過去拍手
□台風の日
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☆結婚話の設定ですが、別に読んでなくても大丈夫だと思います。
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テレビで警報が出ているのを確かめると、竜士はため息をついてリモコンの電源ボタンを押した。
カーテンをよけて窓の外を覗けば、斜めに激しく雨が降っている。がたがたと窓枠も鳴っていた。
「やっぱダメだったな」
残念そうな声が聞こえて、燐がキッチンから戻ってきた。手にはマグカップが二つ。そのうちのひとつを勝呂に渡すと、燐はベッドに腰を下ろした。竜士にはコーヒー、燐のはミルクたっぷりのカフェオレ。
竜士が窓際に立ったままコーヒーを啜ると、燐もまたふう、と軽く湯気を吹いてから口をつける。燐のカップの中身は甘いカフェオレだろう。
昨夜の予報の通りに、日本には台風が接近してきていた。
前々から予定していた旅行は、昨日の時点でキャンセルした。それでももしかしたら、と淡い期待を抱いていたのだが、目が覚めた時点で外は大雨。大粒の雨粒が次から次へと窓ガラスを叩き、流れていく。
旅行と言ってもそんなに遠出をするつもりはなく、温泉に入って、のんびりする程度のことだった。それでも二人きりの旅行は初めてで、楽しみだな!とはしゃぐ燐の姿を覚えているだけに、勝呂は残念な気持ちでいっぱいだった。
「天気は予定に入ってないもんな、仕方ないよな」
「……すまんな」
「なっ、なんで勝呂が謝るんだよ……っ」
「いや、なんとなく」
期待させただけがっかりも大きいのではないかと思ったのだが、燐は意外とあっさりしている。楽しみにしていたのは自分だけだったのか、と少し落ち込んで、マグの底に残ったコーヒーを飲み干した。
「そりゃ、残念だけどさあ」
一緒に住み始めて知ったのだが、燐は少し猫舌だ。ゆっくり少しずつ飲んでいる。
「休みが合うの、久しぶりだろ?」
「そやな」
わざわざこの休暇を取るために、仕事も前倒しでやっていたのだ。最近二人の生活はすれ違いが多かった。
だからめいっぱい燐を甘やかしてやろうと決めていたのに。
空になったカップを置くと、勝呂も燐の隣に腰を下ろした。
部屋の中にいても雨音は聞こえている。
両手でカップをくるむようにして持ったまま、燐は呟いた。
「旅行、いけなくなったけどさ、その……別にいいかな、って」
「なんやもしかして、そない行きたくなかったんか」
「なっ、……誰もんなこと言ってねえだろっ」
燐はむっと唇をとがらせた。
「そうじゃなくってー。えと、一日中一緒にいられるんだから、旅行でなくても、嬉しいかな、って」
恥ずかしいのかとぎれとぎれに言う燐を、竜士は思わずじっとと見つめてしまった。
なんだかずいぶん可愛らしい告白だ。
現金なことに、さっきまで沈んでいた気分が浮上したのが自分でも分かる。竜士は、なんだよ、と言う燐の唇に軽くキスをした。燐の好みの、甘いカフェオレの味がする。
そのままベッドの上に押し倒そうとすると、燐の抵抗にあった。
「ちょ……っ!何すんだよいきなり!あぶねえだろっこぼれる!」
手に持ったままのマグカップを庇う燐に、「はよう飲んでしまえや」とうながしたが、まだ湯気のたつそれを飲み干すには時間がかかるだろう。
竜士は燐の後ろに座りこみ、背中から抱え込むように腕を回した。
「ほな、こぼさんように気をつけや」
「え……っ?う、わっ!」
ちゅっと柔らかい髪にキスを落とすと、シャツの裾から忍び込ませた手で、燐の腹を撫でる。ちょっと待って、と燐の焦った声が聞こえた。
手に持ったカップと、それからもちろん、竜士のせいで、思うように身動きがとれない燐。
腕の中の燐の体温が上がったような気がする。いつまで零さずに持っておけるかな、と笑みを漏らすと、竜士は目の前の首筋に噛み付くように口づけた。
end
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台風接近中
おうちでずっといちゃこらしている勝燐を妄想した結果でした………