触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□6月  -アイドルのお仕事-
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「お〜はやっほ〜! 全国一千万のHAYATOファンのみんなぁ。元気かにゃぁ?
今日は、な、な、なんとぉ! あの伝説のアイドル、ボクの大大大だ〜い先輩にあたるシャイニング早乙女さんが学園長を勤めるここ、早乙女学園からみんなに元気をお届けしま〜すっ!」


いつものお決まりのセリフを少しアレンジ。このセリフって実は台本には書かれていないんだよね。撮りの時はHAYATO自身がその場で考えて喋ってるらしい。なんでもその方がHAYATOの「色」が出るからだそうだ。

でもこの番組の台本ってアドリブが大半を占めてるんだ……。もちろんそれは、私達のセリフでも同じことだったりする。決まっているのは大まかな内容くらい。HAYATOに対する受け答えなど、私達にもアドリブが要求されるから結構大変だったりする。


「この学園は、アイドルと作曲家さんを目指す子達が通ってるところなんだよ?みんなが知ってるアイドルの中にも、ここの卒業生がいるって知ってたかにゃ〜?
そして今日は、そんなアイドルの卵さん三人と一緒にこの学校はどんなところなのか、どんな勉強してるのかをみんなに紹介していくねっ!」


HAYATOのセリフが終わり今度は私達の出番。

カメラが校舎をアップで捉えている間にHAYATOが私達の立ち位置まで移動し、その直後カメラが切り替わり、レポートの開始だ。


「それじゃっ、まず自己紹介をお願いしちゃおうかにゃっ」

「オレは神宮寺レン。アイドルコースSクラス所属。朝から子羊ちゃん達にオレの言葉を届けることが出来て光栄だよ」


レンくんはいつものノリで話し始める。ニコリと微笑んでウインクまで飛ばすその様は、やっぱり場数を踏んでるだけあって堂々としている。見学に来ていた学生達も遠くの方で声は出さないまでもうっとりしているのが見て取れる。さすがレンくんだ。


「同じくっ、アイドルコースSクラスの来栖翔です。今日は俺達の学園のこと、たくさん紹介したいと思います!」

「ん〜、元気いっぱいだねぇ」


翔くんはいつもより丁寧に、けれど元気の良さはいつも通りで挨拶を。余所行きの顔の翔くんが新鮮で微笑ましい。

普通はこうなるはずなのに、レンくんは大物だ…。


「さ〜て最後はぁ!」

「おはようございます、二人と同じクラス、アイドルコースの秋朔夜と言います。HAYATOさんと共に学内の施設を説明していきますので、最後までお楽しみくださいね?」


カメラに向かってにこりと。朝の番組だからこれから学校や会社に行く人達を不快にさせるわけにはいかない。なんて考えもなくはないけど、この撮影自体が楽しくって自然と顔には笑みが浮かぶ。今まで想像でしかなかった現場で自分が働けていると思うと嬉しくなってくる。


「うわぁ、みんなすごいイケメンだよねっ。レンくんはセクシーで、翔くんは可愛い! 朔夜くんはすっごく綺麗な顔をしてるねぇ。ボクのファンを取られちゃいそうでちょっと危機感を感じちゃうにゃぁ。
そうそう、この『アイドルコース』というのはそのまま、アイドルを目指す子達が所属するんだけど、『Sクラス』っていうのはたくさんあるクラスの中でも特に優秀な人達だけが入れるクラスなんだよ? すごいよねぇ。
彼らの中から未来のアイドルが生まれるかもっ!? 今から要チェックだにゃっ! CMのあとは早速学園内に突撃だぁ!!」


それからも撮影は順調に進んだ。たまに学園長が出てきては超人ぶりを発揮してみせたりしていたが、施設案内など殊更大きなミスなどはなかったと思う。自分の出待ちの間にモニターで確認したレンくんや翔くんもきっちりと仕事をこなしてた。

……翔くんは途中で余所行きの顔を外してしまってたけれど、彼らしさが前面に出てそれはそれで良かったと思うし。

間近でHAYATOの仕事ぶりを見ていてわかったのは、彼の動きひとつひとつが常に視聴者の目線を意識しているのだということ。ただがむしゃらに企画に取り組むのではなく、指示されなくてもそういう細やかなところまでHAYATOは自分で動いていた。

もっとこう、何も考えず本能で動いてるのかと思ってたんだけど、HAYATOはちゃんとアイドルとして「自分の魅せ方」をわかっていたし、いかにして視聴者を楽しませようか工夫をしていた。

咄嗟の機転なども利いているし、繋ぎの間なども視聴者を飽きさせないタイミングをきっちり取っている。すべて計算されているそれらは、とてもHAYATOのイメージとは合わず、デビュー一年目とは思えないほどだった。

打ち合わせも出来ないような突然の変更を言われても、すべてアドリブで対応しているのだからやっぱりHAYATOはすごい。





生ということもあり分刻みで撮影が進む中、私達は揃って次の出番のために屋上に向かっていた。

屋上ではHAYATOが生で歌を歌うことになっていて、その後私達が特技の披露をして締めのコメントをHAYATOが入れて終了。
翔くんはダンスを、レンくんはサックスを、そして私はピアノ……は屋上に持ち込めなかったのでエレキピアノとシンセサイザーを。

実はこれも、もともとの予定には組み込まれていない突発的なもので、今日の朝、急遽聞かされたのだ。翔くんなんかはまだダンスかヴァイオリンかで迷ってたりする。何も練習はしてないけど、日頃からピアノは弾いているからその場のノリでなんとかなるだろう。

何フレーズかだけの演奏なのでインスピレーションで弾けばいいと思い、特に何を弾こうとは考えていない。レンくんもそれは同様のようだ。







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