翔side (すげぇ、コイツはすげーぜ!) 聞いた瞬間鳥肌が立った。ピアノはもちろんその歌に。 中性的なその歌声はたぶん俺だけじゃなくて、周りのみんなもビックリしたみたいで一心にあいつを見つめてた。 Sクラスの中でもトキヤやレンみたいな数人からしか感じないオーラみたいなのをそいつからも感じたんだ。名前は秋朔夜っていうらしい。 キレーな顔してんなって、見た時から思ってた。自己紹介の時に聞いた声にも特徴があってオモシロイと思った。 そんなあいつがクラスの男共から野次を飛ばされ、日向先生の指示で歌を歌った。 HAYATOのロックナンバー。普段ポップな曲が多いHAYATOにしては異色の曲。当時話題になってテレビからもよく流れていたし、俺も気に入って良く聞いてたから覚えている。 だけど、耳に聞こえてくるのはそれから想像にも及ばないもの。 (こんなのが即興…) こいつの曲を歌ってみたい。そう思ってしまった。惜しむべくはこいつが俺と同じ『アイドル志望』だってこと。 もしこいつが作曲家志望だったなら迷わず俺はこいつを選んでいただろう。そう思わせるほどにインパクトがあったんだ。 だから俺がこいつと友達になりたいって思っても全然変じゃないだろ? それから話すチャンスを窺ってたらとうとう放課後になっちまった。(つっても今日は午前で終わりだけどさ)放課後はAクラスにいる知り合いと学園探検に行く約束をしてる。 だけど、俺はどーしても今日中に秋と仲良くなりたい! 何故だかそう思っていて、頭の中どうやってその約束を断るかでいっぱいだった。 それというのもこの約束、俺が言い出したことだからさ。みんな気の良いやつらだから、「ごめん、用事が出来た!」その一言できっと理由を聞かないでも「しょうがないな」と許してくれるとは思う。 同室のやつにあとできちんと説明するとして、今回はそれで見逃してもらおう。 日向先生が教室を出るのと同時に、俺もAクラスに向かって走る。 「おいっ、廊下は走るんじゃねぇ!!」 憧れの人の怒号に、普段の俺なら謝罪を返しただろうが今はそんなのに構っていられない。早く行って戻ってこなきゃあいつが帰っちまうかもしれないから。 明日から毎日学校で会えるっていうのに、何でこんなに今日に拘るのか自分でもわかんねーけどさ。 大急ぎでAクラスまで行って、目的の人物を見つけたけど、そこに駆け寄る時間も惜しく、扉のとこから大声で叫ぶ。 「わりぃ、急用ができたっ! 急いでるからもう行くなっ? この埋め合わせはするからさっ」 それだけを告げて、答えなんて聞く間もなくSクラスまで折り返す。途中何度か下校途中のやつらとぶつかりそうになったけど、持ち前の運動神経でかわしていく。 そんなに離れてるわけじゃないのに、気が焦っているからかものすごく遠く感じる。 やっと見えてきた扉に走ってきた勢いのまま、ドアが壊れるんじゃないかってくらい思いっきり横に引いた。 「秋いるかっ!?」 初日だからかまだ結構残ってるやつらがいて、その中からあいつの姿を探す。 (頼む、残っててくれ!!) 秋が座ってた席には人影がなく、もう帰ってしまったのか、と半ば諦めていたところに見えたその席に置いてあった鞄。周りに何人かいるから、あいつのものとは限らないけど、それでも望みをかけて教室を見回すと……窓際奥の方にそいつを発見。 「いたっ!!」 見つけた嬉しさと残っててくれた感激に頬が緩み、ついついはしゃぎたくなる気持ちを押さえて俺は秋の元へ。 でも、聞こえた声に思わず反応せずにはいられなかった。 「うるさいですよ、翔。いったい何なんですか」 「相変わらず元気だねぇ、おチビちゃんは」 「うっせー! チビって言うんじゃねぇ!! ってか、なんだよトキヤとレンいたのか」 「おやおや、おチビちゃんの目にはどうやらアッキーしか映ってないみたいだよ?」 「はぁ!? ちげーよっ、ただ集中してたから見えてなかっただけだっ。っつーか、何アッキーって。いつの間に仲良くなってんだよ」 秋を探すことに夢中になってたから、こいつの傍に誰かがいるなんて気にしちゃいなかった。よくよく考えてみたらここトキヤの席じゃねぇか。 何よりも気になったのは、レンの秋の呼び方。 俺が教室から出てからそんなに時間は経ってないはずなのに、もうあだ名で呼んでんのかよ! ああ、でもレンならあり得るか。あれ、でも男とすぐに仲良くなるようなやつだっけ? 俺とトキヤだって、あの時組んだしょっぱなはそんなに打ち解けてなかったはず。あの過酷な状況を一緒に立ち向かう間に、変な連帯感が生まれて、それからだもんな。 なんだろ、なんかもやもやするな。 そんな俺の心境なんていざ知らず、レンは「おチビちゃんをおチビちゃんと言って何が悪いんだい?」とかぬかしやがるから、カチンときた俺は反論し、それをまたレンがからかってくるという悪循環。 俺は当初の目的などすっかり忘れていた。 「あの、来栖くん。さっき僕のこと呼んでましたけど何か御用ですか?」 「あ」 それまでおとなしかった秋がそう言ってくれなければ、俺はそのまま下校してたかもしれない。 でもいざ本人を目の前にすると、なんて言っていいかわからなくなった。 「いや、別に用ってほどでもないんだけど…」 改めて考えると、俺、なんかむちゃくちゃ恥ずかしいことしようとしてないか? 言葉に詰まって唸る俺をレンはくすくす笑っているし、トキヤなんかは呆れて溜息ついてやがる。 ちくしょー、なんかむかつくなっ。 秋は俺の答えを待ってるし、今更なんでもないなんて言える雰囲気でもない。ここは男らしく腹をくくるか! さっきの歌に感動したこと。秋と友達になりたいこと。それらを正直に言うと、秋は「ありがとうございます」と丁寧な礼をしてくれた。まぁ、ちょっと恥ずかしかったみたいで俯かせちまったけど。 言ってる本人が恥ずかしいんだ。言われた方はもっとだよなぁ。 話題を変えるために俺がさっきまでこの部屋にいなかったワケを言うついでに、秋の傍にトキヤとレンを見つけた時の気持ちがぽろりとこぼれた。 「すでにトキヤとレンがお前と話してるじゃん? なーんか、先越された気分」 ああ、そっか。俺が今日中にお前と友達になりたかった理由は… 「何馬鹿なこと言ってるんですか」 「おチビちゃん、友情に後も先もないんだよ?」 レンの言葉で気付かされた。 誰よりも先に、こいつと友達になりたかったんだと。 なんでそう思うのかはやっぱりわからなかったけど、俺が「今日」に拘ってたのはこれだったんだ。 理解した途端、なんだか笑いたくなった。けど、いきなり笑ったら馬鹿みたいだから俺はそれを堪える。 ちょうどその時、笑い声とともに秋の右手を差し出された。その行為に嬉しさが込上げ、俺はその手をぎゅっと握る。 「秋朔夜です。これからよろしくお願いします」 「おう! 俺は来栖翔!! よろしくなっ朔夜」 ちゃっかり名前で呼んじゃってるあたり、俺もレンのことは言えないな。なんて思った。 |