□素でタラシって、困り者です
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その日は、軽音部のメンバーが、何かと用事があるとかで、早めに解散した。
だから、生徒会室にいきなり押し掛けて、驚かせようと思ったんだ。

なのに。
其処で繰り広げられる会話に、驚いたのは、私の方。

「私、前から好きだったんです。真鍋先輩のことが」

生徒会室前に辿り着いた途端、扉越しに聞こえる告白。
しかも告白されてる相手は、私の恋人。している側は、恐らく生徒会に関わりのある後輩。

聞いちゃいけないとも思った。でも、和ちゃんが、どう返すのかが気になって。結局、動けない。
暫く間を置いて、和ちゃんの声が聞こえた。

「ごめんなさい。貴女の気持ちに応えることは出来ないわ」

やんわり、それでもはっきりと。

「でも、好意を持って貰えたのは嬉しい。だから、ありがとう」

そして、傷付けないように優しく、真っ直ぐな言葉を。
その後輩も、諦めがついたのか。潔く引き下がり、諦めの意を示す言葉の後、挨拶を交わしてその場を去るために歩き出す。
足音が此方に近付いて来たのが聞こえて、慌てて無意味に壁に張り付いた。
幸い、逆方向に行ってくれたみたいだけど、端からみたら、酷く間抜けだっただろう。


気付かれなかったことにホッとして、溜め息を吐いていると、部屋の中からも、小さな溜め息が聞こえた。
なんか、モヤモヤする。嫉妬ってこんなものなんだろうかとか悶々として。こんな気持ちのまま顔を合わせるのもどうかなとか考えて。入ろうかどうか、少し躊躇ったけど。やっぱり一緒に帰りたいから、軽く深呼吸して扉を開けた。

「あら。唯、どうしたの?」

直ぐに此方に気付いた和ちゃんは、さっきのこと等まるでなかったかのように、平然と書類を処理していた。

「えへへ、一緒に帰ろうかと思って」

だから私も、動揺を見透かされないように、平静を装う。

「そっか。もう少しで終わるから、ちょっと待っててくれる?」

「…うん」

取り敢えず邪魔にならないように、書類でもこっそり覗き込もうとか考えていたら、和ちゃんはチラリと此方の様子を伺って、口を開く。

「さっきの告白、聞こえてた?」

「っ!?なんで、分かるの?」

「幼なじみだからね。っていうか、唯の動きギクシャクしてるし」

分からない方が可笑しいんじゃないって、貴女は苦笑してる。
こっちの気も知らないで。
「もしさ、私がまだ告白してなかったら、さっきの告白、受けちゃった?」

だから、私の不安を分かってもらおうと、後ろからギュッと抱き締めながら、出来るだけ弱々しく言ってみる。
和ちゃんは動じることなく、ふっと息を吐いて。

「仮に唯との今の関係が成立してなくっても、告白される度に誰かさんの顔が頭を過って、他の人の告白は受け入れられないでしょうね」

なんて、書類から目を離さず、さらりと言って退ける。
遠回しに、前から好きでした発言。和ちゃんの発言ってたまに卑怯だ。
それが素だから、破壊力は抜群だし。

「和ちゃんのタラシ〜」

悔しくて、そのままゆさゆさと体を揺らす。
そんなんだから、皆に好かれちゃうんだ。そんな和ちゃんが好きなんだから、どうしようもないけど。

「…タラシって、あのね」

不意に、振り向かれて、頬に手を添えられたかと思った瞬間、唇に柔らかなものが触れた。

「ふぇ?」

「もう少し掛かるから、大人しく待ってなさい」

呆然とする私に背を向け、貴女は書類へと意識を戻す。
暫く惚けるしか出来なかったけど、ふと我に返り、さっきの柔らかな感触を思い出しながら、耳まで真っ赤な後ろ姿を見ていたら、嫉妬なんて感情は、遥か彼方遠くへ飛んでった。

でも、一緒に意識も半分飛んでって、真っ赤に火照った顔を彼女の背中に埋めたまま、暫く動けなかった。























あとがき
最後の和の行動は、こんなことあんたにしかしないわよ的な意味を込めてます。
てか。さっきタラシの意味調べたら、たぶらかすとかだますとか酷い意味で吃驚しました。
異性(この駄文の場合同性ですが)とかにふらふらしてる軽い意味で使ってたのに(・_・;)

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