触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□5月  -人は順応するものです-
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体育祭の振り替え休日となった本日、動けない私がいました。

普段からダンスやなんかで運動はしてるから、あんまり心配はしてなかったんだけど、どうやら最後に転んだのが響いたらしい。傷が引き攣って動くたびに痛い。掌、肘、膝などあらゆるとこに傷があるもんだからお風呂に入るのも一苦労だった。
これがジャージじゃなくて半袖ハーフパンツとかだったりした日にはもっと凄いことになってたんだろうな、と思うとぞっとする。

そんなわけで歩くにしても一歩一歩ゆっくり、傷に障らないようにしか歩けないので本屋に行くのも断念した。この状態で外を歩いたら不審人物にしか見えないと思う。


「あーあ、せっかく新刊買いに行こうと思ってたのに……。一日中部屋にいるならまだまともに動けてた昨日のうちに、一ノ瀬くんに何か借りておけばよかった」


ゴロゴロとベッドの上に寝そべりながら一人グチる。一ノ瀬くんのことだからきっと本を読むのが早いだろう。
もしかしたらラグ・マーカーの本も借りれたかもしれないと考えると、なんだか無性にその本が読みたくなってきた。
かといってないものはどうやっても読めないので、同著者の前作でも読もうとベッドから起き上がり本棚へと向かう。


コンコンコン


ちょうどその時、部屋のドアがノックされた。


「はーい」


返事をしたのはいいけれど、動きがスローだからドアを開けに行くまでに時間がかかる。


「朔夜ー、開けるぞー?」


そうやって四苦八苦してるうちに今度はさっきより強めのノック音が響き、来栖くんの叫び声が聞こえた。来たのが彼ならちょうどいいや。


「すいません、鍵は開いてるので入ってください」


するとすぐにドアが開き来栖くんが顔を覗かせた。そして私の方を見て一言。


「何やってんだ、お前」


そう言いたくなるのもわからなくはない。だって今の私、なるべく痛くないように歩こうと思って前傾姿勢の中腰。とてつもなく変な格好だ。
これが女の子だって知ったらかなり引かれそうな気がする。とりあえずアハハと笑って誤魔化し姿勢を正した。


「おチビちゃん。後ろがつかえてるんだ、早く中に入ったらどうだい」

「ああ、わりぃ」


来栖くんがドアから退くと、その後ろから神宮寺くん、更には一ノ瀬くんまで入ってきた。みんな揃って私の部屋に来るなんて珍しい。
特に一ノ瀬くん。事前に約束してない限りほとんど部屋に来ないのに。例外は一十木くんとか来栖くんに無理やり連れてこられる時だ。


「みなさんお揃いでどうしたんですか?」


私と違って見るからに元気そうな彼ら。折角の休みなのに神宮寺くんがデートに行っていないのも珍しすぎる。
来栖くんにしたって、休みの日には一十木くん達と遊びに行ってたり四ノ宮くんに拉致られてたりするのに、本当にどうしたんだろう。


「おう! 打ち上げしよーぜ!!」

「本当は昨日したかったんだけど、さすがにオレ達も疲れてたし、アッキーはひどい怪我だったしね」


手に持ったビニール袋を掲げて見せてから、来栖くん達は部屋の中央のリビングスペースに置いてあるテーブルの上にそれらをドサッと乗せた。
なんだかものすごく大量なんですけど。袋をちらりとのぞくとお菓子類やジュースなどが袋が張り裂けんばかりに入っている。

一体、誰がこんなに食べるというんだろう……。







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