触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□7月  -ハプニング-
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ふぅと誰もが一息ついた。嵐のような、竜巻のような、そんな一種の天災みたいな出来事が起こって、一瞬にして過ぎ去った後のような、そんな感じ。砂月くんが破壊したと思われる至る所の損傷が、その凄まじさを表している。

あの力も、砂月くんが那月くんを守るために手に入れたものなんだと考えると、どれほど彼が那月くんを大事に思っているかがわかる。
学園長と同じで人間離れしすぎてるように思うけど。あ、でも那月くんもすごい力があるんだっけ?

私が捕らえられている間、トキヤくんもレンくんもなんとか近付こうとしてくれていたのは知ってる。けど彼の放つ威圧感に押し止められていたようで、気を抜けば押し潰されそうなそれと必死に戦っていたみたい。

砂月くんが去ると同時に駆け寄ってきてくれて、緊張が解けた私を支えてくれた。


「大丈夫かい、アッキー」

「すみません、助けられなくて」

「いえ、なんか凄かったですし。お二人とも無事でよかったです」


翔くんは昔からの那月くんと知り合いだから、砂月くんとも会ったことがあるんだろう。だからある程度耐性があって動けたんだと思う。
動けなかったことを二人はすまなさそうに言うが、それこそ天災の前ではなにも出来ないもの。

それにしても砂月くんに知られてしまったことは、先生達に報告しておいた方がいいのかな?


「ふぅ、なんとか治まったわね」

「たまに強烈なオーラを感じると思ったら、あいつだったのかよ」


生徒を避難させ、安全なところで見物していたのだろう日向先生と月宮先生が、那月くんが元に戻るとプールサイドへと戻ってきた。あれ、そういえば日向先生って、喧嘩がかなり強いんじゃなかったっけ? なのに今まで見学してたとかひどすぎます…。


「壊れたところはすぐに修復出来るからいいとして、もう授業する雰囲気じゃねぇな」

「そうねぇ。けどまさか彼があんなにおとなしくなるなんて思いもしなかったわ。さすがはサクちゃんね!」


たしかにこんな状態で授業はまったくする気が起こらない。

メンバーに選ばれてたみんなは、すでに闘争心とかすっかりなくしちゃってるし、また何かの拍子で那月くんの眼鏡が外れても困る。

月宮先生は砂月くんのこと知ってるような口振りだけど、こうなることを予測出来なかったんだろうか。……まぁ、予測出来たとしても月宮先生も結構面白いこと大好きだから、きっとそのまま許したんだろうな。

それに学園長命令なら止めても無駄だろうし。

何にしても、水球対決も途中でこんなことになっちゃったし、これで罰ゲームの話も流れてくれるだろう。なんて思った私が浅はかだった。


「途中になっちまったが、今回の授業はここまでだな。勝敗は……なんだ、同点か」

「まぁ! それなら両チームとも罰ゲームね!!」

「可哀想な気もしないでもないが、社長がここにいたらそう言うだろうな」


今現在いなくても神出鬼没の学園長だから、先生達のこの判断が間違っているならばすぐさま姿を現しただろう。だからきっとこれは……正しい判断、先生達にとってはだけど。

私達にしてみれば納得がいかないが、それならば対決の続きをという気力はすでにない。もう好きにしてください、という諦めモードに入っている。


「それじゃあ、他の子は解散ね! 七人はアタシが服を用意してあげるから今から着替えに行くわよぅ!
あ、ハルちゃんはちょっと手伝って欲しいから、一緒に来てくれるかしら?」

「はいっ!」


妙にウキウキと楽しそうな月宮先生と、手伝いで呼ばれた七海さん。まさに「楽しみです!」というようなニコニコ顔で返事をする彼女を見て、意外とこういうの好きなんだなぁとぽつりと思う。

そういうわけで私達以外の生徒は解散となってプールから去り、私達は月宮先生の引率の元、着替えが出来る空き部屋へと移動することに。

七海さんは先に制服に着替えてから合流する、と部屋の場所だけを確認して走り去っていった。騒動ですっかり疲れてしまった私達は、ルンルンと歩く先生とは対照的に後ろをトボトボとついていく。

その時、小走りで並んだ翔くんに話しかけられた。


「朔夜」

「どうしました、翔くん?」


話しかけてきはしたものの、何か言いにくいことなのかもごもごと口籠もる。いつもはっきりものを言う彼にしては珍しい。


「その…さ、」

「はい」


やっと口を開いたかと思えば、また黙る。本当にどうしたんだろう。

しばらくそうやって並んで歩いていたんだけど、やがて意を決したようで、周りに聞こえないトーンを落とした声で話し始めた。


「黙ってるのもフェアじゃねー気がするからやっぱ言っとくな。俺、さっきの砂月との会話、聞いちまった」

「え!?」







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