触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□6月  -アイドルのお仕事-
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「朔夜くんがレンくんや翔くん、それからこの場にいた友達を集めて演奏してくれましたっ。最初は映ってなかったけど、彼も画面に見えないところでずう〜っと楽器を弾いて支えてくれてたんだ。
しかも今の、ぜ〜んぶ即興なんだよ? すごいよねぇ! アイドルになるにはこうやって得意楽器なんかもあると役に立つってことだね! ボクも助かっちゃった。
テレビの前のみんなも、彼らに大きな拍手をお願いしますっ」


HAYATOを初め、この場にいるスタッフ全員が温かい拍手を惜しみなく送ってくれる。私達はそれに深々と頭を下げてお礼をした。


「ではぁ、そろそろ時間かにゃ? 以上、今日はここ、早乙女学園からぁHAYATOと」

「神宮寺レン」

「来栖翔」

「秋朔夜でお送りしました」

「そっれじゃぁ、みんなぁ、ばいばいにゃぁ〜」





「はいっ、オッケーです、お疲れ様でした!!」


その掛け声を聞いた途端、身体から力が抜けその場に座り込んだ。七海さんも同じように気が抜けて呆然とヘタっているけど、音也くん達が支えてくれたようだ。


「お疲れさまっ、おかげで助かったにゃぁ」


目の前にHAYATOの手が差し出された。いけない、まだ挨拶も済んでないし、お詫びもしないと。出された手を遠慮なく取り立ち上がる。


「お疲れ様でした。そしてすみません、余計なことしてしまって」


自分が初めて出演した番組、それをあのまま終わらせたくなくて動いた。かなり自分勝手なエゴだと思う。私があんな提案しなくてもHAYATOやスタッフさん達がなんとかしたに決まっているのだ。


「言ったでしょ? 助かったって。キミの案はあの場で最善だと判断された、だからOKが出た。そうでしょっ、プロデューサー?」

「ああ、おかげでいい画が取れたよ。即席にしては盛り上がる演奏だったしね。さすがは早乙女さんのとこの生徒だな」


もったいないくらいの言葉をもらった嬉しさで、胸に熱いものが込上げる。それを隠すようにHAYATOやスタッフさん達にもういちど深く頭を下げる。それからレンくん達にも。


「みなさん、僕のわがままを聞いてくださってありがとうございます。
特に七海さん、あなたには相当負担だったと思います。それでも引き受けてくれた。感謝のしようがありません。
みんな、とっても素晴らしかったです」

「あ、そそそんな。秋くん、頭を上げてくださいっ」

「実にスリリングで、且つ有意義な体験だったね」

「HAYATOすげーっ! あんなに踊れるなんて知らなかったぜ!!」

「朔夜が声かけてくれたおかげで、テレビ出れちゃった。ありがとなっ」

「こんなに気持ちのいい演奏は久々でしたぁ」

「アクシデントにも冷静に対処する。サクの中の『プロの心意気』を見た気がするな。すべて、お前がいたからこそ成し得たものだ」


みんなもまだ興奮が冷めないようで、今の感動と喜びを分かち合っている。七海さんなんか感極まってしまったのか、ぽろりと涙を零してしまった。

それにしても、本当に素晴らしかったと思う。作り上げられた本物の曲にはやはり敵わないけど、ライブ感という意味では最高の出来だった。
これもみんな七海さんの安定した演奏のおかげだろう。彼女がブレなかったからこそ、みんながそれぞれ自分の力を出せた。

ああ、でも今回でレンくんや翔くんは彼女の実力を知ることになっちゃったな。自分でライバル増やしちゃったかもしんない……。










スタッフさん達が撤収作業に入り始めたので、私達も邪魔になるといけないからと関係者に挨拶をした後、屋上を出ようとしていた。

収録が始まる前までは、HAYATOに何故私を指名してきたのか問い質そうと思っていたんだっけ。昨日の打ち合わせはスタッフさんのみしか来なかったし、今日はそんな余裕はなかったので今の今まですっかり記憶の隅に追いやられてた。

けど、もうあの時感じたもやもやなんかはすっかりどこかに消え去って、むしろこんな素晴らしい体験をさせくれようとしたHAYATOに感謝の気持ちでいっぱいだった。確かにどうして選ばれたのかは気になる。それと、あの偶然出会った時にはすでにこの仕事が決まっていたのかどうかも。


「朔夜くんっ」







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