触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□7月  -ハプニング-
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厚底のサンダルも履き慣れなくてよろよろしながら部屋を出て、たまに転びそうになりながらも他のみんながいる教室へと辿り着いた。

先生が扉を開けその後ろからちょこんと顔を覗かせると、そこには秀逸な美人さんがいっぱいいました。


「うわー! みんな綺麗ですねぇ。真斗くん、すんごい美人っ、よく似合ってます。音也くんも活発な女の子みたいでキュートだ。背が高いとやっぱりモデル並みに存在感出ますね、那月くんすごく大人っぽい。レンくんは足綺麗すぎますよ…。翔くん、なんですかこれ。どこの可愛い生き物ですか。あ、レトロな感じがトキヤくんっぽいですねぇ。でも、トキヤくんは素がかっこいいからもっと違う系でも僕は似合うと……」


目に飛び込んできたみんなの姿に、ちょっとテンションが上がって一気にみんなに話しかける。

ああ、七海さんがやたらと嬉しそうだった意味も理解した。みんな個性はそれぞれ違うけど整った顔立ちだから、女の子の格好をしてもあまり違和感を感じない。それどころか初対面だったらどこかのモデルさんだって言われても気付かないかもしれない。しかもみんなちゃんと胸までつけてるんですね……。

私が一人で話している間みんなは無言で、それに気付いた私は、今までにないくらい興奮して喋ったからみんなに引かれたか、やっぱり私の格好が似合わないからみんな絶句しちゃったのかも、と苦笑いを浮かべたんだけど。


「っ、秋くん。すっっっごく素敵です!! わたしなんかより全然女の子っぽくて綺麗です!!!」

「えっ?」


七海さんが瞳を輝かせて食い入るように見つめてくる。そして力いっぱいの褒め言葉。えっと、そんな七海さんの方がよっぽど可愛いんですけど?


「うふ、思ったとおり! オトくん達、サクちゃんに見惚れて声が出ないみたいねっ」


その言葉に、そんなことあるはずないと彼らの方を向いた。


「やっぱり、変ですよね?」


同意を求めてそう言ったのに、みんなは黙ったまま口をパクパクさせてたり目を大きく見開いてたり、顔を背けたりで頷いてはくれない。

どう見ても私の女装が見るに耐えないものだから、そんな態度を取ってるようにしか思えないんだけど、月宮先生の瞳には違ったように見えてるみたい。


「サクちゃん、可愛い!! 本当に女の子みたい。翔ちゃんもすごく可愛いと思ってたんですけど、サクちゃんはそれ以上です!」

「えぇっ!?」


続くかと思った沈黙を破ったのは、七海さんと同じように瞳をキラキラさせ、頬をポワ〜ッと染めた那月くんで、熱のこもった視線で私を見てくる。それから近付いてきて、くるりと私の周りを一周してからぎゅっと抱きしめた。


「ああ、どの角度も素敵です。林檎せんせぇの目に狂いはありませんね!」

「当然でしょっ」


ふふんっと得意そうな顔をする月宮先生。

それを期に遠巻きで見ていた他のみんなも近付いてきて、それこそ上から下までマジマジと見られて恥ずかしいことこの上ない。


「うん、すっげーカワイイ! マサもさ、後ろから見たら女の子にしか見えないと思ったんだけど、朔夜はどっから見ても女の子だよっ」

「普段から綺麗な顔立ちをしているとは常々思ってはいたが……、その、こんなこと言われても男のお前は喜べないかもしれんが、……綺麗だ」

「想像以上の仕上がりですね…。やるからには私も完璧を目指しましたが、朔夜には素直に負けを認めます。これはそこらの女性より美しいのではないですか?…知らなければ思わず惚れ……コホン。それにしても、君こそ何故そんなに足が綺麗なんですか……」

「やっぱ言ったとおりじゃねーか! 俺とは比較になんねーくらい似合うって。……マジで、カワイイと思うぜ」


どっから見ても女の子、か。実際女の子なんだけど、そんなこと生まれて初めて言われた気がする。そして、可愛いっていうのも。男顔だからカッコイイとは言われたことはあるんだけど、まさかこういう風に言ってもらえる日が来るなんて思っても見なかった。

これもすべて月宮先生のメイクのおかげだろうな。


「よ、喜んでいいのか微妙なところですが、うまく化けたということで素直に受け取っておきます。ありがとうございます、みなさん」


演じることが目標の女装なのだから、これはきっと喜んでいいということなのだろう。身も心も女性に為りきることがどうとか、学園長も言ってたしね。女の子としても恥ずかしいのはあるけど、嬉しいのは確かだし。

だけどこれから先、私達が女の子を演じることがあるかと言うと甚だ疑問が残るけれど。バラエティで女装……あるかもしれない。


「これは…どこの麗しのレディが迷い込んできたのかと思った。すごく綺麗だよ、アッキー」


今まで黙ったままだったレンくんがみんなより一歩前に出て、そっと私の手を取り、ちゅっと手の甲に口付けを落とした……。
なんか、レンくんも女の子の格好だからめちゃくちゃ違和感というか、なんというか。

言葉と態度はものすごく甘いんだと思うけど、ついぷっと吹いてしまう。

「レン! お前なぁっ!!」

「神宮寺、それはサクに対して如何なものかと…。いや、実際麗しいのは確かだが……」

「レン、いくら女装をしているからと言っても朔夜は男性なのですよ。そんなことするなんて何を考えているんです」

「ああっ、何っ? そういうのもアリなわけ!? んー、でも朔夜にするんなら別に嫌じゃないしな〜」

「サクちゃん、僕もしてもいいですか?」


わいわい騒ぎ出してレンくんに批難が集中する中、今度は那月くんが頬にキスをしてくるんだけど、やっぱり女装だとなんだか微笑ましいというか…。嫌な気が起こらない。

端から見ても面白い絵だと思うんだけど、七海さんは口元を両手で覆って顔を真っ赤にしてこっちを見てた。なんだか喜んでいるようにも見えるのは、気のせいだよね。


「ふふ、その格好でされるとなんか変な感じですね」

「こ〜ら、あなた達。おふざけもそのくらいにしておきなさいよ〜」


取り囲まれている私を、その様子を見てた月宮先生に引っ張り出されて、背後から抱き込まれるようにぎゅっとされる。

これは助けてくれたのかな? 困っていたわけじゃないけど、さすがに中身が女の子の私としてはこの状況はよくないだろうし。


「さて、それじゃあそろそろ特別実習に入るとしましょうか。これからみんなで街に出て、夕方まで女の子として遊んできなさ〜い」


午後一の授業がプールだったから、夕方まではそんなに長い時間ではない。着替えやなんかでだいぶかかったから、今からだと三時間あるかないか位だろう。
みんなと出掛けられるのは単純に嬉しいけれど、この格好はちょっと……。


「拒否は認めないわよ。これも授業の一貫なんですからねっ」


中にはこの女装を楽しんでいるメンバーもいるみたいだけど、このまま外に出るとなるとやっぱり少なからず不満の声は上がる。けれど授業だと言われれば生徒である私達に拒否権はない。そしてこれは結局のところ学園長命令でもある。

どんなに恥ずかしくても演技力でカバーすればいい。役だと思って為りきっちゃえばいいんだ。

七海さんも監視役として一緒に来てくれるというし(あとで誰かボロを出してなかったかを報告すること、と月宮先生に言われてた)、どうせなら思いっきり楽しんじゃおう。










街に出た私達はそれはもう大変な注目を浴びることになった。

何と言っても私達の異様さはそれぞれの個性にあったから(フェミニン美少女から迫力美女、レトロ女子高生までそれぞれだからね…)、みんな興味を抱きつつも遠巻きに見ていたから、特に大きな騒ぎにはならなかったのが幸いだったな。

でも喋るとやっぱり男の子だから、どこぞのオカマバーの集団だとでも思われていたかもしれないけど、すごく楽しかった。

もう一度やれと言われたらお断りしますがね。

あ、翔くん。美少女なのにがに股じゃ台無しだよ……。













まぁ、いろんな意味で鈍い朔夜ちゃんのお話でした。
だって、イッチーの女学生に突っ込まないなんて…ありえない!(そこか)
これがイチ子の伏線だとは、ゲームをやってる時は思わなかったなぁ。
やっぱしトキヤ微妙にむっつりしてるな……。
これにてプール編はぐだぐだのまま終了です。登場人物多いと(ry

しまった、ハルちゃんに手伝ってもらってるプリンス組なのにこれじゃトキヤのあの格好をハルちゃんが黙認したことになってしまう……。ま、いっか。

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