HAYATOはスタッフさん達より早く撤収するものと思っていたので、今更疑問もどうでもいいかと思っていたところで本人に呼び止められた。 レンくん達に先に行ってもらうように言って、私はこうして屋上にHAYATOと二人でいる。なんだか不思議な感覚だ。あの時もたしか屋上だったな、と笑いが込上げる。 そしてそれを見たHAYATOもやっぱりあの時と一緒で、「なんで笑うのぉ」と頬を膨らませたのだ。 「今日はありがとね。朔夜くんのおかげで、気持ちよく歌が歌えたよっ」 「いえ、僕よりもみんなの演奏のおかげです」 私は大まかなことを言っただけで、あとは彼らの技術とセンスがあのステージを作り上げた。 「うん、そうかもしれないね。でもそのみんなを動かしたのは朔夜くんだよっ? ……やっぱりキミを選んだのは間違いじゃなかったね」 ここにきて本人からこの話題が出てくるとは思わなかった。しかも今の言い方は日向先生が言ったとおり、私に何かしらの期待を持ってたってことになる。 「ずっと聞きたかったんです、何故僕を指名したのか。 今回のことはもともと選ばれる予定だったそうです。でもHAYATOさんに名指しされたと聞かされ、僕は実力で勝ち取ったんじゃないのだと一度は辞退しようとしました」 「そっか…、ボクはキミのプライドを傷つけちゃったんだね……」 「違う……とは、言い切れませんね」 話す時は必ず相手の目を見ていたHAYATOが、目を少し伏せ、視線をずらす。僅かに寄った眉間の皺。こんな表情見たことない。笑おうとして失敗し、へにゃりと困ったような弱々しい表情を浮かべている。 「今回選ばれた理由がHAYATOさんに指名されたから、というそれだけなら絶対に断ってましたが。もともと選んでくださるつもりだったようですし。 日向先生に言われました。HAYATOさんは僕の中に何かを感じてくれたからこの話を持ってきたんだって。 素質を嗅ぎ取るっていうんですかね、トップに立つものは勘でわかるんだよ、みたいなことを」 あの時の日向先生は、それはもう自信満々な顔で言い放ってた。これがトップに立つアイドルの自信とカリスマ性なのかと、少しばかり感動もした。 「人に気に入られることは悪いことじゃない、この世界ではそれで仕事が回ってくることもあるって。知ってはいたはずだし、考えればそんなこと言われるまでもなくわかるのに、その時の僕は実力じゃないならってだけで断ろうとしてたんですよね。 まったく、自分勝手甚だしいことですが」 「そう思っても仕方のないことだと思うよ。キミはまだ学生だから、他の生徒より優遇されることに嫌悪感を感じたんでしょ?」 たしかに、そう言われるとそうなのかも。だけどそれだけではなく、『HAYATOのコネで選ばれた』と思われることが何より嫌だったんだと思う。私の実力を正しく理解されないのなら出る意味がない。なんて傲慢なことなんだろう。 「まぁ、そんなわけで理解はしたんですけど、結局のところHAYATOさんはどういう意図で選んだのかなって思ったんですよね」 「あの時も言ったように、キミのことはトキヤから聞いてたんだ。ボクの曲を入学式の日に歌ったんだって? しかもまるっきりイメージの違う曲に仕上げてたって」 「あ、はい。突然言われたもので、ちょうどトキヤくんの顔が視界に……で、思いついたのがHAYATOさんの曲でした」 もう二ヶ月も前の話だ。なんだかここに入ってからいろいろなことがありすぎて、もっと昔のことのように感じる。 「思わず惹きこまれる歌声だったって。あのトキヤがそういう風に言うのは本当に珍しいことなんだよ?それでキミに興味を持ったんだ。 最初はいつか会ってみたいなってくらいだったんだけど、あの時助けてもらって、話をして、朔夜くんのこと知るうちに一緒に仕事がしたいなって思った。だから早乙女学園で撮影が行われるって聞いた時、ついキミの名前がでちゃったんだ。 日向さんの言ったことは間違いじゃないよ。キミがボクと一緒に番組に出てくれたらきっといいものに仕上がるんじゃないかなって、そう感じたから。 うまくは言えないけど、やっぱり勘みたいなものかにゃぁ」 そう言って、ようやくHAYATOはいつもの笑みを浮かべた。 第一線で活躍している彼にそこまで言ってもらえるなんて、普通に考えたらありえないこと。やっぱり今回この話を受けてよかったと心から思う。 「ふふ、これで二度も助けてもらっちゃった。プロデューサーなんかね、ボクと一緒におはやっほーニュースに! とか言い出しちゃったんだからっ」 「うわー、そんな話が……」 「うんっ! キミの歌もすごかったにゃぁ。ボクとしてはぁ、番組よりもユニットを組んで一緒に歌ってみたいって思ったね」 番組よりもって、それはちょっと問題発言だと思いますよHAYATOさん…。 でも、うん。HAYATOと歌った歌は、今までの私の中で最高の出来だったかも。楽器の演奏と一緒で、一人で歌うよりも音に広がりが出る。あの瞬間感じた喩えようのない高揚感はまだ私の中で渦巻いている。 一人ではきっと味わうことが出来ないそれに、何かがひらめいた気がしたけど、形になる前に霧散した。 「さぁって、もう行かなきゃ! 今日はお疲れ様、またいつか一緒に仕事が出来る日を楽しみに待ってるよっ」 「はい、HAYATOさんもお疲れ様でした。期待に応えられるよう、頑張りますね」 なんだかまだ朝だというのに、随分と疲れた。早朝からこんなテンションで生放送をしているHAYATOは本当にすごい、とまた感心してしまう。 精神的にぐったりでこのまま寮に帰って寝てしまいたい気もするが、頑張ると宣言した以上サボってる場合じゃないだろう。 いろいろ気が抜けて眠くなってしまったけど、HAYATOを見送った屋上を私も後にし、自分の教室へと向かった。 後日、学園長が大きな段ボール箱を三つ担ぎ上げてSクラスに現れた。 「はははのハ! これはこの間のテレビを見て、今日までに学園に送られてきたYOU達のファァアアンレターの一部デェーーース!!まーだまだドッサーリあるので、放課後ミーの部屋まで取りに来てクダサーイ」 では! と言って学園長が去っていったあと、嘘のような話に慌てて箱を開ければ確かに大量の手紙が詰め込まれていて、それでも信じられず手に取って確認すると自分の名前が書かれていて……。 ってか、重すぎて持ち上がらないんだけどこれ! どうやって部屋まで持って帰れというのか。しかも学園長室にはまだ残っているらしいし……。今日中に全部をお持ち帰りはさすがに無理そうです、学園長。 三人で顔を見合わせ思わず苦笑いを浮かべるが、同時に嬉しく、誇らしい気持ちになった。 「おい、お前ら。これ授業の邪魔だ、どけろ」 「絶対無理です……」 やったぜ、またよくわからない話になりましたっ。 あれだけかっこいい人達がテレビに総出で映ってたら、きっと放っておけない気がする。 おはやっほー編はこんな感じで終わりでっす。 ただHAYATOに「お〜はやっほ〜!」と「ばいばいにゃぁ」を言わせたかっただけ…。 |