リクエスト文
□たぶん、きっと。
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加依人様リク
たぶん、きっと(1)
「こんなんも分からんのか」
塾の授業のあと。
いつものように勉強を教わろうと勝呂のところへ行くと、呆れたように言われた。
口調はむかつくけど、いつも結局、なんだかんだと教えてくれる勝呂は優しい。
志摩と子猫丸に先に帰るように言って、俺に隣に座るよう促す。
時間とらせちまって悪いなとは思ったものの、課題が提出できないと、ただでさえ危ない俺の成績では進級できないと脅かされていたので、これは死活問題だ。
「奥村は基礎からやらなあかん。こんな応用置いといて、さきにこっちやり」
「ええ?やること増える……」
「これができたらこっちもできる。文句言うなら教えへんで」
「わーごめんなさいごめんなさい!」
一人だったら絶対やらないけど。
勝呂の説明を横で聞きながらだったら、何故だかすらすら解けていって、自分でもびっくりした。
「うおー!ほんとだ!できた!」
「せやろ?急がば回れ、や」
「勝呂すげえな!」
「……俺がすごいというより、奥村が順番すっとばしとるんや。やり方さえ分かれば勉強も楽しなるやろ」
「うんなるなる!」
実際、何が分からないのかすら分からない授業は、聞いてるだけでも苦痛だ。
提出用の課題が無事に終わって、ばたばた机の上を片付けてると、勝呂も俺に教えながら読んでいたノートを閉じた。
「それ、何のノート?」
何気なく訊ねると、見るか?と手渡される。
勝呂の字でびっしり埋まったそれを、ぱらぱらとめくるだけで頭痛がしそうだ。暗記ノートと書かれた表紙はナンバリングされていて、これと同じのが多分何冊もあるんだろう。
無言で返すと、勝呂は苦笑しながらそれを鞄にしまう。
「……アリアって大変そう……」
「まあ、お前には向いてへんやろな」
「俺は、実践タイプだからなっ!」
「なんぼ実践でもな……最低限のことは分かってなまずいやろ」
胸を張って言う俺に呆れたように返すと、勝呂は立ち上がった。俺も慌てて後を追う。
二人で教室を出たら、外はもう暗くて驚いた。
集中していたせいか、結構時間が経ってしまってたみたいだ。
「勝呂はかっこよくて頭もよくて、ほんとすげえよな!」
褒めたら勝呂は顔をしかめた。
「頭がええのは置いといて、そのかっこいいってのやめえ」
「なんで?」
だってほんとのことじゃん。
「そんでこうやって俺にまで付き合ってくれてさ、ほんといいやつだよな!」
そういって横を見たら、勝呂がいない。
あれ?
と振り向くと、一緒に歩いていたはずの勝呂が足を止めていた。
「ご、ごめん、俺うるさかった?」
そういえば、さっきから俺、一人でべらべら喋ってたような気がする。邪魔だったんだろうか。
迷惑かけてばかりなのが申し訳なくて、しゅんとへこんでしまう。
うつむいてしまったら、足音が聞こえて、勝呂が俺の前まで来たのが分かった。
「す……」
呼びかけようと顔を上げたら、勝呂の手がすっと伸びてきた。何故だか分からないけどどきっとする。
勝呂は固まってしまった俺の前髪から、ぴんを抜き取ると「これ、つけっぱなしで帰るんか?」と聞いてきた。
「なんだ、ピン……」
差し出されたそれを受けとりながら、俺は顔が急激にほてってきたのを感じた。
今、俺……。
勝呂が俺に触れるのかと思って、緊張した。
なんつー勘違い!
いや、それに触られたところで、さっきだって勉強教わりながら普通に接触してたわけだし、それがどうだってんだ!?
内心パニックになっている俺を不思議そうに見やると、勝呂は帰らへんのか?とさっさと歩き出してしまった。
俺はひとり、勝呂からもらったヘアピンを手に持ったまま、どきどきするのを感じてた。
わああ。俺、なんか変だぞ……!!
「早よ来いやー」
「う、うんっ」
ぶんぶん頭を振ってどきどきを追い出すと、俺は走って勝呂の後を追いかけた。
*
勝呂はかっこいい。
うん、それは真理だ。
頼りになるし、顔に似合わず優しいし。
俺と喧嘩はするけど、あんまり後には引かない。すぐ怒るけど、俺が悪い時が多いし、その時はむかついてもいつのまにか普通に接してることに気がつく。
だから、勝呂はいいやつで、俺はあいつが好きだ。
……友達だもんな。
………………………
201202021