短文


□Just married!
1ページ/2ページ

勝呂とくっついて寝るのが好きだった。
もちろんエッチするのも気持ちいいし、好きだけど。
ほんとはこうやって、ずっと一緒にいられたら、それだけで俺は満足なんじゃないかと思う。


でも俺はわかってなかった。
俺が悪魔の子で、勝呂が座主血統であるってことの意味を。
こうして俺が勝呂の隣にいられるのは、今の間だけだってことを。


3年生になり、そろそろ進路について考えなくてはならなくなってきた。
祓魔塾の塾生は、みんなそろって祓魔師の資格はとっていたし、進学するのでなければ、そのまま現場仕事に回される。
当然俺は、ばりばり働くつもりでいた。
そもそも、正十字学園に来たのも、塾に入るタメだった訳だし。
そこではた、と気がついた。

勝呂たち、卒業したら京都に戻るんだろうか…。

先輩である志摩の兄ちゃんたちも、祓魔師になってから京都支部で働いている。
ということは、必然的にあいつらも?


***

「奥村、お前も一緒に京都にけえへんか」

卒業を間近に控えたある日。
俺の部屋に来るなり、真剣な顔で勝呂が言ってきた。
ストレートに言ってくれるとは思ってなくて、正直面食らった。
もちろん嬉しかったけど、その言葉にイエスはいえない。
俺の存在は常に、ヴァチカンの管理下にある。勝手に居住を移すなんてできっこなかった。

「悪ぃ、それ無理」
「何でや?京都でも祓魔師の仕事は続けられるやろ」
「そりゃそうだけど…」

俺のこと、なんて説明するつもりだよ。
サタンの息子が、なんで一緒なんだって言われるのがオチだろ?
勝呂はこれから、明陀宗をまとめていかなきゃならない立場だ。俺なんかと一緒にいて良い訳ない。

「俺が京都に行ける訳、ねえだろ。分かってるくせに」
「奥村……」
「勝呂が戻るんなら、仕方ないよ。俺に止める資格、ないから……」

俺達、もう別れた方がいいのかもな。

そう言ったら勝呂が、傷ついたような顔をしたのは気のせいじゃないと思う。

「お前は、それでええんか?」
「いいも何も、どうしようもないだろっ」
「……ほうか」

一瞬の沈黙の後、勝呂が低い声で言った。

「分かった。ほな、お前とはこれで仕舞いやな。」

自分から言い出したのに、俺は息が止まるかと思った。
おしまい。
そう、俺と勝呂の関係は、もう終わりだ。

「うん…。京都戻っても頑張れよ!」
「言われんでも頑張るわ。お前のほうやろ、心配なんは。」

勝呂はまだ何か言いたそうにしていたが、じゃあな、と一言残して、扉を閉めていってしまった。


「……勝呂」

もっといつもみたいに、あほなこと言うなって、怒るかと思ってた。
でも、勝呂は驚くほどあっさり、行ってしまった。
ほんとは、そんなのうそだ、一緒にいたいんだって、叫びたかった。
でも、体は動かなくて、ただ俺は、馬鹿みたいに勝呂の出て行った扉を見つめることしかできなかった。


もしかしたら勝呂は、俺と別れることを前々から考えてたんじゃないかな。
将来のこととか考えたら、俺との関係に未来なんてないのは明らかなんだし。
それとも、ずっと好きだって思ってたのは俺だけで、実は勝呂はそうでもなかったのかも。

あの日以来、考えたくないのに勝呂のことばかり考えてしまう。
あまりにも突然、俺の隣にいたはずの勝呂がいなくなってしまって、その現実についていけない。


3年生には、もうほとんど授業がない。
俺達はそれに加え、祓魔師としての任務もちらほら増えてきていたから、あれきり勝呂とは会わないままにばたばたと時間が過ぎていった。

勝呂に会いたい。
でも、今あいつに会ってしまったら、やっぱり別れたくないなんて言ってしまいそうで。
せめてメールでも、と思っても、出てくるのは泣き言ばっかりで、結局何もできなかった。
勝呂からもメールの一つもないのが、ホントに俺たち駄目になったんだなって感じさせられて哀しくなる。


俺がふつーの人間だったらな。
今まで幾度となく考えた。
それとも、勝呂が跡取りなんかじゃなかったらよかったのに。
でも、もし二人が今とは違う立場だったら、俺達は出会わなかった。
考えても考えても、思考は同じところをぐるぐる回るだけ。
そのうち俺はだんだん、考えるのが面倒になってきた。
ちっぽけな脳みそは、頭使うのに向いてないんだよ。
俺達はもう終わりだけど、俺はこの3年間、勝呂といられてとても幸せだったから。
せめてそれだけは告げておこうと、最後のつもりで勝呂に電話をかけた。


俺の部屋でも勝呂の部屋でも、今までずっと一緒に過ごしてきたことを思い出しそうだから、会うのは別の場所がいい。
そう思ったら他に思いつく場所なんてなくて、結局祓魔塾の教室に呼び出した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ