触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□5月  -人は順応するものです-
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アッキーは本当に不思議な子だ。


普段のオレなら、どんなに仲良くなっても自分に少しでも踏み込む素振りを見せようものならすぐに背を向けるのに、アッキーに関してはそう出来ない。むしろもっとオレを知って欲しいと思ってしまう。

今回のことだってそう。

なんでたかが体育祭に熱くなるのかイッチーは理解出来ないと言ったけれど、オレの場合は理解はしてもそうする気が起きないというのが本音だ。
片手間にやったとしても、オレは普通のやつらより結果を残せるし、周りがそれで納得するなら本気を出すまでもないじゃないか。
実際みんなは喜んでたし、そんなオレで満足してた。

だけどあの、アッキーの本気を感じた時、ここで手を抜いたらオレはこの子に失望されるんだろうなと思った。そして、そのことが耐え難いとも。

本気を出さないんじゃなくて本気になれないオレの心の奥底から、アッキーはいとも容易く本気を引きずり出す。
思わずサックスに手を伸ばしかけた入学初日のあの歌のように。

一緒にいて気軽で、ただ楽しいだけの仲間じゃない。彼といると熱くなれる自分がいる。

あの日、聖川に言ったことは嘘じゃない。出会って日は浅かったけれどアッキーは特別だった。
あの時はなんとなくそう思っていただけだと思うけど、今なら少しだけわかる。

彼ならすべてを受け入れてくれるような気がして、ありのままを曝け出してしまいたい衝動に駆られるんだ。
『神宮寺』という名前を持つオレじゃなくて、オレを『オレ自身』として見てもらえる。だからきっと彼は『トクベツ』。

同性相手にこんなこと思うのなんて変だってわかってるけど、それでもオレは……。


こんな存在、他に知らない。











レンの心情編。レンは女性センサー持ちなので、無意識に朔夜ちゃんの本性に気付いているはず。

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