□何処へ行っても、きっとこんな感じ
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「二人共。必要な物は、全部確認した?」

ロンドンへ旅行に出掛ける数日前。平沢家にて、お土産は何がいいかとか、他愛のない話をしていた時のこと。
真面目な和先輩が、心配そうに(主に唯先輩に目を向けて)言った。

「ばっちりだよっ。憂も確認してくれたし」

「私も、大丈夫だと思います」

「大丈夫、二人の荷物は私がしっかり確認したから」

「そう。なら、大丈夫か」

三人の返答に、和先輩は苦笑しながら、納得した様子。
流石、憂の信頼率は凄い。

「梓ちゃん。ロンドンは霧の街って呼ばれてるから、唯がはぐれないように目を離さないであげてね?」

和先輩は、本当に唯先輩が心配なんですね。

「了解です」

「え〜!?私はぐれたりなんかしないもん。…多分」

多分って。
そんなんだから、和先輩も心配するんですよ。

「じゃあ、お姉ちゃんは梓ちゃんが霧の中に迷い込まないように、見てあげてね」

「がってんです」

何ですか。その自信は。
っていうか憂も、迷い込まないようにって、猫じゃないんだから。
そんなゆるい感じで談笑していると、唐突に。

「ところで、私達のハネムーンは、何処が良いかな?」

唯先輩が、言った。
丁度お茶を啜っていた和先輩が、辛うじて吹き出すことは免れたけど、盛大に噎せている。

「けほっ、こほっ」

「だ、大丈夫ですか?」

きょとんとしてる唯先輩は、何もしてあげないので、慌てて私が背中を擦る。
もう。貴女の所為な上に恋人なんですから、此処は唯先輩がすべきでしょう。

「ありがとう、梓ちゃん。…唯、ハネムーンの意味知ってる?」

「知ってるよ。新婚旅行だよね?」

「唯、私達は……」
和先輩が言わんとしてることは、良く分かる。それでも、唯先輩は。

「私が行きたいだけだよ。和ちゃんと、あずにゃんと憂と。法律上の関係とか、関係ないよ」

あっけらかんと。笑顔で。それが、当たり前のように。
唯先輩らしいな、そういうの。和先輩も、参ったというように、フッと笑ってみせた。

「それに、ムギちゃんが、婚儀の際は御一報をって言ってたよ」

はい。シリアスぶち壊し。
只単に、法律上許されてる海外で式を挙げるつもりでした。この人。

「それって、私達もOK?」

ちょ、憂!?

「どんとこいですって言ってた」

何だか二人が盛りあがっちゃってるのを、和先輩と一緒に苦笑して。

「はいはい。取り敢えず、気は早いですけど、四人で行くなら、何処に行くかって話ですよね?」

このままでは、埒が開かないので、婚儀云々の話は置いといて。話を進めることに。

「そうそう。和ちゃんは何処に行きたい?」

「え?私?」

話を振られた和先輩は、まだ少し戸惑っている様子だった。そういえば、卒業旅行の話が上がった時。

「確か、以前はモヘンジョダロとかマツピチュに行ってみたいって言ってましたよね」

偶然会った書店で確か、そんなことを言ってた気がする。ってあれ、言い間違えたかな。

「もへ?…まつ?」

「あぁ、世界遺産の。外国にある都市遺跡だよね」

聞き慣れない言葉に、唯先輩は頭から煙を出しそうな勢いで混乱してる。
対称的に、憂は理解出来たらしい。

「モヘンジョダロとマチュピチュね。確かに、そんな話もしたわね」

「そうそう、マチュピツ」

「マチュピチュ」

「あれ?マツピチュ?」

和先輩は口を押さえて震え出した。あの日のことを思い出して、声を殺して笑っているらしい。

「笑わないで下さ〜い」


恥ずかしい。穴があったら入りたい。

「梓ちゃん可愛い」

憂も思いっきり顔緩ませて目を輝かさないで!?恥ずかしいから。

「むぅ。知らない内に、二人きりで逢ってたなんて…」

ちょ、唯先輩?何を言ってるんですか、この人は!?

「偶然、書店で逢っただけですっ。話を戻しますよ、もうっ」

またしても話が在らぬ方向へ飛んで行ってしまったので、無理矢理話を戻す。

「そうそう。マチュピチュとかって、憂の言った通り都市遺跡なのよね。他にも観光スポットはあるかもだけど、私は良いけど皆はつまらないかも」

先程の笑いを堪えていた時の涙を拭いながら、和先輩は言った。

「私は構わないよ、和ちゃんさえ隣にいれば」

「でも、朝晩はかなり冷え込む上に、昼は暑いらしいから、唯には向かないかも」

「なら、朝晩は抱き締めて暖めて上げる」

「いや、私じゃなくて唯が…って、ちょっと!?」
唯先輩はこんな風にと云わんばかりに、ギュッと和先輩を抱き締めて、いちゃいちゃし始めました。和先輩、口では抵抗してるけど、ちっとも嫌そうじゃないし。
…もう、勝手にいちゃいちゃしてて下さい。

「憂は何処に行きたい?」

「え?う〜ん…いきなりは思い付かないかな。梓ちゃんは?」

少し唸った後、憂は私に話を振ってきた。

「私は、アメリカかな」

両親がジャズやってたから、本場のジャズって、凄い興味あるんだよね。

「アメリカかぁ。確か景色が綺麗な国立公園が沢山あったっけ。そんな所で梓ちゃんと一緒に過ごせたら、素敵だねっ」

「うん。ロマンチックだね」

思いの外好感触で良かった。

「こんな感じに、さ」

と。憂は、私に寄り掛かり、そっと手を握って、私に笑い掛ける。
その顔が幸せそうで、私も自然に頬が緩んだ。
それから私達は、想い合ってる大切な温もりを感じ合っていた。
旅行の話は何処へやら。

でも。
何処へ行っても、私達は、きっとこんな感じなんだろうな。


End




























あとがき
映画見てないから、設定変だったら、ごめんなさいm(_ _)m
てか、最終的に旅行関係ない(・_・;)

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