短文2
□正十字学園へようこそ!
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※ご注意※
女体化ねたです。苦手な方はすみません!
元ねたは那須ゆきえ「ここはグリーンウッド」です。
ただし、かなり内容はうろ覚え。
正十字学園へようこそ!
ちょっと待ってろ、と言い置いて、燐は厨房にやってきた。今日は燐の部屋で勉強をする予定で、勝呂が来てくれている。
「気ぃ使わんでええ」とは言われたが、お茶くらいは出そうと思ったのだ。
もっとも、二人きりなのが少し照れくさかったから、と言うのもある。勝呂とは最近オツキアイを始めたばかりの、恋人同士だった。一緒にいると楽しいけど、同時にどきどきしてしまうから、心の準備がいる。
(やましいからそう思っちまうのかなー)
雪男のいない時に勝呂を呼ぶと、下心がばれるんじゃないかと恥ずかしい。付き合ってるんだし、勝呂が好きなのはほんとだからその通りなのだけど。勝呂が平然としてみえるだけに、自分ばっかり何かを期待しているみたいで。
麦茶をピッチャーごとトレイに載せてから、お菓子があるのを思い出した。棚の上に、雪男が任務先かなにかでもらってきた、戴き物の茶菓子があったはず。燐はがたがたと脚立を引っ張り出してきた。
「あったあった。……っと、」
目当てのものを見つけて、脚立から降りようとしたときだった。ぐらり、と足場が揺れた。
「わ、わっ!」
いつもなら多少バランスを崩したくらいなんともないのに、手に持った菓子の箱を庇ったのが仇になった。燐は足を踏み外して、脚立ごと厨房の床に転げ落ちてしまった。
* * *
「…ってえー…」
燐はそろそろと起き上がった。倒れた拍子に、頭や肩をどこかにぶつけたらしい。じんじん痛む後頭部をさすりながら、脚立をしまう。こけてしまっただけで、別に怪我もないようだが、すごい音がしたので勝呂がびっくりしているかもしれない。なんて言い訳しようと考えながら六〇二号実に戻ると、ドアを開けた。
「勝呂ごめんおまたせ――」
燐はドアに手をかけたまま、ぽかんと口を開けた。そこにいるはずの勝呂がいない。代わりに知らない女の子が部屋にいた。
相手も、燐の姿を見るなり硬直している。だが先に我に返ったのは相手のほうだった。
つかつかと燐のところまで来て、にらまれる。その迫力に燐はたじだじだった。
「お前っ、どっから入ってきた!」
「えっ、ど、どっからって?いやお前こそ、誰だよ!なんで俺の部屋にいるんだよっ」
「やかましわ!女子寮に忍び込むなんてええ度胸しとんな…っ」
少女に胸倉を掴まれそうになって、燐は慌ててよけた。少女は鋭い目つきをますます怒らせる。まるで燐が悪いような言い分だが、勝手に人の部屋に侵入してるのはそっちなのに、どうして燐が逃げる必要があるのだ。
「何言ってんだ!俺の部屋に勝手に入り込んでんのはそっちだろ!」
にらみ合いになってどちらも譲らない。そのうち燐ははっと気がついた。
見知らぬ女の子を残して、勝呂はどこへ行ったんだろう。
「あっ、こらっ」
目の前に仁王立ちしている少女をおしのけて、部屋の奥までのぞいてみたが、狭い部屋だ、いたら分からないはずがない。
「勝呂は帰ったのかっ?」
「はぁ?」
女の子にあるまじき迫力で、少女は顔をゆがめた。
「勝呂はうちやっ。お前、奥村の知り合いなんか?」
「えっ、お前が勝呂って、……ええっ?」
自分を勝呂と名乗った少女は、彼と同じように髪の真ん中だけ金色に染め抜いている。
「勝呂のファン……とか?」
「さっきから何をわけわからんことを!」
ちょっと待ってと燐が言う前に、燐は少女に投げ飛ばされた。
* * *
「――ほんでお前が奥村やて?」
深々とため息をついた少女に、燐はうなずいてみせた。
「信じられへんわ!って言いたいとこやけど……」
ちらりと燐の尻尾を見て、またため息をついた。「それ見てしもたらなあ」
「信じられねえのはこっちもだよ!」
六〇二号室。さっきまでここは確かに、燐の部屋だったはずなのに。よくよく見れば内装が微妙に違う。ベッドの上にかかったシーツは見たことのない柄だったし、壁のフックにかけてある制服は。
ピンクのスカートだった。どうみても正十字学園の女子の制服だ。
「非現実的やけど、あんたのとこでは、うちは男やって言うんやな」
「お前は、奥村燐は女だって言うし」
どちらからともなく、二人はため息をついた。互いの言うことを信じるのであれば、燐は二人の性別が逆転した世界にいることになる。よく見れば確かに、少女の顔には勝呂の面影があった。目元はきついが、勝呂よりほっそりしていて美人の部類にはいるだろう。Tシャツに短パンというラフな格好だが、それでも分かるくらい手足が長くて、スタイルもいい。勝呂を女にしたらこんな風になるのか、と考えていると、相手も同じように観察していたらしく、じっと燐の顔を覗き込んでいた。
「こっちの俺がいないってことは、逆に俺の勝呂のとこに行ったってことなのかな」
「分からへんけど、そう思うしかないな」
「うーん……」
ふたりで頭をひねっていると、少女は――勝呂竜子と名乗った――何かに気づいたようにはっと顔を上げた。
「ってことは、奥村は今、男と二人っきりってことか!」
「いや、お前も今同じ状況だって分かってる?」
燐のつっこみを、竜子はスルーした。
「うちはええねん!せやけど男になったうちのこと、絶対あのこ、『かっけー』って言うとる!なんか間違いでもあったら……っ」
「あー……。確かに勝呂はかっけえけど」
「ほら見い!」
「でも、勝呂は悪いことなんか絶対しないから」
燐の知っている勝呂は、信頼できる人間だ。燐からすると自明のことだったのだが、竜子はそれを聞いて赤くなった。
「なんや、えらい信用してんねんな」
「そりゃそうだよ。勝呂だもん」
竜子は少し黙ってから、「そんな風に言えてまうとこ、やっぱ奥村やな」と呟いた。
「え?何なに?」
「ううううるさい!あんまり近寄んな!奥村やったらおんなじこと言いそうや、って思うただけや!」
なごんでる場合ではない。
「奥村先生に連絡とってみるか?こんな現象にもしかしたら心当たりがあるかもしれへん」
「えっ、奥村先生って、雪男?こっちにも雪男いるのか?」
燐は単純に疑問を口にしただけだったが、竜子はいやそうに顔をしかめた。
「そっちは先生、雪男って言わはるんやな……やっぱり男なん?」
「え、うん。じゃあもしかして、こっちの雪男は……っ」
燐と双子の妹で、名前は雪と言うらしい。どうやら燐と勝呂だけではなく、全員の性別が逆転しているようだった。ということは、志摩や子猫丸も?
(見たいような、見たくないようなー!)
携帯で雪男(こっちでは雪、か)に電話をかけていた竜子だったが、「あかん、電波の届かないとこにって言うてる」
燐は部屋に携帯を置いて出てしまったし、同じ『奥村燐』でも女の子の携帯を勝手に触るのには抵抗がある。
「ほなとりあえず、出来ることからやってみよか。脚立から落ちたって言うてたな?」
同じ状況になったら、もしかしたら元に戻れるかもしれないという竜子の提案で、二人は階段を下りて厨房へと向かった。
「あ、ちょっと俺より背が低い」
並んで歩くと、燐のほうがわずかに背が高い。男女の違いのせいだろうか。いつも見上げている勝呂のことを見下ろしているのが不思議だった。
「どうでもええわそんなこと。でもうちの奥村は、うちより背ぇ低いで」
「あ、やっぱりそうなんだ」
たわいもない話をしながら、燐の記憶のとおりに脚立を置く。
「で、こっから落ちたんやな」
「うん。……え、もしかしてもっかい落ちろってこと?」
「そらそうや。同じ状況を再現しな意味ないやろ」
足を滑らせて落ちたのなら仕方ないが、故意にやるとなるとさすがに抵抗がある。
「落ちて痛い思いしても、戻らなかったらやり損じゃねえか!」
「……ほな、なんか他にいい方法あるんか?」
竜子ににらまれて、燐はがくっとうなだれた。「ナイデス……」
再現するのであれば、後ろ向きに落ちることになる。燐は脚立に上ると、さっきやったように棚に手をかけて扉を開いた。後ろに向かって落ちるのって、飛び降りるより怖い。ためらっていると、背後から竜子が声をかけてきた。
「あんな、ちょっと気になっとってんけど」
「なんだ?」
脚立に乗ったまま燐が訊ねると、竜子は、「そっちの勝呂とあんたって……」
言いかけて、やっぱりええわ、と竜子は黙ってしまった。
「なんだよ気になるじゃん」
「せやからもういいって!」
しばらく押し問答が続いたが、やがて竜子はあきらめたように口を開いた。
「二人は付き合うとんの?って聞こうとした」
「え、てことはやっぱそっちも?」
性別は逆でも、やはり変わらないらしい。燐は目の前にいる竜子と、女になった自分が並んでいるところを思い浮かべた。こっちの燐の顔をみた訳ではないので、以前女装したときの自分の姿が自然と思い浮かぶ。
「なんか、もったいねえな。お前美人だし、普通にもてそうなのに」
「何やそれ。うちは奥村が好きやと思うたから、付き合うとるねん。もてるとか関係あらへん」
もてるってのは否定しないんだ、と燐はおかしかった。でもきっぱり言ってくれる竜子は、かっこいい。やっぱり『勝呂』は『勝呂』だ。
「俺もだよ。勝呂だから好きなんだ!」
「ちょっ、奥村!?」
振り向いた拍子に、燐はバランスを崩した。竜子があせった声をあげる。
あっ、と思った時には脚立が斜めにかしいでいた。振り回した手に、ふにゅっと柔らかい感触が当たったと思ったのもつかの間、大きな音を立てて燐は倒れこんだ。
* * *
「いてててて……」
「奥村!奥村、大丈夫か!」
燐が目を開くと、心配そうな勝呂の顔が飛び込んできた。つかの間その顔を眺めてから、燐はがばっと起き上がった。
「こらっ、頭打ってんのに急に起き上がったらあかんやろ」
「すぐろぉ〜〜っ」
燐は目の前にいる『勝呂』に、がばっと抱きついた。勝呂ははじめ、困ったように強張っていたが、やがてそろそろと燐の体に手を回してきた。
最初はためらいがちに、それから、ぎゅっと抱きしめてくれる。
「よかった、元に戻った……」
ようやく安心して、どちらからともなく、ふっと笑いが漏れた。
「やっぱりこっちには女の俺がいたんだ?」
「せや。どないなるかと思たわ。ぎゃーぎゃーうるさいし」
「勝呂は女の子でも、かっこよかったぜ!」
言ってから、ちょっとだけ心配になって燐は勝呂に訊ねた。
「俺が女のほうがよかった……?」
勝呂は笑って、「阿呆か」と言っただけだった。
* * *
その後この話を聞いて、志摩が「じゃあ女子寮に行ったってこと?うらやましすぎる!」とわめいたとかわめかなかったとか。
あれ以来あっちの世界を見ることはないが、男でも女でも、燐が勝呂と幸せになってくれてたらいいな、と燐は時々考える。
了
加藤先生の性別逆転イラストを見てから、いつか書きたかった、にょた勝呂の話でした。
女体化苦手だったのに…笑。
色物ねたで大変失礼しました!