触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□5月  -人は順応するものです-
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本当は適当に走って終わるつもりでいたんです。

レンからバトンを渡されたトキヤに言われた言葉。


期待を裏切るなよ


これはたぶん彼からの、という意味なのでしょうがレンに言われる筋合いはありません。そして、期待されていようといまいと私は私を貫く。
そんなことを考えていたせいで、つい『運動が苦手な自分』を忘れて普段通りに走り出してしまいました。

レンに言われた言葉が引っかかっていて気付いた時にはもうすでに中盤で。このまま下手な減速をしては怪しまれてしまうと思い、これ以上速度を上げないよう少しだけスピードを緩め、前とつかず離れずな距離を保ちつつ走りることにした。
そうしておけば、もしかしたら彼なら差を詰めて抜けるかもしれないと思ったからでもありますが。

でも前を走るランナーとは違い、後ろから来るランナーはそれなりに速かったようでどんどん近付いてき、そして抜かれた。

その時私を呼ぶ彼の声が聞こえ、同時に競技が始まる前に彼が言っていた言葉を思い出しました。


『やるからには負けたくない。どんな勝負であれ勝ちにいきたい』


真剣に心の底から思ったのでしょう。掴み所のない彼が垣間見せた闘争心。それに引きずられる自分を感じた。たしかにたかが体育祭とはいえ、負けるのは私の性に合いません。やるからには完璧を、完全勝利を。何より、


(彼とともに勝利を喜びたい)


頭をよぎったのは刹那。前を行く後彼の姿に、理解出来ないまま溢れ出た想いとともにバトンを託す。


「朔夜っ」


それが名前となって口から出たのはたぶん私がどこかでずっと、彼の名前を呼びたいと思っていたからなんでしょう。眠っている彼の名を呼んだ時は意識して言いましたが、この時はまったくの無意識。気付いたら零れていた。


抑え付けようとしている想いが、彼といるとそう出来なくなることがある。知らない感情が突然現れる。
こんな感情、自分にあったのかと驚かされる。
自分で自分を制御出来ないなんて初めての体験です。彼の言葉に、表情に、そのひとつひとつに振り回される。

ああ、レンの言葉に何故引っかかったか。それはきっと、彼を理解している風なレンに苛立った……ような気がします。


何度も思いますが、朔夜、君は本当に不思議な人ですね。











こっちがトキヤの心情編。これにて体育祭編終了です!
@1話、おまけみたいなのがあるのでもう少々お付き合いください。

今回はトキヤとレンの心情を入れたくて、最後はそれぞれ語ってもらったんだけど、なんかトキヤのがよくわかんなくなった。

と、とにかく朔夜ちゃんに乗せられて感情昂ぶったあげく、なんだかわかんないけどポロッと名前よんじゃったんだぜ!って感じ(どんな……)

そんでもってここ大事、トキヤが「秋くん」から「朔夜」に、「あなた」から「君」に変わりました!ついでにプチ嫉妬。つかトキヤもレンも不思議不思議って、朔夜ちゃんが不思議ちゃんみたいになってきたな…。

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