触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□6月  -アイドルのお仕事-
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それにしても、彼女がすごい才能の持ち主だと知ったらたぶん二人共、いやトキヤくんだって放ってはおかないだろうな。音楽的にはまだ未熟でもそのセンスの良さと、秘めているポテンシャルはSクラスの子を凌ぐかもしれないもの。

私が気付いたんだ、それを見抜くだけの力を彼らは持っているだろうし。今後同じパートナーを巡ってライバルになる可能性は十分にありえる。

そしてきっと、音也くん、真斗くん、那月くんはそれを知っている。同じクラスだし、いくらでも彼女の音楽に触れる機会はあるだろう。
人間性にしても謙虚で奥ゆかしさを感じさせ、絶対の自信を持ってこの学園にいる子達の中で(そうでなければアイドルなんて目指そうと思わない)、その自身に対する自信のなさは少々心配になるが好感が持てる。


「そういえばさ、七海はHAYATOのファンなんだっけ?」

「はいっ! HAYATO様はわたしの心の支えですっ。いつか、わたしの曲を歌って欲しいと思って作曲家になろうと決めました!!」


気弱な雰囲気はどこへやら。七海さんは一転、熱く語りだした。なるほど、HAYATOにねぇ…。だから見学出来ると言った時にあれだけ瞳を輝かせたのか。

トキヤくんの存在を学校行事などで彼女も知ってるだろうし、ちょっと反応を間近で見てみたいかも。あまりにも似すぎてるから、それはもう驚いてくれると思うんだよなぁ。トキヤくんはいい顔しないだろうけど。


「さて、そろそろみたいだね」


スタッフの動きが先ほどと変わったのを見てレンくんが言う。モニターを確認しに行けばちょうどCMに切り替わるところだった。

レコーディングルームからここまでは少し遠いので、HAYATOが着くまではVTRが流れることになっている。


「んじゃ頑張ってね、朔夜」

「ありがとうございます。みなさんに恥ずかしいものを見られないように頑張りますよ」


今の私達は早乙女学園の代表みたいなもの、かっこ悪いとこなんて見せらんない。残すところもう少しだから、嫌でも気合いが入るというものだ。


「とうっちゃーーーっく! ふぅ、間に合ったぁ」


いきなり出入り口の扉がバターンと勢いよく開いて、HAYATOが駆け込んできた。まだCMに入ってからそんなに経ってないんだけど早過ぎないだろうか。と一人首を傾げているとHAYATOと目が合った。


「あっ、朔夜くんはっけーん、ってそれもそっか。最後はみんなここだもんね、てへ」


そんなことを言いながらこちらにやって来たHAYATOに「は、HAYATO様っ!?」って小さく叫んで、七海さんが硬直した。何せ大好きなアイドルがこんな近くにいるんだもんね、そうなっちゃうよ。

HAYATOに自分の曲を歌ってもらうためにここにいる、なんてラブコール聞かされちゃったから、軽く羨ましい。だって彼女には私のパートナーになって欲しいと思ってるんだから、嫉妬しちゃうじゃないか。


「お疲れ様です、HAYATOさん。ずいぶんと……早くないですか?」

「ん? あ〜、あのね。『学園長の秘密の通路』っていうの? すっご〜い近道、使わせてもらっちゃったんだっ」


なるほど……としか言いようがない。あの人ならそういう無意味なものいっぱい作ってそうだし納得せざるを得ない。


「おかげで早く着けたけど、このまま予定通りVTRは流すからちょっと、きゅうけーいっ。そこにいるのは朔夜くん達のお友達かにゃ? あ、カワイイ女の子もいる〜」


視線を七海さん達に向けてにこーっと笑う。ああ、七海さんがますます固まってるよ。
これはさっきのレンくんの時の比じゃないな、顔から火が吹き出しそうなくらい真っ赤に染まって、息も止まってるんじゃないかというくらいのフリーズ。

そのまま倒れてしまうのでは? と心配になり、横からそっと顔を覗き込む。


「七海さん、大丈夫ですか?」

「え!? は、はいっ、だいじょぶれふ!! ぁう……」


噛み噛みじゃないか、可愛いなぁ。宥めるためによしよしと頭を撫でてあげたら、また凍り付いちゃった。そんでもって周りの雰囲気が変わったような気がする。どうしたんだろ。


「なんだか顔が真っ赤だけど、大丈夫かにゃぁ〜?」

「ああ、だめですHAYATOさん。彼女、あなたの大ファンであまりの感激と興奮と緊張で固まってるんですよ」


私と同じように顔を覗き込もうとしたHAYATOを、失礼だとは思ったが慌てて止める。それをやられたら確実に七海さんは倒れる。そう断言出来た。

せっかく撮影現場を見学出来るのに、ここで気を失ったりなんかしたらもったいないし、あとあと悔いに残ったりなんかしたら可哀相だ。でも接触のチャンスだったのに、止めてしまって返って悪かっただろうか。


「そうだったんだぁ、いつも応援ありがとねっ」

「は、ははHAYATO様にお声をかけて頂けるなんて、こ、光栄ですっ!わ、わたし、このおはやっほーニュース、始まった時からずっと見てましたっ。これからも頑張ってくださいっ!!」


頑張ったなぁ、七海さん。って思ってるのはどうやら私だけじゃなく、彼女の性格をよく知るだろうAクラスの三人も一緒だったようだ。まるで我が子の成長を見守るような眼つきですよ、みなさん。って私もか。


「HAYATOさーん、そろそろスタンバイお願いしまーっす」

「はぁーいっ! んじゃ朔夜くん達も一緒に行こうか。歌が終わったらその後よろしくねっ」


HAYATOに誘導され、私達はその場を離れ最後の出番に備えることにした。私とレンくんはモニターを見ながら、翔くんはまた柔軟に戻っている。

もうすぐ終わっちゃうんだなぁと思うと少し寂しい。ひとつの番組を作り上げる楽しさ、大変さ。すべてが自分の糧になったと思う。この経験を生かすも殺すも私次第。より一層アイドルになる決意が高まった気がする。










「ねぇねぇ、HAYATOってさ……」

「なんだかサクちゃんのこと」

「かなり気に入っているように見えたな」

「???」











終わり、のようにみえてまだ終わりじゃありません。
今回は春歌ちゃんにクローズアップ。そして、彼らも春歌ちゃんを知りました。やっぱし、大好きなHAYATOに会わせてあげないとねっ。

つか、おはやっほーに一切関係ない話だな。ただ喋ってただけ…。

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