約束していた通り、レンくんと翔くんが部屋を訪れてきてくれた。 最近のレンくんは放課後の女の子達とのデートもあまりしてないみたいで、空いてる時間があるみたい。まぁそうじゃなきゃ、練習なんて出来ないだろうしね。レンくんのファンの子達は淋しがっているみたいだけど、彼が歌に真面目に取り組んでいるって知ると素直に納得して、逆に彼の歌を楽しみにしている。 普段の声があれだけいいんだから歌声もきっと素敵なはず、と思ってくれているんだろう。 実際に彼の歌声はすごいんだけどね。 だいぶ昔にテレビで歌ったことがあるとか誰かから聞いた覚えがあるけど、多分、その頃より格段に彼は上手くなっているはずだ。 「すみません、わざわざ来てもらって」 部屋に入ってもらい、いつも通りに適当に座ってもらう。 食事はもう済んでるみたいだったから、飲み物と軽くつまめるお菓子を用意して、私もソファに座った。 「サンキュー。よくよく考えたら、俺ら女のお前の部屋にしょっちゅう入り込んでたってことだよな。なんか、その……悪かったな」 バツが悪そうにもそもそと謝ってくる翔くんに、慌てて否定する。 「そんな。元はといえば僕が黙っていたのが原因ですから、むしろ謝らないといけないのはこっちの方です」 「でもアッキーも理由があって黙ってたんだろう?」 「え、ええ。まぁ……」 半ば強制みたいなものだった。それでもその話に乗ったのは私の意志だし、絶対にバレてはいけないというわけでもないのに彼らに話さなかったのも私自身。 せっかく仲良くなれたのに、それを話してしまうことで彼らがどういう反応を示すのか、それが怖かったから。彼らと付き合ってきたのが偽りの自分だと知られた時、きっと今までのようにはいかないと思ったから。 上辺だけで付き合ったつもりも、本心を偽ったりしたこともないけれど、根底を覆してしまうような大きな秘密はきっと彼らを騙した、馬鹿にしてると取られてもなんら可笑しくはなかった。 「試験の日の面接の時です、いきなり学園長に男として入学するように言われました」 思い返してみても突然すぎる。だって、自己紹介をしてイスに座った直後だったもんね。何を言われたのか一瞬理解が追いつけなかったくらいだ。 「その場でそのことを条件に合格宣告されました。あ、でも後で教えてもらいましたけど、入試の成績もちゃんと合格ラインを超えてたのでその辺は不正はしてません」 「んなの、朔夜見てればわかるって。コネで入っただけじゃ歌も、演奏も演技も、あんなレベルのもの出来るわけねーもん」 「今期はどうだか知らないけど、ここにはスカウトで入る生徒もいるって話だから、あのボスが認めたっていうそれだけで十分さ。不正どころか将来有望ってことだろう」 そっか、たしか日向先生はスカウト組なんだっけ。そう考えると今回の即決もある意味スカウトと捉えてもいいのかもしれない。 なんだか周りの人がすご実力の持ち主がいっぱいで、だから、自分はここに入るだけの力を持ってない、という風に見られるのがすごい嫌だったんだ。彼らに並ぶ資格はないみたいに思えて。 でも翔くんはそれを認めてくれてたし、レンくんもその力があったこその入学だと言ってくれた。 「バレないようにしろとは言われましたが、バレてはいけないわけではなかったんです。だから、話そうと思えば話すことも出来ました。だけどそれをしなかったのは……、僕が女の子としてここに入学していれば、僕達はきっと違った出会いだったでしょう。そして今のような関係は築けてはいなかったはずです。 言ってしまえばすべてが壊れてしまう気がして、怖くて、………言えませんでした。今の関係をなくしたくはなかったから」 でもレンくんも翔くんも私のことを知っても何も変わらなかった。それが嬉しい。だけどすべての人がそうだとは限らない。 「んなの、今更お前のこと嫌うはずねーじゃねーか」 「びっくりはしたけどそれでアッキーを見る目が変わる、なんてことはないな。 たしかに初めからアッキーがレディだと知っていたら、オレはきっと違う対応をしただろう。他の子羊ちゃんと同じように……いや、アッキーみたいな子には、オレは近付くことさえしなかったかもしれない。 だからキミとこういう風に出会えてよかったと思う。そして今、このタイミングでキミの事を知れたことも。 もうキミがそれを一人で悩むことはないんだ。オレ達はアッキーの味方だよ、何かあったら相談してくれると嬉しい」 「ありがとう……ございます」 一通りのことはすべて話し終えた。その上で再度、彼らは変わらず友達でいてくれると誓ってくれた。ずっと心のどこかで持ち続けていた、彼らを騙しているという罪悪感さえその言葉と態度で軽くしてくれたんだ。 |