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□こころのかたち
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!注意!
勝呂がヒドイ話です。
暴力的表現があります。
閲覧は、自己責任でお願いします。
大丈夫!と言う方はどうぞ。
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「なんでサタンの子がここに在るんや!」
勝呂の叫んだ声が、耳から離れない。
自分がサタンの落胤だと知られたら、みんなは自分のことをどう思うだろうか、と考えてはいた。
だけど、あの時、そんな恐れよりも、皆を助けたいと願う気持ちのほうが勝った。
その事は今も後悔していない。
自分を見る目が、怯えや怒り、恐怖に満ちたものに変わろうと、自分自身は以前と全く変わらないのだから。
誰もが自分をサタンの子と呼ぶけれど、燐にとっての父親は藤本獅朗ただ一人であり、サタンはその仇でしかない。
それなのに、周囲は言うのだ。
サタンの落胤、サタンに纏わるもの。
俺はそんなんじゃねえ。
誰に何を言われようと、祓魔師になって、サタンを倒す。
そのためならこの炎だって使いこなしてみせる。
だけど、好きな人達に憎まれるのは、やっぱ辛かった。
こころのかたち #1
奥村燐の正体が露見して以来、祓魔塾での授業は皆とは別になった。
燐が最後に教室に行った時、京都組は病院で会えなかったので、怪我の状態はどうなのか、気にはなっても確かめる術がない。
実際、半年で祓魔師の資格を得ないと処分されると通告されている燐が、人の心配をしている場合ではないのかもしれない。
分かってはいても、燐は、会って無事を確かめたかった。
「どんだけ寝てんだ俺…」
教科書を開いたまま居眠りしてしまったらしい。
授業を聞いていても分からないものが、一人でやってて出来るわけないだろ、と課題をだした雪男に悪態をつく。
よだれを拭き拭き、枕代わりになっていた教科書をカバンに放りこむ。
これから塾に行き、シュラに出された課題…炎のコントロールを覚えなくてはならない。
だれもいない塾の廊下をだらだらと歩いていると、ふと目についたものがあった。
あれ以来踏み入れていない教室。
ほんの少し前まで、そこは燐の居場所だと思っていた。
(もう遅いし、誰もいないよな…)
覗くくらいならいいか、と。
ぎいい、と音を立てて扉を開けると、思いもかけないものが目に飛び込んできた。
そこには、見覚えのある、金と黒の髪の持ち主が、ひとり窓の外のほうを向いて座っていた。
(…勝呂!)
いつもきびきびと動いている彼には珍しく、ぼんやりと視線を空に向けていたが、燐の姿を認めたのか、驚いたように目を見開く。
燐は一瞬ためらったが、なるべく今までどおり聞こえるよう、声をかけた。
「ひ、久しぶり!勝呂、大丈夫だったか?」
「…おく、むら…」
その声がどこか苦しげに擦れているのを聞き取って、どきりとする。
あの時、勝呂はのどを潰されそうになっていた。まだ治ってはいないのだろう。
「病院行ったって聞いたけど…あれから会えなかったからさ、心配してたんだぜ」
子猫丸と志摩は?ほら俺、いま別メニューで特訓中だから、と必要以上にべらべら喋ってしまったのは、沈黙が怖いからだったかもしれない。
勝呂はこちらを見つめるだけで、何も言ってくれない。
「あ、今喋るのしんどいんだよな、ごめん俺ばっかり」
重い空気を誤魔化すようにへらりと笑ってみたら、低い声が返ってきた。
「なんで笑えるねん」
「え?」
「なんでそんなにへらへら笑ってられるねん、お前は!」
勝呂ががつん、と机を叩きつけ、叫んだ。
「なんで、って…」
「俺はサタンを倒す。そのために祓魔塾に入ったんや。」
「お、俺だってそうだよ!」
「サタンの息子がか?」
吐き捨てるように言われて、燐は言葉を無くした。
やっぱり無理なのかな。
今までどおり、友達やってくのって。
「騙す、つもりじゃなかったんだ…」
胸がいたい。
目の奥がつんと痛み、うつむいたが、下を向くと涙がこぼれそうになったので、顔を上げて勝呂を見上げる。
ここで泣くなんてできない。
たしかにずっと黙っていたのは確かで、何を言われても仕方ないのだから。
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20111025