短文2

□すきなひとのすきなひと
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すきなひとのすきなひと


昼休みの中庭、珍しく勝呂が一人でいるのを見かけた。昼飯の途中だったのか、食べかけのパンを手に持ったまま、なんだかぼんやり座っている。
だいぶあったかくなってきたけど、まだ寒いこの時期に外で飯食うやつはあんまりいない。俺はきょろきょろとあたりを見回し、他に人がいないのを確認してから、ベンチに座る勝呂の後ろから「わっ」と脅かしてやった。
だけど勝呂は全然無反応。つまんね。
そう言ったら、お前が近寄ってきてんの見えとったわ、と苦笑いで言われた。
勝呂がお尻を少し横にずらしてくれたので、隣に座っていいのだと解釈した俺は、遠慮なく勝呂の横に腰かけた。
へへ。
二人きりになれるなんてめったにないから、なんか嬉しい。勝呂はまあ、んなこと思ってもないだろうけど。
あいかわらず心ここにあらずと言った様子の勝呂は、別に俺と話しをするわけでもなくどこ見てんだかわかんねえ顔してる。
こいつがこんな風だなんて、やっぱりなんか変だ。
勝呂はいっつもきっちりかっちり時間を使う。少しでも暇があれば参考書開いてるし、スケジュール通りに一日をこなすことに熱心だ。だからこいつがこんなとこで、ぼーっとしてるなんて考えられねえよな。よっぽど疲れてんだろうか。
いつまで経っても何にも言わない勝呂にしびれを切らして、俺は食わねえの?と勝呂の手元を指さした。そうしたら、勝呂は手に持っていた残りのパン、今気が付いたとでもいうように、むしゃむしゃと二口くらいで食べてしまった。
続いて、俺との間に置いてあったペットボトルのお茶も飲み干してしまう。
わずかに上を向いた勝呂の喉が、ごくりごくりと動く。何でもない動きなのに、思わず見とれてしまった俺は、勝呂が話しかけてきたことに、気づかなかった。

「聞いとる?」
「あ、ごめ……」

勝呂の声にはっと我に返った時には、とっくにペットボトルは空で、はは、と俺は笑ってごまかした。けど、勝呂は笑わない。ただじい、とこっちの顔見ている。「ええと……何て言った?」って聞いたら、はああああ、って呆れたようなため息をつかれた。足に腕をついて、頭を垂れる。
そんなあからさまにがっくりしなくてもいいんじゃねえの。俺はむっとしたけど、だからといって『勝呂に見とれてて聞いてなかった』だなんて言い訳、出来るはずもない。
内心ちょっと焦ってる俺に気付かないのか、勝呂は少しうつむいたまま、「……ねん」とぼそ、と声を出した。
よく聞こえなくて「はあ?」と聞き返すと、勝呂は俺から顔をそらした。む。なんだその態度は。
感じ悪いなあ、って言ってやろうとした俺は、勝呂が続けた次の言葉で頭が真っ白になった。

「俺なあ、今好きなやつおんねん」

き、き、き、キターーーーー!
勝呂、まさかの恋バナ?
で、でも、なんで俺に言うんだ?
いろんな衝撃が頭の中を駆け巡ったけど、とりあえず俺の口から出たのは、間抜けな一言だけだった。

「えっまじで?」

何これ。
さっき二人きりだーわーいなんて浮かれてた俺、ちょっとこっち来い。こんな話聞くハメになるくらいなら、勝呂に声かけたりしなきゃよかった。あ、いや、でも、今聞かなくても勝呂に好きなコがいるって事実は変わんないわけだから、結局一緒か?
う、う、う……でも、心の準備くらい、させてほしかった……。
多分俺が固まっていたのは、ほんの数秒だったと思う。だけどその短い間に、俺の胸の内では焦りとか、驚きとか、なんだかよく分かんないもやもやしたものが暴れまくってた。
だけど、そんな俺のショックになんか全く気付いた様子もなく、勝呂はさらに追い打ちをかけてくる。

「うん。ほんで今日告るつもりやねんけど」

まじか!まじなのか!
勝呂が告白!
ハイキターーーーー!
勝呂は俺から視線を逸らしたままだったから、俺、見ちゃった。
勝呂の耳が、ちょっとだけ、赤くなってんの。なにこいつ。照れてる?なんだよもう、俺の気持ちなんか全然知らない癖に、恋とかしちゃってんですか?

俺の、気持ち。

そうだよなー。勝呂が知ってる訳ない。だから、こんな堅物な勝呂に好きな相手が出来たって言うんなら、俺、祝ってやらねえと。
俺はひきつりそうになる顔をなんとか笑顔にして、勝呂の背中をどん!と叩いてやった。

「そっかー…す、勝呂だったら絶対大丈夫だと思うぜ!」
「ほんまにそう思うかあ?」
「おう!だってかっけえもん、勝呂」

勝呂は、かっけえよ。んで、なんだかんだ言って優しいし。本心から言ったのに、勝呂は目を眇めて俺を見た。
そ、そりゃあ俺は何かっていうとつい、勝呂かっけえ!って言ってるから、俺の言葉なんて軽いかもしんないけど。
信用しろよ。

「またそれか」
「ほんとのことだから仕方ねえだろ」
「うーん、せやけどあんまり自信ないねん」

だけど勝呂のテンションは変わらなかった。何言ってんだ。今日告白するって言ってるくせに。
勝呂が好きな相手ってどんな子なんだろ。クラスの子かな。まさか、塾のメンツじゃない……よな?頭の中で塾の皆の顔を思い浮かべてみた。すぐさま否定する。う、うん。ない、と思う。
勝呂でも自信がないなんてこと、あるんだな。そりゃ人には好みってもんがあるけど、勝呂ほどいいやつは早々いないと思うぞ。だから。
振られる心配なんて、しなくていいと思う。
でも、……オーケーが出たら、それは、その子と勝呂が付き合うってことで……。えーと、それはちょっと、いやかなり、嫌、だな……。
俺の気持ちもどんどん沈んでいく。
でも、勝呂は俺のこと信用して、相談してくれたんだ。勝呂はどうでもいい相手にこんな話絶対しねえ。だから、ここは友達として励ます!俺のことはこの際どーでもいいんだから。
俺はうっかりすると泣きそうになる自分を叱咤して、なんとか笑った。

「何言ってんだよ!ふられたら慰めてやるから頑張れよっ」
「あーそれはちょっと無理やな」
「はあ?なんで」

あくまでやる気のなさそうな勝呂に、つい声が尖ってしまう。
失恋の痛みは、俺なんかじゃ癒せないってか。けっ。
俺なんて、今まさに失恋して傷ついてますけど?それも、一人こっそり、心の中でだぞ。ばーかばーか。
悪口は口には出てなかったはずなのに、勝呂はまるでそれが聞こえたかのように俺をにらみつけた。
え、無意識に馬鹿って言ってた?俺。
急に目が合って、情けないことにどきどきした。うう。ほら、勝呂やっぱかっこいいって。

「振られた相手に慰められたらさすがにへこむ」

つい目の前の顔に見とれていた俺は、勝呂の言葉の意味が分からなくてきょとんとしてしまった。え、今、誰の話してんの?
勝呂が好きな相手に振られたら、俺が慰めるって言ったんだぞ。
多分俺は、間抜けな面してたんだと思う。
怒った顔してた勝呂だったのに、急にぷっと噴き出した。俺をおいてけぼりにしてひとしきり笑う。なんなんだよ、もう。
俺が混乱してるのが分かったのか、勝呂は困ったように頭をかいた。それから、意を決したようにこっちに向き直る。真面目な顔してるから、俺もつられて、背筋を伸ばした。

「俺が好きなん奥村やから。好きです。付き合うてくれる?」
「…………」
「あ、やっぱり引いた?すまんかった」

数瞬遅れて、ようやく勝呂の告白が頭の中で理解できた。
え、
え、
それって、それって、
ええええええ!?

ほっぺたが熱い。でも、気まり悪そうにこっちを見てる勝呂の顔も、なんだか赤い。
せやから、結果分かっててんけど、とか何とか、もごもご口の中で言い訳している。
何だよもう。勝呂、可愛いじゃん。
俺はさっきまでの絶望感がウソみたいに、じわじわと嬉しさがこみ上げてきた。
これって、まさかの、両想いってやつ?
思わず手が伸びて、勝呂の腕掴んじゃった。
えっと、こーゆーとき、なんて言えばいいんだっけ。
緊張で手が震える。
ひとつ深呼吸をすると、俺は困った顔になってる勝呂にしがみついた。わあ、とか奥村!?とか、なんかわめいてるけど知らねえ。

「くそばか!絶対大丈夫って言っただろ!」




…………………

急に告白勝呂かわいくね?と盛り上がって、セリフのみのSSで
ツイッターに投げていたのを文にしてみましたー。
青春楽しい(^^)

20130308

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