リクエスト文

□恋愛中毒
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恋愛中毒(2)

燐は部屋に入るなり、着替えもせずに自分のベッドにダイブした。
雪男はまだ帰っていない。今日も遅くなると言っていたから、夕食はどうしようかな、とぼんやり考える。

うつ伏せになり、自分の手を見つめた。…勝呂と繋いでいた手。
反対の手で手のひらをなぞり、さっきの勝呂の手の熱を思い出そうとしたが、うまくいかなかった。
勝呂の手は、燐のそれより少し大きくて、指も固くて、なんとなくごつごつしている。
その優しい手で勝呂に触れられると、燐はいつもめまいにも似た動悸に襲われる。

勝呂にされたキスを思い出したら、ふいに身体が熱くなってきた。
(すぐろ……)

ほんとは手を繋ぐだけじゃ足りない。もっと勝呂に触れていたい。でも、こんな風に他人と近い距離で接するのは初めてで、自分でもそんな衝動に戸惑いを覚える。

目を閉じて、そっとズボンの中に手を滑り込ませた。ゆるく立ち上がりかけた性器を撫でてから、おそるおそる握りこむ。
手を動かしていると、次第に燐の中心が硬さを増してくる。

「……うっ、……ふあ……っ」

もう何度こうやって、彼を想って自分を慰めたことか。
勝呂と付き合うまで、燐はほとんど自慰の経験がなかった。こんな風になった自分に一番とまどっているのは自分自身だ。

勝呂は真面目で、潔癖で。
だから多分、燐がこんな風に彼を汚しているとは思ってもみないに違いない。
軽蔑されたくない。
勝呂が自分のことを、大事に扱ってくれているのはよく分かっているのだ。

(どうしよう……)

勝呂が好きすぎて、頭がどこかおかしくなったのかもしれない。
勝呂も自分を好きでいてくれること自体、奇跡みたいなものだと思って嬉しかった。それなのに、自分はどんどん欲張りになる……。


絶頂に向かって手を動かそうとした時、不意に携帯が鳴った。ぎくり、と身体が強ばる。
見ると、そこには今、燐の頭の中をいっぱいにしている人間の名前が表示されていた。

勝呂は滅多に電話なんてかけてこない。
なにかあったのかと、慌てて通話ボタンを押すと、柔らかい声が耳に届いた。

『もしもし、奥村?』
「う、うん。何だ?どうかした?」

さっきまでの自分の行為が見えているはずもないが、後ろめたさに声が上擦ってしまった。

『どうもせんねんけど……今日、何か元気なかったなと思て。』
「え……」

わざわざそれでかけてきてくれたのか。
じんわり胸が温かくなる。

「そんなことねえよ。いつも通り」
『そうか。……ほんならええねんけど』
「うん。……?」

その後、なんとなく沈黙が落ちた。二人きりでいるときは、特に会話がなくても気詰まりには感じないが、電話だとどうしていいやら分からない。かといって、自分から切るのは躊躇われた。

『勝呂は、今何してんの……?』
「あー……。いや何も。お前のこと考えとったわ」

笑いを含んだ声だったが、不意打ちの言葉に、心臓がどきんと鳴った。
電話で顔が見えないからだろうか、そんな台詞を勝呂が言うなんて。

「ば、ばかやろ……恥ずかしいこと、いうな……っ」

電話越しなのに、耳元から聞こえる勝呂の声に、身体が甘く疼く。だめだ、と思うのに、燐の手は中途半端なままだった自分の性器に延びた。我慢出来なくて擦り始めてしまう。

「う……」
『奥村?』
「ごめん勝呂、もう切る……」
『は?どうしたんや』

荒くなってきた息を聞かれたくなくて、燐は電話を切った。明日怒られるかもしれない、とぼんやり思ったが、今の状態を知られたら困る。

「はあ……ふ……ふあ……っ」

終わったあとはむなしくなるのが分かっているのに、勝呂の声を思い出して手の動きを早めると、ほどなくして、燐は果てた。

達した後の疲労感に、ベッドの上でくたりと脱力する。
吐き出したもので粘つく手を目の前にかざすと、いけないことをした、という罪悪感が湧き上がってきた。

(俺、ほんとにどうしようもねえな……)

「勝呂……」
「なんや」

ため息とともに名前を呼んだら、ありえないことに、勝呂の返事が聞こえた。
燐はぎょっとして、身体を起こした。
目の前に、さっきまでの電話の相手がいる。燐は状況がつかめなくてパニックになった。

「え、え、ええ!?」
「お前が呼んだから返事したのに、何をそんなに驚くねん」
「え、だって、今、電話してた……よな?」
「ここの寮の前からかけとったんや。それやのに、お前が急に切るから…」
「寮の前!?なんで!?」
「……奥村のこと考えとる、って言うたやろ」

勝呂が燐のベッドに腰掛けてきて、燐ははっと今の自分が何をしていたのか思い出した。ぎゃあ!と叫んで、慌てて布団に潜り込む。
みっともない姿を見られたと思うと、恥ずかしくて死にそうだ。
情けなくて涙が出た。
ひく、ひく、としゃくりあげていたら、勝呂が上からぎゅっと覆い被さってきた。

「来るつもりはなかってんけど…何や気になって、来てみてよかったわ」
「……」
「ええもん見せてもうたし」
「なっ……」
「顔見せえ」

そんなことを言われても、出られるはずがない。自分を慰めていた燐を見て、勝呂は一体どう感じたんだろうか。
燐はぶんぶん首を振ったが、勝呂に布団をはぎ取られて、後ろから抱きすくめられてしまった。
涙がポロポロ出て、止まらない。

「ごめ……ごめん、俺…」
「何で謝るん……」
「だって、嫌われたく、ない…」

勝呂がふっと笑う気配がしたと思ったら、顔を引き寄せられてキスが降ってきた。

「んっ……ふ……」

最初は、恥ずかしさのあまり身体を強張らせていた燐だったが、キスが深くなるにつれ何も考えられなくなった。
今までしたキスとは比べものにならない。息が苦しくて離れたら、勝呂が燐を抱えなおし、正面から向き合う格好になった。
勝呂は手で燐の頭の後ろを支えると、再びくちづけてきた。
勝呂が燐の舌に吸い付くと、勝呂の口内に迎え入れられて夢中で舌を絡ませる。
唾液の混じりあう音に、燐は次第に夢中になっていった。
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