□雨の日がくれた、幸せな時間
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「服は適当に準備するから、先にシャワー浴びてて」

「うん。ありがとう」

和ちゃんが去った後、脱衣場にて、服を脱ぎ浴室へ。
子供の頃から、何度もお泊まりしてるから、それなりに勝手を知ってる真鍋家。今日は、家族はまだご帰宅じゃない模様。

シャワー浴びてたりしてる内に、憂は帰って来るかな?

――――――――

あれから、相合い傘のまま、和ちゃんは家に送ってくれたのだけども。
お礼を言いつつ、扉を開けようと取っ手に手を掛けて、私は固まった。

なんということでしょう。

いつもは私の帰宅を待ってくれてる憂が、あずにゃんを送ってあげているためか、鍵が空いてないではありませんか。
つまりは、家に入れません☆

「鍵、開いてないの?」

「…そうみたい」

「合鍵は?」

「持たせてもらってません」

私も持っておこうと思ってはいたんだけど、憂が危なっかしいって、持たせてくれなかったのです。我ながら、情けない話。
和ちゃんは呆れながら溜め息を一つ。

「しょうがないわね。このままじゃ風邪引いちゃうから、取り敢えず私の家に行きましょう。憂には連絡しておくわ」

――――――――


そんなこんなで、今に至るのです。
久々に入る真鍋家の浴室は、懐かしいながらも、シャワーの高さに違和感があったりだとか。何度も一緒に入った浴槽は、一回り体が大きく成長したために、幼い頃より少しだけ狭く感じるとか。

「服、此処に置いておくわ。制服も一応、乾燥機に入れておくから」

「ほーい」

なんて、シャワーを浴びながら、幼い頃をほんのり思い出していると、和ちゃんが服を持って来てくれた。
扉のガラス越しに見える和ちゃんは、既に私服に着替えている。

「和ちゃんは入らないの?」

「私はいいわよ。大して濡れてないし」

残念。一緒にシャワーのかけ合いしたかったな。
やましい気持ちはありません。念のため。
暫くシャワーを浴びて体が温まった頃、私は浴室を後にする。

「おぉ、和ちゃんの私服」

準備されてたのは、シンプルでゆったりした無地のトレーナーとパンツ。
着てみると、洗剤の香りの中にもほんのり和ちゃんの匂いが残ってるのが分かって。思わず鼻を付けて嗅いでしまった。
ヤバい。これじゃ、変態だ。

突っ込むを入れるべく、自分の頭をポカリと叩いて、反省してから和ちゃんが待っているだろうリビングへ。

「どうも。お陰様ですっきりしやした」

「どういたしまして。憂は、もう直帰るって連絡があったわ。取り敢えず、髪乾かすから座って」

「うん。いろいろありがとね」

「はいはい」

勧められて腰を下ろすと、テーブルにはココアが淹れて置いてある。唯の分だよって言われて、有り難く頂戴する。

「あ〜、至れり尽くせりってこのことだね」

淹れ立てのココアは、飲むには適温。味は私好み。
加えて、大好きな香りに包まれて、大好きな人に髪を乾かしてもらってる(慣れてる所為か触れ方とかもの凄い心地好い)って。

至福以外、何物でもないよ。

「顔、もの凄い緩んでるわよ」

「幸せだから仕方ないのです」

顔が緩んだまま振り返ると、和ちゃんもなんだか嬉しそうに笑ってて。
その笑顔を見ると、もっと幸せな気分になる。

「ねぇ、和ちゃん」

「ん?」

「ここは天国ですか?」

数秒の間の後、笑顔のまま無言で頬を摘ままれた。

「痛い?」

「いひゃい」

「じゃあ、大丈夫よ」


それ、夢か現実かどうかの確認の仕方じゃないっけ?とかいう突っ込もうと思った瞬間。
つねった私の顔が可笑しかったのか、和ちゃんは吹き出す。
その顔があんまり楽しそうで、突っ込みとかなんかどうでもよくなって、私も笑った。

本来なら憂鬱な筈の雨がくれた、和やかで幸せな時間。

ほら、やっぱり。
雨の日も、悪くない。


End






















あとがき
前に書いた駄文の続きがなんかひょっこり湧いて出たので、まとめてみた。
何度もお泊まりってのは、私の勝手な妄想ですが、家近いなら、そんなことが有ってもいいと思うf^_^;
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