触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□7月  -ハプニング-
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「!? ………お前、女だったのか……?」


小さく呟かれたその言葉に身体が硬直する。抱えていた砂月くんの頭をガバッと引き離し、まじまじと彼の顔を見る。


「な…何を……」

「匂いが違う」


ええ!? 匂いで男の子か女の子かわかるもんなの?


「それに、隠してるようだが男の胸の硬さじゃないだろ、これ。無駄に脂肪がついてるわけじゃないようだしな」


腰の辺りを摘んで肉の厚みを確かめられた。なんか砂月くんの雰囲気がさっきまでと全然違うんですけど。

それにしても匂いって……動物並みの嗅覚? フェロモンとかいうのを嗅ぎ取ってるの?
たしかに野生動物っぽいとは思ったけど、そんなことって……ありそうな気がする。学園長みたいなほぼ不死身みたいな人がいるんだもんね、なんでもありだ。


「砂月くん」

「ま、俺じゃなきゃわからないだろうけどな。それにしても自分を偽っているのに、よくも那月を裏切らないとか言えたな…」

「こ、これにはわけが」


小声で囁きあう。周囲に他の生徒がいるこの場で、そういう配慮をしてくれるということは、彼も一応はこのことを黙っていてくれるということなのだろう。

自分から望んでしていることではないとは言え、たしかに騙していることには変わりない。そして、それ自体が那月くんを裏切っていないとも言えない。せっかく気を許してくれた砂月くんをも裏切ることになったこの事実に、きっと彼は激怒して、もう私が彼の傍にいることを許さないのではないかと思ったのだけど。

ニヤリと笑って私の耳元で告げる。


「わけがあるっていうならしょうがない。那月にも、誰にも秘密にしといてやるよ。だから、俺が外に出てきた時は俺と遊べよ?」


身体を離して、再びイイ笑顔を浮かべる砂月くん。

その時、機会を窺っていた翔くんが素早く砂月くんに眼鏡を掛けた。ふっと気配が変わり、目の前にはぱちくりと瞬きをする那月くんが。


「あれぇ、僕はどうしてここに? 翔ちゃんを抱っこしてたはずなのに……。あ、サクちゃん! どうしたんですか、そんな顔して」


ほんとにガラリと変わるんだ。眼鏡を掛けた那月くんはいつも通りの彼だった。

砂月くんのことなど全然知らない彼は、一体何故自分がここにいるのか把握出来てない様子で首を傾げていたが、私を見るとパッと柔らかい笑みを浮かべた。そして、きっと引き攣った顔をしていたんだろう私に問いかけてくる。

だって一番バレてはいけないタイプにバレてしまったんではないだろうかと思ったからだ。

秘密を握った彼はすごく嬉しそうな顔をしていた。遊ぶのは構わないけど、それがどういう遊びなのか想像するのが少し怖い気がする…。

でも眼鏡さえ外さなければ砂月くんが出てくることもない。短い時間で彼にいろいろされた気がしないでもないが、すべては那月くんを思うが故で、そう思うと怖いと思うこともましてや砂月くんを嫌うなどありえないことだった。

優しくて、那月くんだけのために生きてきた人。彼にももっと幸せを味わう権利があるんじゃないかと思う。

だから外に出てきた時には思いっきり、今までしたことがないようないろんなことを体験させてあげたい。










今まで暴れることしかしなかった眼鏡を外した那月が、朔夜とは普通に会話をしてた。それだけでもびっくりだったのに、急に笑い始めた時は何事かとさらに驚いた。

そして、こいつも朔夜を気に入っちまったんだなってわかった。

会った瞬間に何故だか相手を惹き込んじまう朔夜だから、どんなに凶悪な那月だって例外じゃないはずだと。同じ気持ちを持っているからわかってしまった。

それから初めて、この那月のもうひとつの人格の名前を知った。那月自身はこれを知らないから聞くわけにもいかず、ましてや今までもうひとつの人格に名前があるなんて考えもしなかった。

きっとこれも朔夜だからこそ、あいつも名を告げようと思ったのかもしれない。

それでも俺達には脅威に変わりないから、なんとか眼鏡を掛けようとチャンスを待ってたんだけど、遣り取りが続く中、とんでもないことを耳にしちまった。


(朔夜が……女!?)


小声で話し合う砂月と朔夜。ちょっと聞き取りにくかったけど確かに砂月は言った。そして朔夜はそれを否定しなかった。ということはこれはもう、確定なんだろう。

そう考えれば胸のモヤモヤも納得する。朔夜と誰よりも仲良くなりたかったってことも、砂月があいつの胸に抱かれた瞬間に感じたイライラも。


(ああ、俺。朔夜のこと好きだったんだ)


すとんと嵌った。だから、朔夜がそれを隠していたことなんてどうでも良かった。むしろあいつが女だったとわかったことが嬉しい。だってそれならこの想いは持っていても不自然じゃないだろ?

なんだかすっきりした俺は、砂月が気を抜いてた瞬間に背後から忍び寄りさっと眼鏡を掛けた。すると那月が戻ってくる。

最後の方は耳打ちしてたから何を言っていたのかまったくわからないけど、朔夜が引き攣った顔をしてるってことはなんか無茶を言われたに違いない。

でもなんとなくだけど、砂月も朔夜を好きになっちまったんじゃないかなって思った。
ああやって自分を受け止めてくれる相手を、好きにならずになんていられないと思う。

俺は過去にあいつに言われたことを覚えてるからすぐには受け入れることは出来ないけど、それでも朔夜を好きになっちまった同士として少しくらいは気にかけてやってもいいかな。

だって、どう考えてもあいつ。鈍すぎてこっちの気持ちなんていつまで経っても気付きそうにないからな!











今回も勢いだけで書いてます。深いところは突っ込まないように……。
砂月君が嗅覚で女だって気付きました!まさに野生。そしてそんな彼のせいで翔君にも気付かれてしまったという、でも翔ちゃん自覚編。
さっちゃんが別人すぎる。

慌てて書き上げたのでこんなんですが、許してください。

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