過去拍手

□距離感
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勝呂→燐



ぶぇっくしっ

盛大にくしゃみが出た。
ずず、と鼻をすすって、そろそろ寒くなってきたなあ、と燐は呟いた。
誰もいない屋上に大の字に寝転がって、空を眺めることしばらく。
太陽はだんだんと西に傾き、夕焼けの赤い光が辺り一帯を染め上げていた。

カツン、カツン、カツン…

誰かが階段を上ってくる音がして、なんとなくの予感にそちらに目だけをやると、金色の髪がちらりと覗いた。
「ここにおったんか」
「…勝呂」

ここ数日、燐が避け続けている相手だった。

「ここ、よくわかったなー」
「煙となんとかは高いところが好きっちゅうからな」
「けむり…?」
「もうええ、気にすんな」
勝呂は呆れたように嘆息すると、仰向けになったままの燐の傍まで歩いて来た。

「風邪ひくで」
「うん」
燐の位置からは逆光になっていて、勝呂の表情は読めない。
「いつまで逃げる気や」
「……」
「そろそろ返事聞かせてくれへんか」

その返事に困っているから、こうやって勝呂を避け続けてきたのに。

「なあ勝呂、友達のまんまじゃだめなの?」
一週間前、勝呂は燐に「お前が好きや」と告げられた。
「付き合うてほしい」
とも。
燐はものすごく困ってしまって、返事もせずに逃げ出したのだ。

「無理」
「な、なんでだよ…」
「お前のこと、友達としては見れんからや」
「…っ」
今まで通り、ばか騒ぎしてふざけあって喧嘩して。燐が望んでいるのは、変わらない日常。
「嫌なら嫌で、はっきり言うてくれ。そしたら諦める」
「んなこと…」
燐には、「好き」の違いが分からなかった。今のまんまで十分楽しいのに。勝呂はそれではダメだって言う。
燐の沈黙をどう取ったのか、勝呂は
「堪忍。男から好きなんて言われて、気持ち悪いよな」
「…っ」
「もう言わん」
そのまま踵を返してしまった勝呂に、燐は慌てた。
違う、気持ち悪いなんて…!
思わず勝呂の上着を掴んでしまう。
その拍子に勝呂の顔が見えて、燐は息を飲んだ。
それは泣き出しそうに歪んでいた。
「あほ!カッコ悪いから見んな」
「お、俺…」
「俺かて苦しい」
なんで奥村やねん、分からん。呟くように言うと、
「分からんけど、好きなんや」
まっすぐに言われて、燐は目眩がした。




勝呂→燐ですが、燐は自分の気持ちにきづいてないといい。
それでもおっかける勝呂です。
初めて拍手文で感想がいただけたお話なので、
とても感激した記憶があります。
20111231

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