触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□4月  -出会いの季節-
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1.寮では一人部屋にすること

2.男として生活する上でのアドバイザーを紹介すること(これに関しては月宮さんと日向さんが引き受けてくれるらしい。男の中の男って感じの日向さんと女の子を演じている月宮さんなら心強い)

3.学園内で素を出せる場所を確保すること

4.人にバレた時に口止めが効きそうにない時は学園側が対処すること


その他に、私が生活する上で不具合が出そうな場合はその都度対処してもらうことを条件に私は早乙女学園に入学した。










男の子用の制服を用意してもらい、それを着こなす。

この学園にはいろいろなバリエーションの制服があって、それぞれが好みで組み合わせていたりするので見ているだけで楽しい。着こなし型も人それぞれだ。

私はといえば一応、体系を隠すためにも胸部分を押さえるコルセットのようなものを渡され着ているけれど、これは夏は暑そうだ。

バレやしないかと緊張して臨んだ入学式だったが、これが意外にも誰も気付かない。

安心していいのか悲しんでいいのか…。

もともと男の子に間違われることはしょっちゅうで、メイクなんてものもしていなかったから余計に。

声は少し低めのハスキーボイス。実際にいる声の高い男の子と比べてもなんら違和感はない、と思う。
一般的に痩せすぎと言われる体系では出るとこも出てないし。まぁ、それは隠しているせいもあるんだけど。

こんな容姿のせいか性格のせいか、私服だって男物の方に興味を惹かれる。だって、かっこいい。
自分が本当に男だったら良かったのにな、なんてことも思ったことがある。

そんな私だから、余計に違和感なく男の子で通るのかもしれない。

面接の時に決まった私のクラスはSクラスだった。

日向さん、いや日向先生が担当のクラスで、今回の入学者で優秀だと判断されたものが入るクラスらしい。
私としては、男の娘アイドル月宮さん…月宮先生のクラスの方が良かったなぁと思っていたりする。
だって同じような境遇ならいろいろ意見とか聞けそうだし、もし女言葉が出てしまっても「月宮先生のマネー!」とか言って逃げ切れそうだ。


(あ、それは別にクラスじゃなくても通じるか。私のキャラかどうかはこの際置いておく)


入学式を終え、足を踏み入れたSクラスは、それはもう綺麗な子カッコイイ子がいっぱいだった。アイドルを目指すくらいだから当然なんだろうけど。

それから自己紹介で自分の作った曲を披露する作曲コースの子達。さすがにこれもSクラスだけあって、才能に満ち溢れていると思った。

が、なかなかフィーリングの合いそうな人はいなかった。

そんな個性や才能溢れる面々の中で特に目立っている三人がいた。

小柄で私よりも背の低い男の子。来栖翔くん。
本人は気にしているみたいだから直接は言ったりしないけど(たぶん)、すごくカワイイ。

教室に入るなり「俺様の家来募集!」なんて言った時には正直吃驚したけどね。

見ているとこっちまで元気になりそうなパワーが漲っていた。
日向先生とした組み手(というより本気に近い気もしたけど)は、どんなに可愛くても男の子なんだなと実感させられるほど。

それから、やたらと女の子達の視線と歓声を集めている人。神宮寺レンくん。

身のこなし、視線から指先の動作に至るまで優雅な人だ。すらりとした身長、何より声が特徴的。
それから女の子達に囁く言葉も。彼が何かを言う度に黄色い歓声が上がる。

なるほど、こういう物言いが女の子に好まれるんだな。参考にしてみよう。
……自分が口にするには恥ずかしいと思うけど。

最後の三人目。物静かで口数の少ない、それでいて埋もれることなく目が離せない人。一ノ瀬トキヤくん。

今売れているアイドルHAYATOの双子の弟さんらしい。あまりにもそっくりすぎるのでみんな本人じゃないのかと疑っていたけれど、彼の人となりはテレビで見るHAYATOとは真逆。

言葉の節々に冷たく厳しい棘がちくちくする。そして絶対の自信が窺い取れた。
初めは反感を買ったみたいだけど、彼の歌に誰もが惹き込まれた。それほど完璧な歌だった。

だけど、なんだろう。何か…。


「よし、んじゃ次」


ちらりと日向先生に視線を寄越されて「はい」と答え、その場に立ち上がる。


「秋朔夜、16歳、アイドル志望です。趣味は曲を作ること、歌うこと。一年間よろしくお願いします」


簡単に述べて頭をひとつ下げるついでにニコリと。神宮寺くんのようにウインクや投げキッスは出来るはずがない。
すると何故だか女の子達が顔を赤らめたり、キャーと叫んだり。

意識してなるべく低めの声にしたから声掠れすぎちゃった。うーん、これは普段通りの喋りでも問題ないかもしれないな。


「あの子、綺麗な顔してるね〜」

「うんうん、あの三人と同じくらい存在感あるし」


なんて声が聞こえてくる。いや、綺麗というのは月宮先生や一ノ瀬くんみたいな顔立ちを言うんだと思います。


「けっ、ただの女顔の男じゃねーか。しかもんな声で聞ける歌なんて歌えるのか怪しいぜ」


…………


初めて女顔って 言 わ れ た!


そっか、女だと男に思われるけど男だって言うと女っぽく見えるのか…それってどうなの?

幾人かの男子生徒がその声に同意するように私に対する批評批判が波のように広がる。
あれ、私何か反感買うようなこと言ったっけ? 一ノ瀬くんのように刺々しく言ったわけでもないし。

なるべく目立たないように学園生活を過ごしたかったのにしょっぱなから躓きました。

きょとんとする私を苦笑いで見ていた日向先生がパンパンと手を打ってその場を収める。


「ウッセーぞ。おい、秋」

「はい」

「お前も他のヤツラとおんなじように特技とか披露しろ、っつーか歌え」


無茶振りするなぁ。しかも強制。
歌うのは嫌いじゃない、むしろ好きだから構わないけど。

ああ、そっか。さっきは女顔って言われたことに気を取られていて気付かなかった。

この声で歌えるのかって言われたんだっけ。掠れすぎて聞き取りにくかったしなぁ。

試験の実技には歌も含まれている。そして日向先生曰く、「ここでアイドルを目指すならまずは歌で実力を示せ」だったし。歌えないとなれば実力もないくせにSクラスにいるのはおかしな話。アイドルにとって歌は必要不可欠。男の子達の不審な目もわからなくはない。

わからなくはないが、決め付けて欲しくはない。


「わかりました。ピアノ、お借りしてもよろしいですか?」

「おお」


ありがとうございます、と一礼して教室に置かれているグランドピアノに近寄り腰を下ろす。

さて、何を歌おう。

首だけを動かしてクラス全体を見回す。そして、注がれる視線と目が合った。

うん、あれにしよう。







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