触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□6月  -アイドルのお仕事-
12ページ/14ページ






七海さんには正直キツイかなと思う。彼女は作曲家志望だし、私達とは違い本来ステージに上がる人ではない。しかもテレビの生放送、大ファンのHAYATOのいるところでぶっつけで演奏しようというのだ。冷静を保てるはずもない。

けれど、この中で完璧にこの曲を弾きこなせるのは彼女しかいないはずだ。私もある程度は弾けるが、たぶんきっと、彼女はHAYATOの曲ならどれも完璧に弾きこなせるだろう。

そして彼女ほどの演奏なら、みんなもきっと上手く応えることが出来ると思う。

突然のことに思考が固まり、動けなくなっている彼女の手を握る。


「ごめんなさい、でもお願いします。あなたの力が必要なんです。間違えてもいい、完璧な演奏をしようなんて思わなくていいんです。今がすでに最悪の状況なのですからこれ以上悪くはなりません。あなたは、仲間と一緒にHAYATOの曲を演奏している、ただそれだけです。
余計なことは考えないで、今はどうかHAYATOのこともテレビのことも忘れてください」


彼女が受けてくれるか、勝率はかなり悪いと思う。一分一秒でも惜しい今、もしすぐに頷いてくれないのであれば私が出る気でいたのだが、彼女も那月くんと同様に力強い答えを返してくれた。


「わかりました、わたしでお役に立てるならっ」

「ありがとうございます、次のサビから入ります。行きましょう」


七海さんをキーボードに向かわせ、私はすぐにディレクター、プロデューサーの許に駆け寄り、事情を説明して許可をもらいに行く。ここで断られれば仕方がない。悔しいが本職の判断に任せるべきだろう。

だが意外なことにに、おもしろそうだと言ってすぐに首を縦に振ってくれた。

……あれ、実はなんでもアリなのか? 体当たり企画の多いこの番組だから、案外ぶち壊すようなことをしなければ大丈夫なのかもしれない。

そう思うと、少しだけ肩の力が抜けた。


「バンドメンバーを下がらせて楽器の受け渡しをお願いします。HAYATOさんをアップで撮っているうちにこちら側と入れ替わりますので」


七海さん、真斗くん、音也くんのメロディーラインを支える三人だけがHAYATOの後ろで待機する。
あまり楽器が多すぎても雑音となり、聞き苦しく感じることはレンくんも那月くんも承知しているから、きっといい具合に隙間を埋めてくれるだろう。
翔くんもきっと自分の出るとこをどこかに定めているんだろう。すぐに出ていくような雰囲気はしない。

私も自分のやるべきことをしなければ、とシンセサイザーに向き直ろうとしたところでHAYATOと視線が重なった。いつも通りの表情ではあるが、きっとこれから私達がやろうとしていることに疑問を覚えているに違いない。

いいものには出来ないかもしれない。そして七海さんに言ったのとは逆で、HAYATOの歌を私達の演奏が潰してしまい、最悪の状態になるかもしれない。けどそうはならないと、私はみんなの力を信じてる。

静寂の中、歌い始めているHAYATOがにっこりと笑って頷いてくれた。

それはテレビを見ている人達には違和感を感じさせない程度の小さな動きだったが、確かに首をこちらに向けて振ってくれた。これからしようとしていることをHAYATOに許された、と捉えていいのだろう。行動を後押ししてもらった気持ちになり、これからやろうとしていることに自信が持てた。

みんなのスタンバイも整ったようだ。

Bメロが終わった直後に七海さんのキーボード演奏が入り、それに合せるように真斗くんが音を重ねていく。音也くんもギターを掻き鳴らし更に音には広がりを見せ、HAYATOの歌がそれらをひとつにする。

楽器を運ぶ間がなかったので、セッティングを済ませたシンセサイザーでカメラのこちら側でリズムを刻む。ベースリズムがあるとなしとでは音の重みも変わってくるから、疎かに出来ない。

かなり弾き込んでいるのだろう、七海さんの演奏は本物と寸分違わないテンポで奏でられ、呼応するかのように余裕の出てきた真斗くんと音也くんが、それに少しだけアレンジをきかせたものを合わせる。

間奏に入り、曲はHAYATOのイメージそのままに元気を増す。

そこで翔くんがフレームインしてHAYATOと一緒に華麗なダンスを披露、何の段取りも踏んでないのに見事彼らはお互いの踊りをシンクロさせていた。彼はダンスが得意だし、これもきっとHAYATOが合せてくれているんだろう。

音が完璧に盛り上がったところで刹那の沈黙、そこから翔くんと入れ替ってにレンくんと那月くんが入り、まるでジャズセッションのようにサックスとヴァイオリンの掛け合い。これはすでにただの歌ではなく、感覚的にはライブに近い。

作り上げられた本物には遠く及ばないけれど、曲としては十分に迫力のあるものに仕上がっていると思う。みんなそれぞれに自分の役どころをっしっかり押さえ、決して主張しすぎていない。それを上手くHAYATOの歌が導く。

二番も順調に切り抜け、再び短い間奏に入ったところでHAYATOがマイクを使って呼びかけてきた。


「朔夜くん、おいで〜」


え、私に演奏を放り出せと? 音が軽くなってしまうけど、いいのだろうか?

にこにこ笑って手招くHAYATO。周りのスタッフも行け行けとせっついてくる。

とりあえず単純な打ち込み音を奏でられるような操作だけをして、私はHAYATOの元に向かった。しかしこのまま出て行っていいのかと手前で躊躇していると、HAYATOがやってきて手を掴まれカメラの前に連れ出される。

そのまま腕を強く引かれたから、HAYATOの胸に飛び込みそうになってしまった。

その時、顔をすっと耳元に寄せたHAYATOに「一緒に歌って?」と囁かれた。

いくら生でアドリブ多い番組とは言え、HAYATOも無茶振りしすぎだ……。だがカメラ前に連れ出された以上、もう後に引くわけにはいかない。
HAYATOが向けてくる一本のマイクで、Cメロから最高に盛り上がったラスサビを、メロディーを歌う彼に合せてハモらせる。

この時の彼の歌は、普段よりもずっと上手かった気がする。そう、しいていうならばトキヤくんが歌っている時のような、でもトキヤくんよりはずっと心のこもった……そんな印象を受けた。

歌っていると自然と気持ちが溢れてくる。色々なことを試してみたくなる。HAYATOと私の歌声が響き合い、ひとつに溶け合っていく。それは今まで感じたことのない不思議な感覚で。

束の間の人気アイドルとのデュエット。この時の私は撮影のことなんてすっかり忘れて、数フレーズのそれを楽しんでいた。











すいません、ちょーでたらめです。
昔齧ったことはあるけど、全然詳しくないのでかなり適当な上、いろいろ間違ってます。つか妄想。
どうぞ、雰囲気だけでお楽しみください……←
機材トラブル→「じゃ、みんなで演奏しちゃえ!」、このノリだけ押さえてればOKです。

まぁ、普通に考えてこれはありえない。けど、いいんだいっ!

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ