触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□7月  -ハプニング-
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せっかく翔くんが周りに気を遣ってくれたというのに、私が大声を上げて注目を浴びてしまう。


「どうかした? 朔夜」

「いえ、何でもありませんっ」


どう聞いてもなんでもない口調ではないだろうが、音也くんは「そっか」と信じてくれた。でもトキヤくんや真斗くんが視訝しげな視線でこちらを見ている…。彼らは簡単に誤魔化されてはくれない。

これ以上動揺してはいけないと、顔には出さずに焦っていたら横から助け舟が出された。


「俺が前から砂月っつったっけ、あいつのこと知ってたって聞いて驚いたんだよこいつ」

「あー、朔夜はあの状態の那月見るの初めてだったんだっけ?」

「俺達Aクラスの者は何度も見ているからな。今日はいつもとは違ったようだが、それにしても初めてあれと遭遇したとあっては驚くのも無理はない」

「私やレンも不本意ですが翔のせいで、その場に居合わせてしまったことがありますからね」

「わ、悪かったなぁ! 俺だって不本意だっつーの」


Aクラスでは何度かあの状態になったことがあったのかぁ。しかも砂月くんになった直後の、あの物騒なタイプな方らしい。

現われた時のあの大地の震動、そういえば思い返してみれば私も覚えがあるかもしれない。でもいつも、「あー、学園長がまた何かやってるんだな」くらいにしか思ってなかったかも。


「馬鹿かお前は…」

「すみません」


彼らの注目が外れたところで、再び翔くんが小声で話しかけてきた。だってまさか翔くんに聞かれてるとは思わなかった。

でもよくよく考えたら、彼は砂月くんに眼鏡をかけるために接近していたんだから、いくら小さな声で話していたといっても聞こえてしまう怖れはあったわけだ。あの時はそんなことまで気が回らなくて、うっかり失念してた。もうちょっとしっかりしないと、こんなことじゃみんなにバレても可笑しくない。

砂月くんにしても翔くんにしても、このことを周りに言う気がないというのが伝わってくるから、彼らには本当のことを知っていてもらいたい。


「安心しろよ、黙っててやっから。でもさぁ、なんでそんなことしてんのか気になるんだよな。
朔夜だったらそのままでも十分アイドルとしてやってけるだろ? あ、もし話したくないんだったら別にいいんだけどさっ」

「はぁ、ありがとうございます。それには色々と事情がありまして…」

「良かったら、オレにも聞かせてもらえないかい?」


身体が飛び上がるほどビクリと震えた。もちろん、隣にいた翔くんもそれは同じだったようで。


「れ、れれれれ、レンっ!?」

「しっ、静かにおチビちゃん。聞かれたくない話なんだろう?」


背後からひょいっと会話に混ざってきたのはレンくんだった。てっきり前を歩いてるものと思ってたのに、まさか今までの話をすべて聞いてた? でも思い返しても翔くんも私も肝心な言葉は何ひとつ出してはいない。

だからそれだけで話の内容を悟ったとは思えないんだけど、レンくんの態度はそれを知ってるような口振りで。


「まさかレンくんも砂月くんとの会話を聞いてたんですか?」


距離的にはかなり離れてたからそんなことはないとは思いつつも、それ以外でバレるようなマネをした記憶がない私は恐る恐る問いかけた。


「いやオレはもっと前に……、アッキー。キミはあの男とそんなことを話していたのか?キミがあの男を胸に抱いた瞬間、オレはらしくもなく、頭が沸騰するかと思ったよ。ちょっと無防備すぎるね」

「う、いや…はい。ごめんなさい」


たしかにあれはちょっとやりすぎたかな、と今は思う。だけどあの時はそうしないといけないと感じた。
そのせいでバレたようなものなんだけど、今まで那月くんに抱きつかれたってバレたことはなかったから大丈夫だと高をくくっていた。

そして何より砂月くんが特殊すぎた。まさか匂いで男女の違いを感じ取るなんて普通は考えない。


「それは俺も思った。お前が……だって言うんなら、もうちょっと自重しろ」

「気をつけます……。えと、それでですね。訳はここじゃあれですので、予定がなければ夜、僕の部屋に来てもらえますか?」

「……言ったそばからこれだもんな…」

「もうアッキーだから仕方がないとしか言い様がないね。オレ達がうまくフォローしてあげればいいさ」

「レンが知ってるってこと自体に、普通なら危機感持たないとダメだよな。タラシだし」

「おチビちゃんの様な純情少年の方が、一度タガが外れたら危ないとオレは思うけどね?」


何やら翔くんとレンくんの間に、火花がバチバチと散っている気がするんだけどどうしたんだろう。

それにしてもレンくんはいつ気が付いたのかな。今の会話では彼も明確なことは口にしてないけど、たしかに私が男の子だと偽っていることを知っている。でもだからといって彼が私に対して、それをほのめかすような態度を取ったことはない。

どのタイミングで知ったかはわからないけど、それを知った後も今までずっと一貫して同じように接してくれた。

砂月くんや翔くん、そしてレンくんまでも私のことを他の人には秘密にしててくれるなんて、嬉しいんだけど今まで隠してたことを考えると申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「さて、それより今は罰ゲームをしっかり受けないとね」

「うげ」

「あー……」


そうだった。

水球対決が始まった時は、女装することで変な不信感を持たれたら嫌だなくらいにしか考えてなかったけど、こうして二人にバレてしまった今、彼らの前で女の子の格好をすること自体がとんでもなく恥ずかしい。出来ることなら回避したい。

けれど乗り気の月宮先生を説得出来る気がしない。彼らに知られたと言っても、それはきっと変わらないだろう。なんだかすごく憂鬱だ。


「はぁ……」

「アッキーの女装姿、楽しみだな」

「……そんなにいいものじゃないと思います…。むしろ翔くんの方が」

「なーに馬鹿なこと言ってんだよ。俺より朔夜の方が似合うに決まってんじゃねーか」

「うーん、おチビちゃんの方がアッキーより背は低いし、案外美少女に化けるかもね」

「身長のことは言うんじゃねぇ!!!」


この事態を有耶無耶に終わらせる方法として、どうせなら今、砂月くんが出てきて暴れてくれないかなぁ、なんてちょっと思っちゃったりした。あ、これって結構使えるかもしれない。実行したらしたで後が怖そうだからやらないけど。













どんどんどーんと、いろいろ詰まってます。だってもう、7月だしね…。
今回はレンが知ってるということを朔夜ちゃんが知ることに。
翔ちゃんは秘密を知っちゃったら、「ごめんな、聞くつもりはなかったんだけど」ってすぐに言っちゃうタイプだと思います。
そんな翔ちゃん一人にいいとこ持ってかれたくないレンくんが、さらりと暴露。
さらりとしすぎて気付かれていないところが痛々しい……。

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