リクエスト文

□平行線を辿る日々
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骸様リク

※少し未来の話
※二人は祓魔師
※ちょこちょこ捏造設定有

平行線を辿る日々(1)



どうしてこんなことになったのか、勝呂にはいくら考えても分からなかった。
目の前には、鼻歌を歌いながらシャワーを流す燐がいる。

「目ぇつぶれー」

これ以上考えていても状況は変わらないようなので、諦めて勝呂は燐の言うように目を閉じた。
バスタブから突き出した勝呂の頭を、燐はわしゃわしゃ洗っていく。
悔しいが、他人の手で髪を洗われる感触が気持ちいい。

「お客様、かゆいところはございませんかー」

ふざけた調子で、燐が聞いてくる。なぜこの男はこんなに楽しげなのか。
どうにも居心地が悪くて、勝呂はもごもごと言葉を濁す。

薄く目を開けると、燐の裸足が見えて、慌ててまた目を閉じた。
ものすごく、心臓に悪い。
燐は着衣のままで、自分ひとりが腰にタオルを巻いただけというカッコウなのも、勝呂の情けなさを増している原因かもしれない。
勝呂の頭を一通り洗い終えると、「じゃ、あとはゆっくり浸かれよ」と言い残して、燐は浴室を出て行った。



***


勝呂は学園を卒業した後、京都には戻らずに独り暮らしを始めた。
表向きは、大学進学のため。
祓魔師の資格は既に取得していたので、京都に戻って任務をこなしながら、あちらで進学することも可能だったが、任務と学業の両立にはこちらの方が便利だと、明陀の連中を説き伏せた。
まだまだ祓魔師としては未熟な自分は、仲間内で働くより、外で鍛えられた方が将来のためにもよいと。
学費は、下っ端ながらも任務で得た報酬でなんとか賄える。

勿論、勝呂にとってそれは全くの嘘ではない。
だが、京都に帰らない理由の全てでもなかった。

勝呂には、気になって仕方のない相手がいる。
奥村燐。
祓魔塾の同期生であり、正十字騎士團の隠された武器(ただし発展途上)であり、サタンの息子である男。

勝呂が京都に戻れば、彼との接点はほぼなくなる。

燐は非常に人懐こく開けっ広げな性格だが、同級生という繋がりを失い、明陀に戻った勝呂に、燐自ら接触してくるとは考えにくかった。
連絡をとる理由が見つからないのだ。
二人の間には「元クラスメイト」という以上の関係はない。
おまけに「サタンの青い炎」に悪印象しかない明陀宗の面々の事を考えたら、燐はきっと勝呂と距離を置こうとするに違いない。


勝呂にはそのことが耐えられそうになかった。
何故なら、彼は奥村燐に対して友人以上の感情を持っているからだ。

太陽のような笑顔も、時々見せる絶望も、出来ることならば全て、自分一人のものにしたい。
だが、それを告げてしまったら、友人としてのこの居心地のいい関係が終わってしまう。
友人という立場を維持したまま、燐と付き合いを続ける。それが勝呂にできる精一杯だった。

騎士團の武器として生かされ、働きながら、その騎士團から監視される。その事を燐自身がどう感じているのかは勝呂には分からない。
しかし、我が身を顧みずに戦う燐の姿に思う。
もっと自分を大事にしてほしいと。
常人ではあり得ない回復力を持つためか、燐は自分の怪我には全く無頓着だ。しかし、いくら治ると言っても、傷を負えば痛む。燐が苦しむ様を見るのは、辛い。
そしてまるでそんな痛みなどないかのように、平気だと笑う燐を見ると、もっと辛い――。

だからかもしれない。
あの時とっさに身体が動いたのは。



一人の祓魔師として任務をこなすようになると、燐と組む事が増えた。と言うより、燐の任務におけるバディのリストに加えられている、と言った方が正しいのかも知れない。

燐の出自はいわば公然の秘密だが、騎士團内でも直接燐を知る者は少ない。
ともすれば、「サタンの子」の名前だけが先走り、恐怖の対象になりかねない。そこで、燐をよく知る元塾生達と組まされる、と言う訳だ。

その任務自体は、たいして手間取るものではないはずだった。

「そこだっ!!」

目の前も見えないほど深い闇の中、突然青い炎が湧き出した。
致死節を止めようと詠唱騎士を狙う悪魔が姿を現すのを、燐はじっと待っていたのだ。
勝呂の唱える致死節によってあぶりだされた悪魔に向かっていく。
勝呂も燐の援護のため、発炎筒を取り出した。悪魔は暗闇を好み、光を厭う。突然の光に目を焼かれた悪魔がのたうち、尾を振り回す。
燐はそれを難なくかわすと背後に回りこむ。魔剣を大きく振りかざし、一気に悪魔を貫いた。
だがその時、柱の影からもう一体、別の悪魔が姿を見せたことに勝呂は気づいた。

致死節を唱える勝呂は声に出して燐を呼ぶわけにはいかない。
とっさに燐の背後の悪魔に向かって飛び出した。

「勝呂っ!?」

燐が振り向くのと、悪魔の頭部が弾けたのは同時だった。勝呂はとっさに身体を捻ったが、右半身に焼けるような痛みを感じた。
相手はそのまま、体液を撒き散らしながら突進してくる。
再び燐が剣を構えたその時、

「……の書を載するに耐えざらん…っ」

勝呂の致死節が完成した。
恐ろしい咆哮をあげながら塵と化していく悪魔を確認すると、勝呂はがっくりとひざを着いた。
まともに悪魔の毒液を被ってしまったためか、ひどい悪寒がする。

「おい!しっかりしろ!」

燐が駆け寄ってくるのを視界の隅で捕らえたのを最後に、勝呂は意識を失った。
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