短文


□冬の朝
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小ネタです


*冬の朝*



「う……」
 
 目を開けたらすでに朝だった。カーテンの隙間から光が差し込んでいる。俺はまだぼんやり
している頭で周りを見回した。雪男は夕べは帰ってこなかったみたいだ。
 やりかけの宿題が、机の上に開いたまま残っている。
 見て見ぬふりをしたところでなくなるわけじゃない。だけど昨日は勝呂にも、しつこいくら
い念を押されていた。ちゃんとやってこいって。 
 でも、だめだった。
 俺はこいつの誘惑に勝てなかった。
 もう起きなきゃだめだってわかってるけど、またふらふらと手が伸びる。再びベッドに潜り
込んだら、あいつが俺を柔らかく受け止めてくれた。
 はあ、ってため息が出て。またまぶたが重くなってくる。

 ごめん、勝呂。もうしないって言ったのに、約束守れなかった。でも、気持ちよくて……。
 多分勝呂が今の俺を見たら、軽蔑するんだろうな。でも、こいつに包まれてるとあったかく
て、安心しちゃうんだ。頭がとろけて、何も考えられなくなる。
 今日こそはやめよう、明日こそは……って。朝になってから、自分のだらしなさに何回後悔
しただろう。でも、どうしてもだめなんだ。一度覚えた心地よさは、どうしたって忘れられな
い。
 分かってるよ、悪いのは俺。俺がいくら口先だけで、今日こそしないって言っても、もう雪
男だって信じてない。

 こいつもさ、最初は冷たいんだ。でも、そのうち体温が移ってあったかくなる。
 毎晩この温かさに抱かれて眠るのが至福の時。
 堕落してるって言われても、俺はもうこいつと離れられそうにない……。
 頬をすり寄せて、ぎゅっと抱きついたその時。


「こるぁあああっ!奥村ぁっ!まだ寝とるんかいぃ!!」
「うえぇっ!?」

 突然部屋中に響くような怒鳴り声と共に、俺はベッドから放り出された。急に朝の冷気の中
一人にされて、俺は身体を震わせた。
 床から勝呂を見上げると、俺の大事なあいつを勝呂が投げ捨てるところだった。あわてて取
り返そうとしたけど、勝呂は意地悪く俺の前に立ちふさがる。
 俺はむっとして、抗議した。

「いっ、いきなり何すんだよ!返せよ!」
「何するはこっちのセリフじゃ!今何時や思うとんねん!」
「えっ」

 慌てて時計を見たら、すでに出かけているはずの時間になっていた。どうやらすっかり二度
寝してしまったらしい。
 今日は勝呂と待ち合わせして、出かける予定だったのに。
 いや、夕べはすっごく楽しみで、わくわくしてて、……で、なかなか寝付けなくて……。
 
「あは、はは…ごめん、二度寝してた」
「奥村……言うたよな?今度寝坊したらどつくぞ、て」
「え、えへへ…」

 笑ってごまかそうとしたけど、当然のことながら勝呂は許してくれそうにない。急いで着替
えてこい!って大声で怒鳴られて、俺はぴょこん!って立ちあがった。
 あーあ。
 ベッドをちらりと見たら、さっきまで俺をあったかくくるんでくれたあいつが、勝呂に放り
投げられたまま、くてっと伸びている。

 肌触りもよくて、ほんとあったかいんだよ。この毛布。

 おかげで寝坊しまくりだ。
 でもそんなこと勝呂に言ったら「物のせいにすな!だらしないお前が悪い」って怒鳴られるのは分かりきっているので、俺は急いで顔を洗いに部屋を出た。


………………………
20130208

 冬の布団のあったかさは異常。

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