉を遮って、レンくんがすっと彼に近付いた。 「時間、まだいいかな? もう一回歌いたいんだけど」 「なんだ、評価はそんなに悪くなかっただろう。時間はないこともないが歌っても評価は変わんねーぞ?」 「評価なんてどうでもいいさ。これ……」 そう言って一枚のCDを手渡す。 「こいつは……、どういうつもりだ。神宮寺」 「ちょっとね? で、いいのかな、リューヤさん」 「わかった、なんだか知らねーがやってみろ」 突然の申し出に私達はみんな、何が起きてるのかついていけない。レンくんが何故突然そんなことを言い出したのか。 評価に納得出来ず歌い直したいという申し出ならまだわかるけれど、それだとわざわざみんなが揃ってから言う必要はないわけだし、何より彼自身はそんなことを望んでいないと言う。 真意はわからないけれど、彼がこれから何をしようとしているかはなんとなく察せた。 日向先生の了承を受けたレンくんはブースへと優雅な足取りで入っていく。そしてブースの向こう側から私を呼んだ。 「おいで、アッキー」 そんなことだろうとは思ったんだ。だってあのCDに見覚えあったから。 だけど他のみんなは呼ばれた私を一斉に振り返り、その視線で「どういうことだ」と問いかけてくる。 ……私だって、レンくんがどういうつもりでそれをやろうとしているかなんてわからない。けれどその行動が、何かを変えるような予感がした。 「おい、朔夜」 |