触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□6月  -アイドルのお仕事-
2ページ/14ページ






「うわ〜、こんなところまで追ってきちゃった。どうしようっ」

「大変ですね、ちょっと失礼します」


私は落ちていた帽子を拾って砂を払い、HAYATOに目深に被り直させる。


「こっちです、付いて来てください」


聞こえてくる声とは逆方向に早足で歩き、複雑に入り組んだ建物の間を通り過ぎていく。HAYATOもしっかりと後を着いて来てくれているみたいだ。

初対面の人にいきなり着いて来いなんて言われても、普通は戸惑うし怪しまれるだろうと思ったんだけど、そういう素振りはなさそうで安心した。


「HAYATOさん、この後用事とか仕事とかありますか?」


頭だけを振り向かせ、HAYATOに問いかけるが質問の意図がわらないようで首を傾げて答えてくれない。


「すぐに街中に出てもいいんですが、こういう話は伝わるのが早い。移動した先にもファンの方々がHAYATOさんを探していないとは限らないので、騒ぎが落ち着くまで待った方がいいと思うのですが、どうしますか?」


そう説明すると納得がいったようですぐに頷いてくれた。


「それなら平気だよっ。お仕事はさっき終わらせてきたとこだし、本当はもう帰るだけだったんだ」

「そうですか、それじゃちょっとだけかくれんぼしちゃいましょう」


ちょっと悪戯っぽく笑うとHAYATOもいつもテレビで見る満開の笑顔を見せてくれた。

私の中でHAYATOはちょっとお調子者で天真爛漫、底抜けの明るさっていうイメージがあったんだけど、こうやって話をすると、明るさなんかはそのまんまだけど意外にも落ち着いている。やっぱり収録とかだと気合いが入ってテンション上がるからなのかな。

さっきのところからだいぶ離れたところで歩みを止めて、今度は小さなビルの階段を昇り始める。


「ここは?」

「昔、偶然見つけたところで屋上に出れるんですよ。あ、でも不法侵入じゃないので安心してください。許可も取ってますので」


ここを見つけて以来何度か訪れてたある時、たまたまこのビルの持ち主とばったり遭遇し、なんだかんだあっていつでも好きな時に来ていいと許可をもらったのだ。

階段を昇りきり突き当たったドアを開けて外に出る。小さいとはいえ六階建のそれを全部階段で昇るのはちょっと疲れる。
けどその運動で火照ってしまった身体を、気持ちの良い風が冷ましていく。

外に出た開放感を味わって伸びをすると、HAYATOも同じことをしていたのでぷっと笑ってしまった。


「ひどいなぁ、なんで笑うの」

「いえ、トキヤくんは普段そんなことしないので新鮮だなと」

「あぁ〜っ! それだよ、それ! さっきボク、そのこと聞こうとしてたんだよねっ。キミはトキヤの知り合い?」

「っ、そうでした。名乗らないまま連れ回しちゃってすみません。私は秋朔夜といいます。トキヤくんとは早乙女学園の同級生なんです」


初対面なのはわかってるんだけど、トキヤくん達といる時のような安心感を彼にも感じてしまって、なんだか初めて会った気がしないんだよね。
背格好も声の質もまるきり一緒。テレビで見るよりもそっくりだと思う。違うのは表情とテンションくらいかな。

いくら一卵性双生児だとしてもここまで似るものなのだろうか? 同じ環境で育った双子は仕草なんかも似てくるって話は聞いたことあるけど、トキヤくんはHAYATOにあんまり良い印象持ってないわけだし。


「キミが朔夜くんかぁ。トキヤから話は聞いてるよっ。ホントーに綺麗な顔してるねぇ」

「綺麗っていうのはトキヤくんやHAYATOさんみたいな顔のことでしょう? 私はそんなんじゃ……」

「トキヤとおんなじ喋り方なんだねっ」

「えっ?」


突然話を変えられ戸惑う。そして言われた意味が理解出来なくて聞き返してしまった。トキヤくんと同じ喋り方?


「一人称と敬語。トキヤもい〜っつも堅い話し方なんだよっ。キミもそうなのかにゃ?」

「っ、」


しまった。学園外だからってついついいつもの調子で『私』って呼んでた。HAYATOはトキヤくんと交流があるみたいだし、ここでバレたらトキヤくんにも知られてしまうってことになる。


「『私』は……余所行きの言葉なんです。普段、トキヤくんと話す時なんかは『僕』って言ってます」

「余所行き? どうして?」


嘘を吐くのは好きじゃないからあんまし突っ込まれたくないんだけど、HAYATOも悪気があって聞いてるわけではないし、ここでうやむやにして質問をはぐらかせばそれこそ不自然になりそうだ。


「HAYATOさんは初めて会った方ですし、無意識に敬語になるっていうか……」

「ええ〜? トキヤと双子なんだから、顔は見慣れてるでしょ? ボク達同い年なんだしさぁ〜」

「同じ年齢でもっ、HAYATOさんは芸能人ですし。それに私達アイドルを目指しているものにとっては大先輩で雲の上の方ですから…」


もう許してくださいっと言えたらどんだけいいことか。つか、トキヤくん、HAYATOのにどんだけ私のこと話してるんだろう。年齢とか弟のただのクラスメイトのでも覚えているものなんだろうか。

普通のクラスメイトなら年齢は一緒だけど、早乙女学園ではバラつきがあるからなぁ。

しかし、こうやって痛いとこ突いてくるところはさすがに兄弟だなって思うよ、似なくてもいいのに……。











あー、なんか特に何も起きない話になってしまいました。
まぁ、やっぱりHAYATOは出さないと……ね? 口調がこの子わかり難い!嘘っぽくならないようにしようと思ったんだけどどうやら"偽"っぽいです……。

今回よりまたまた新章になりますので、なんかおもしろい事件を起こせるように頑張ります!まぁ、頑張ったところで咲太ですから……(爆)

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ