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□その怒りの意味は、昔から変わらない
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「ちょっと、律!?また書類出し忘れてるでしょ!?」
「ご、ごめんなさ〜いっ」
掃除当番で、ちょっと遅れて音楽室に向かっていると、聞き慣れた二人の声が。
りっちゃん、また何かの書類出し忘れたんだ。和ちゃんも相変わらずだな、昔から。
「やっほー、りっちゃん。和ちゃん。さっきぶり」
「あ、唯〜。助けてくれ」
扉を開けて入ってみると、叱られ中だったりっちゃんが泣き付いて来た。
和ちゃんは呆れたように、それを見ている。その中に、少しだけ愁いの色が見えたのは、きっと気の所為じゃない。
「もう、りっちゃんってば。今度は何を忘れたの?」
「部費に関する調査の書類よ。提出が遅れると、必要な部費を貰えない可能性があるの」
答えてくれたのは、和ちゃん。
りっちゃんや、それって結構重要な書類ではないですか?
「いや〜、最近忙しくってさ〜」
いや、お茶しかしてないよね。自分で言うのもなんだけど。
「それは言わない約束だろっ!?」
「ごめ〜ん。和ちゃんもわざわざありがとね。後で持って行くから」
「はいはい。ま、伝えることは伝えたから、私は生徒会室に戻るわね」
やれやれと言った感じに、和ちゃんは音楽室を後にする。
と同時に、りっちゃんが盛大な溜め息を吐く。
「ふぃ〜。普段はクールキャラなのに、怒ると怖ぇよなぁ、和って」
「え〜、怖くないよ〜。怒ったさわちゃんのが怖い」
「いや、それは比べちゃダメだろ?次元が違うっていうか」
刹那、二人して背筋が凍る感覚がしたけど、気の所為、多分。
「ま、まぁ、そういうことじゃなくてだな。ほら、普段クールなやつが怒ったりすると、ギャップがあるというか」
「怒った顔も好きだけどね」
「…へ?」
うぉっと、口が滑った。
まだ付き合ってるって秘密なのに。
「えっと、ほら、和ちゃんって、親切で怒ってくれてるって感じだから」
「まぁな。なんだかんだで、軽音部が今も在るのは、和のお陰だしな」
「そうそう」
理解して貰えたのが、嬉しくて、思わず顔が綻ぶ。
りっちゃんは、一瞬だけ何か言いたそうな顔をしたけど、直ぐにいつもの顔に戻って。
「んじゃ、和の親切を無駄にしない為にも、とっとと書類を書いちゃいますか」
机に向かって、書類にペンを走らせ始めた。その後、やって来た澪ちゃんとムギちゃんの協力で、上手く纏まった書類。
放課後。それを手に、私は生徒会室に向かう。自分が持って行くからって、皆には先に帰ってもらって。
「の〜ど〜か〜ちゃんっ」
名を叫びながら、勢いよく生徒会室の扉を開けると。和ちゃんは、呆れ顔で。
「他の人しか居なかったらどうするのよ?」
そう言って、苦笑した。
「書類持って来たよ」
「ありがとう。其処の書類の上に一緒に置いてくれる」
「はいよ〜」
既に提出されといたらしい他の部の書類と軽音部の分を重ねる。
「あの後。律、何か言ってた?」
和ちゃんは、書類から目を離さないけど、雰囲気に少しだけ後悔の色が見える。
やっぱり、ちょっと気にしてたのか。
「和ちゃんは、普段はクールなのに、怒ると怖いって」
「そう」
嘘は吐きたくなかったから、はっきりと言うと、やはりというか、僅かに顔が曇る。
「でも」
和ちゃんは、少しだけ顔を上げる。
「軽音部の為に怒ってくれて、感謝してるって」
だから、大丈夫だよって笑って見せると、和ちゃんの顔はようやく緩んだ。
「怖いって思うなら、学習して欲しいものだけど」
「まぁ、りっちゃんだし。でも私は好きだよ、和ちゃんの怒った顔」
その怒りは、人を想ってだって、知ってるから。
「変わってるわね」
そんな緩んだ顔で言われても説得力ないよ〜。
「多分、私は一番和ちゃんに怒られて来たけど、それは全部私の為で。自分勝手な怒りをぶつけられたことなんて、なかったし」
だから、好きだよ。
怒りの中に、優しさが含まれてるってことも、理解してるから。
「叱った分、反省はしてね?」
「してるよ〜」
言いながら、甘えるように後ろから抱き締めると。
呆れながらも、照れとか幸せそうな表情が入り交じった顔で。
「大人しくしててね」
って言われてしまった。
前に書類片付けてる時に、キスしたら怒られたことあったからね。
その顔は、怒りより幸せそうだったり照れててすっごく可愛いから、好きなんだけどなぁ。
さて。どうしようか。
私の我慢が限界を超えるまで、後少し。
End
あとがき
唯達がまだ一年って設定なので、梓は居ません。二年に上がる少し前くらい?←
律はなんとなく、二人の関係に感付いてます。
最終的に二人がどうなるかは、ご想像にお任せします。