リクエスト文

□きみのとなり
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きゆ様リク

きみのとなり(1)


「ばーかばーか!勝呂のばーか!」


顔を真っ赤にした燐は、捨て台詞を残して勝呂の前から走り去った。
突然大声で怒鳴られた勝呂には、何を怒っているのかさっぱり心当たりがない。しかし気にはなるので燐の後を追いかける。
と言っても、体力宇宙と言わしめる燐の足に追いつくわけが無いので、端から走る気はない。

だいたい、燐の行く場所なんて限られている。
祓魔塾の教室か、正十字学園の屋上か、男子寮旧館の自分の部屋だ。
予想の範囲を越えない行動も、小学生みたいな悪口も、どれも子どもっぽい。
いつもうるさいくらい懐いてくるくせに、一度機嫌をを損ねると、こうやって怒鳴り散らして隠れてしまう。
勝呂はもう怒るというより、もはやそういうものだという諦めの境地に突入している気がする。

だいたい、ほうっておけばいいものをわざわざ燐を探しに向かってしまう自分も、おかしいといえばおかしい。
初めは燐の剣幕に本気で焦ったものだが、どうも燐は勝呂が探しにくるのを待っているような気がするのだ。
それは勘違いかもしれないし、うぬぼれなのかもしれない。
でもとりあえず、勝呂はいつも燐の後を追う。

(怒らせたんは、俺みたいやしな……)

理由も聞かないままでは、気持ち悪いではないか。
勝呂は自分をそう納得させるのだった。



いつもならすぐに見つかる燐の姿が、今日に限ってなかなか見つからない。
はじめはのんびり構えていた勝呂も、だんだんと焦り始めてきた。

「あの阿呆、どこ行きよったんや」

学園内は広い。
いつもの場所にいないとなると、見当もつかない。
電話をかけようかとも思ったが、怒っている本人に居場所を聞いて、答えるとは思えなかった。
仕方なく、勝呂は一度自分の部屋に戻ることにした。
カバンを置いて、また出よう。




自分の部屋の戸を開けて、勝呂はぽかんと口を開けた。
散々探し回った相手がそこにいたのだ。ぶすっとむくれた顔をして。

「勝呂のばか!遅い!!」

ぎゃあぎゃあわめかれて閉口する。

「遅いて言われてもなあ。お前を探しとったせいなんやけど」
「お、俺が悪いっていうのかよ」

埒があかない。
勝呂が大きくため息をつくと、燐はそれに驚いたようにびくっと身を震わせた。

「一体どないしてん、今日は……。」
「…………」
「黙ってたら分からへんやろ。俺が何かしたんか?」
「……いっ」
「あ?」
「うるさいうるさいお前にはかんけーねえ!」
「なんじゃその言い草は!関係ない俺に怒っとるんか」
「すぐ帰ってこない勝呂が悪い!」
「はあ?せやから、探し回っとったちゅうとるのに!」
「別に頼んでねえ」


売り言葉に買い言葉というやつで、喧嘩をしたい訳ではないのに怒鳴りあいは止まらない。

「だいたいさっきからなんや!ひとのこと馬鹿呼ばわりしおって!」
「う……だって、それは勝呂が悪いんだぞ!」
「だから何が悪いか言えっちゅーとんねん!」
「っ、それは……っ」
「心配になったから、あちこち探し回ってんぞ!せやのに、なんでこんなとこおるねん」
「………さ、探してた?」
「そうや。気になってほっとかれへんわ」
「………」

ようやくお互いの頭が冷えてきて、二人は向かい合ったまま無言になった。
燐は落ち着かなげに目をうろうろさせている。
よく見ると燐の目は潤み、赤くなっている。

「奥村?目ぇ赤いで……?」
「う、うるへえ!」

途端に燐がごまかすようにごしごし目元を擦り始めたので、勝呂は慌ててその手を取った。

「やめえ、擦ったらひどなる」
「うっ…いいんだよ、そんなの!」

勝呂は紅くなった燐の頬を、そっと指でなぞった。

「泣くほどのことがあったんか…?」
「……っ、分かんねえのかよっ」

分からん、と正直に言うと、燐はきっとにらみつけてきた。

「今日!女の子とふたりで、仲良さそうに歩いてた!」
「はあ?」
「でれでれしやがって!ばか勝呂!」
「で……っ?そんなことしてへんぞ」

悪いが、全く身に覚えがない。
正十字学園は共学なので、当然クラスメイトに女子はいる。会話もする。
しかし今までそんなことで燐が怒ったことはなかった。

「いつの話やねん?」
「ひっ、昼休み……勝呂のクラスに行ったら、見たんだ」
「昼休みい?」

そういえば日直の子が、先生に頼まれたらしい大荷物を抱えていたので運ぶのを手伝った。
それはただの親切というか、女の子に重いものは持たせられないという身についた信条というか。
しかし燐はなおも言いいつのる。

「二人で仲良さそうにどっか行っちまって」
「はあ」
「めっちゃくっついてたし」
「ほうか」
「……勝呂、なんか俺のこと馬鹿にしてねえ?」

ついニヤニヤと顔が緩んでしまい、燐が不機嫌そうににらむ。
つまり、そういうことか。

「なんや、やきもちやいたんか?可愛ええなあ」
「!!」

途端、燐の顔が真っ赤になった。
自分の言葉の意味がやっと分かったらしい。

「昼も会いに来てくれたんや。メールでもしてくれたら待っとったんに」
「なっ、あ、会いに行ったわけじゃねえよ!ただ……」
「ただ?なんや」
「べ、弁当……多めに作ったから、一緒にどうかと思って」

今度は勝呂がびっくりした。

「なんやて!なんでそれ早よ言わんねん」
「だって!……勝呂に声、かけられなかったから……」

しゅんとうつむく燐に、勝呂は我慢できなくなった。
(ほんまになんで、こいつは……)
こんなに可愛いのだろう。
手をのばして、目の前の愛しい生き物を抱きしめる。逃げようとするのを許さずに、額に、頬に、そして唇にキスを落としていく。
初めは抵抗していた燐も、次第におとなしくなっていった。


…………………
すみません、一応付き合ってる前提で。
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