触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□6月  -アイドルのお仕事-
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HAYATOと偶然にも出会ったあの日から数日後、日向先生から重大発表がもたらされた。


「いーか聞け、お前ら。今度あの『おはやっほーニュース』の収録がこの学園で行われることになった」


途端にざわめく教室内。それもそうだろう、あの朝の人気番組のロケ地がここだなんて。

しかもあれは生放送だったはず、その時間帯に学園に来れば実際の現場を見学することが出来るかもしれない。何よりあのHAYATOの仕事を垣間見るチャンスなのだ。


「あーもう、うっせーぞ! 静かにしやがれっ。そこでだ、このクラスから今回、HAYATOと一緒に学園を紹介するアシスタントを選ぶようにオッサンから言われてな」


そこでさらにどよめきが上がる。ロケ地となるだけでも驚きなのに、番組に出演出来るなんてすごいことだ。HAYATOファンも結構いるみたいだし、出たい子はたくさんいるんだろうな。

かくいう私はロケがここであるというよりも、ここでHAYATOの名前を聞くことになったことの方に驚きを隠せないでいた。ついこの間会ったばかりだというのに、妙な偶然もあったものだと変な感心までしてしう。

でもちょっと待て。あの時別れ際HAYATOは「またね」と言って去っていった。すでにあの時点からこの話が決まっていたのなら、HAYATOは次に会うことを知っていてその言葉を残したのだろうか。

それにしたって、今回撮影で共演する生徒が私だと決まっているわけではないし、きっとあれは社交辞令だろう。うん、そうに違いない。

このクラスはSクラスだけあって優秀な子が多い。どういう基準で選ばれるかは知らないが、少なくともそれなりの実力があるものが選ばれるはず。

私もその点では負けてはいないつもりだが、レンくんや翔くんなんかが出ればきっとテレビ映えするだろうし、企画として上げて面白いものといえば…、


「一ノ瀬、お前」

「遠慮させていただきます」

「まーだ何も言ってねぇだろーが」


日向先生が名を呼んだ瞬間、嫌悪感も露にトキヤくんが答える。

HAYATOの双子の弟が出るともなれば話題にもなるだろうし、あの綺麗な顔が二つも揃うなんてこれほど興味をそそられるものはないだろう。だがしかし、トキヤくんは断固拒否の構えだ。まぁ彼ならそうだろうね。名前を呼ぶのさえ嫌そうなのに、同じ番組に共演するなんて絶対しなさそう。

あれ、でもそんなに嫌ってるのになんでHAYATOに私のことを話したんだろう? そもそも何故トキヤくんはHAYATOを嫌っているのか、そこが未だに謎だ。

入学当初はただ単に比べられるのが嫌なだけかと思っていた。けれど彼を良く知るうちに、その予想も違うような気がした。だってトキヤくんはHAYATOに劣るところなんてない。歌唱力はトキヤくんの方が遥かに勝っているわけだし。

欠点といえば、その歌を楽しんで歌っていないところだろうか。ピッチもリズムも完璧だけど、心がない。額面通りの表現はしていてもそこに自分はない。これも、何度か歌を聴いてみてわかったこと。

だけどそういうところを差し引いたとしても、やはりHAYATOに劣ることはなく、比べられても評価が落ちることはないはずだ。なのに何故、トキヤくんはHAYATOを嫌う?

性格や趣味嗜好が違うだけでは、あそこまで辛辣な言葉を吐く必要はないように思う。


「………というわけだ。んじゃ三人は当日指定した時間より早めに入ってスタッフに挨拶しておけよ」

「うぃーっす」

「オーケー」

「……」


何にしても直接トキヤくんに聞くことは出来ない。家族間の問題は他人が口を出していいことじゃないし。


「おーい、秋! 聞いてんのかっ?」

「うえ、はい!?」


突然名前を呼ばれて我に返る。えっと、なんだっけ?
きょとんとしていると盛大な溜息を吐かれた。


「お前なぁ、自分のことなんだからしっかり聞いてろよ」

「何がです?」


話の途中から自分の思考に入り込んでいたから内容がさっぱり掴めない。そうだ。もうHAYATOの共演者は決まったんだろうか。

さっきトキヤくんが呼ばれてたし、学園長命令なんか出てたら逆らえなさそうだよね。


「だからっ! お・ま・え・も、おはやっほーニュースに出るんだよ!」

「……マジですか」

「おお、マジだぜ」


なんということだ、どうせ自分には関わりないと思ってたのに。私の思考ではトキヤくん一択だった。
だって、おもしろそう…なことだし、学園長が放ってはおかないだろうから。

いや、興味はなくないし、学生のうちからテレビに出ることが出来るなんて思ってなかったから光栄なことだとは思うが、まさか選ばれるなんて思ってもみなかった。

しかもあのHAYATOと共演とは…なんとなく少し気恥ずかしい。


「あれ、『も』ってことは一人じゃないんですね?」

「……全然聞いてなかったんだな…。神宮寺と来栖が一緒だ」

「わぁ、それは心強いですね。ん、トキヤくんは?」

「朔夜……それは私に対する嫌がらせと捉えても?」







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