私はただただ呆然とするだけだった。間抜けにも口も半開きだったかもしれない。 そんな私を見て月宮さんはひとつ頷き、「おもしろそうね」と笑う。 日向さんもそれに首を縦に振り、すっと立ち上がると私の方へ歩いてきた。 「秋朔夜、起立!」 突然の掛け声に条件反射できょうつけの姿勢をとる。 目前には日向さん。 (あ、背高い…) 自分も女の子の中では高い方だが、やっぱり男の人は全然違うな。 首を上に傾けないと視線が合わないというのはなかなか珍しいことなのだ、私の中では。 「身長」 「170です」 「体重」 「47キロ」 「はぁ? 軽すぎねーか? ちゃんと食ってんのかよ、ったく」 はぁ、食べてます。気が向いた時だけ。なんて言ったら怒られそうだ。 矢継ぎ早に質問を浴びせられそれに答える。事前に提出している基本的なプロフィールを含めて十数個の設問に答えた後、 「うん、いいな。ルックス・声・態度、これならなんとかなるじゃねーか?」 長い手を胸の前で組み一人納得している日向さんに呆気に取られる。 それはつまり…決定ですか? 「YOUには男としてこの学園に入ってもらいマース。 決してバレるな! ……とはイイマセーン。今はまだネ。でもバレないようにはしてクダサーイ」 「アタシとは逆バージョンね! あ、でもアタシの場合、中身は男だってバレてるからちょっと違うか」 「この学園でも業界でも社長の命令は絶対だ。まぁ、可哀想だとは思うがガンバレ」 最後、なんか投げやりになってませんか日向さん…。 だが彼らがここまで言うのならばすでに変えられないのだろう。何より、私はここを受験している立場だし。 私としては結局のところ歌さえ歌えればなんでもいい。けれどもただ要求を呑むにはあまりの内容だと思う。 「はぁ、それで。私にメリットは? 自分の性別を隠し、常に気を張って生活しなくてはならない。バレた時のリスクはないにせよ負担が大きすぎると思うのですが」 私がそう言うと早乙女さんがフッと笑った。 「この私に取引か? いい根性をしているな。無条件での学園合格では満足出来ないと言うのか?」 さっきまではどこの外国人だというような片言喋りが一転、トーンを落とした真面目な声。威圧感とでもいうのだろうか、ぞわりと鳥肌が立ったが負けてもいられない。 「ここに入ることが目標ではないので」 難関と言われる早乙女学園に入学出来たからといってそこで終わりではない。 「フム……おもしろいな、お前は。イイデショーウ。特例を出してあげようではアーリマセンカー。 卒業オーディションの結果に問わず、卒業後は事務所の準所属にしてアゲマース。ただーし、その場合一年以内に見込みなしと判断した場合はクビデース」 これは特例中の特例なのだろう。シャイニング事務所は、卒業と同時に即戦力になる実力を持つ者しか入れないと聞く。そこを準とは言えども、実力の足りない者を所属させ、一年間は確実に現場に触れることが出来るのだ。 普通なら即飛びつきたくなるような話だけど、言い換えれば「お情け」で所属させてもらうという…そんな結果に意味はない。 「ありがとうございます。まさかそこまで言って頂けるとは思いませんでした。けれどそれに関してはお断りいたします。事務所所属は自分の力で掴み取りますので。 私からの条件はこの学園で生活するにあたってのことです」 にっこりと微笑むと三人は一瞬固まったようだが次の瞬間には早乙女さんが豪快に笑っていた。 「ふはははは。ふん、本当にオモシロイ奴だな。今の条件を飲んでいたら学園合格を取り消そうと思っていたんだが…気に入った」 「度胸もいいな、こいつはなんとしてもモノに育て上げねーと」 「いやぁーん、カッコカワイイ!! 惚れちゃいそう!」 早乙女さんの言葉にこの人の恐ろしさを知る。 あそこで頷いていたらこの学園に入ることもなかったのか。まぁ、もとよりそんなつもりなんてこれっぽっちもなかったけれども。 それから私の条件を話し、私は面接の終了と同時にこの学園の生徒になることに決定した。 |